エヴァグレイス
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イザクと解散し、アルル(服は同じのを買い直したが帽子はない)と合流。必要最低限の道具を(主に、寝袋やファイヤースターター『火を起こす道具』、食料など)でかいリュックに詰め込んで空へと飛んだ。
これから未開の地で、数ヶ月を過ごすのだが不思議と不安感などはない。自分が強いが故の慢心ではなく、それは間違いなく隣でぎこちなく空を飛ぶアルルが居るからだろう。
耳や尻尾を風で靡かせ、一生懸命に空を飛ぶアルルを見てリガルは言った。
「なんで、あの湖に行くんだ?」
アルルは、出発する時にリガルに一つ頼み事をしていた。それは、初めて出会った湖に行く事。なにやら、会わせたい子がいるだとか何とか。
「懐かしいな」と、辿り着いて懐かしき日に思いを馳せてみれば、アルルが裾をクイクイと引っ張った。
「どうした?」
湖から視線をずらしてアルルを見ると「あの、ですね?」と、上目遣い気味にアルルは、見上げて先にある太い木を指さした。
「そこに何かがいるの?」
「はい、です」
清々しい風に両者の髪は、ゆったりと靡いた。自然の香りは、気持ちを穏やかにさせるのには最適だろう。リガルは自然の素晴らしさを体全体で噛み締め、歩き出した。
「で、何がいるんだ? 敵か?」
杖を木に向けると、焦った様子で首をふるった。
「ちがう、です。悪い子じゃない、です」
「魔族じゃないのか?」
「少し大きい、トカゲ……です?」
「そんなものが」と、半信半疑で着いた太く高い木を見上げた。しかし、鳥の囀りや虫の音しか聞こえない。
──やはり、そんな生き物は居ないのではないだろうか。
隣に並び木を一緒に見上げているアルルを見てみると、両手を胸元へと運び──そして、数回手拍子をした。
──刹那。
木が慌ただしくざわめいた。鳥が羽ばたくだとか、威嚇の為に木を揺らすとかではなく。その音はまるで、木から落ちて来たと思ってしまうほど、激しいものだった。
「おお! 友よ! 来よったのか!」
古風な口調で貫禄のある声と共に、見たこともない生き物が目の前に現れた。
流石のリガルも、目を数回擦り見直すほどに珍しい生き物だ。
確かにアルルの言っている事は正しい。翼を翻し宙に浮かぶ、小さく青いそれは見た感じトカゲだ。些か鱗がトカゲに比べ鋭く荒々しいが──目や鋭い牙に赤黒い瞳、加えて長い尻尾は限りなく近い生き物だと思わせる。
だが、喋るトカゲなんか聞いた事ないし、魔族でもない。まさに未知の生物だ。リガルは、謎の生物を見たまま直立し黙考した。本当に危なくないのか、自分が忘れているだけで、本当は何度も遭遇している生き物類なのではないか──
しかし、いくら考えても思い出す努力をしても頭には何も浮かばない。
「こやつ、動かぬぞ?」
青いトカゲは、リガルの周りを警戒する様子もなく飛び回る。翼の翻し聞こえる音に意識を向けて、指をさし口を開いたら。
「このトカゲ、本当に危なくねーのか?」
「トカッ! 貴様! 事もあろうに、この儂トカゲなど……ッ」
怒りに満ちた様な声音だが、アルルの頭に降り立ち翼を畳み言われては緊張感に欠ける。これで分かった事は、トカゲに敵意がない事だ。
「じゃあ」と、アルルと対面しリガルは会話を続ける。
「お前は何者なんだ」
リガルの淡白な問に満足したのか「フン」と、鼻を鳴らした後に、鍵爪が三本生えた翼を広げた。
「よくぞ聞いてくれた。儂こそが、水竜・エヴァグレイスなり!!」
「いやいや、いやいやいやいや」
何十回も顔の前で、手を扇ぐ。
いくらなんでも、無理がありすぎるというものだ。神にも近き物が、こんなに小さいはずがない。もっと、筋骨隆々で威厳に満ちて、荘厳たる物を感じざるを得ない生き物に決まっている。
目の前のそれは見るからに、スライムのようなペットっぽい立ち位置だ。
呆れ混じりに否定をしてみると、ショックだったのか声のトーンを一つ二つ下げて話し出した。
「儂はここが気に入っておっての。普段は、湖と一体化しとったんじゃよ。しかしある日、大人の人間が四名ほど溺れよった」
──あれ、それって。
リガルがエヴァから、目線を落としアルルをみたら目を逸らした。
確信犯か。
「聞いておるのか?!」
翼をバタバタと動かし、不満を吐露したエヴァに目線を戻し「ああ、すまん。で、話を続けてくれ」
「良かろう。溺死する分には構わんのだ。糧となるからの。しかし、奴らの場合は毒を所持しておった」
確か、弓が二人居た。なるほど、つまり、鏃に毒をつけて魔族を──
「流石にそれでは、湖の命が死んでしまうでの。儂が喰うたんじゃ」
「な、なるほど」
「儂らは消滅はせん。だが、死は平等に訪れる。それこそ、自然と共に──世界と共にあるんじゃ」
「じゃあ、世界が滅びれば」
「当然、儂らも死ぬ」
どうにか話は反らせそうだ。
「なるほどな。で、話は変わるんだが」
「なんじゃ?」
「アルルとは」
「友じゃ」
エヴァの声に反応したアルルが、尻尾を振りながら短くうなずいた。
「ですっ」
「友?」
アヴァロンに送ってきた手紙に書いていた奴がエヴァって事だったのか。と、腑に落ちたリガルは、経緯などを聞いた。
「ならば、聞くがよい」
──エヴァは、懐かしむように、頷きながら数分間、口を休めず語り続けた。
たまたま、子供達はイザクに連れられて湖へキャンプに来た時、アルルが弱っていたエヴァを救ったらしい。
夜中に抜け出しては、夜ご飯の残りを与えたり飲み物を渡したり。そこで一気に仲良くなったようだ。様々な話をする中で、アルルが会わせたい人がいるとの発言をし、エヴァは快く受諾。
今に至るという訳だ。
だが、水竜の力を借りれるなら──思ってもいなかった好機にリガルは、杖を強く握って口を開く。
「エヴァ、俺達についてきてくれないか?」
「着いていくってどこにじゃ?」
エヴァの問に、アルルが口を開いた。
「アル達の国、です」
「ふむ? 何故に儂が行く必要があるんじゃ」
翼を畳み、尚もアルルの頭上に止まるエヴァは、さして感情も込めず疑問を吐露した。
「それは──」
言いにくそうなアルルを見て、リガルは我先に口を開いた。
「エヴァの力を貸してほしいからだ」
「儂の力……じゃと?」
「ああ」と、短く頷いて。
「俺は今、人類と魔族に対して宣戦布告をする準備をしているんだ」
「ほう」
思い出話をしていた頃に発していた声は、一気に豹変し冷たさを増した。加えて、鋭い双眸は瞼を細めた事により、刃のような斬れ味をもたらす。
「儂を、争いの道具にすると?」
物凄い威圧感だ。底知れぬ力を持っている【竜種】。機嫌を損ね、先頭を余儀なくされた場合、勝てる保証どころか逃げれる保証もない。
ただならぬ緊張感に、リガルはゆっくりと喉を鳴らした。
「違う」
「何が違うのじゃ?」
「これは、必要な戦いなんだ。全てを一から始める為に、終わらせる必要のある戦いであり復讐なんだ」
「今から行く、アルルの母国は人と魔族によって滅ぼされた。同様に、エルフが居た島リバーバルも。今の世の中は、恐怖を利用しのさばっている奴らが美味い思いをしてるんだ」
一呼吸置いて──
「全てを壊し、一から皆が歩める世界をめざしたい」
「じゃが、それだとオヌシが悪となんら変わらぬのではないか?」
さっきよりは、声に落ち着きが戻っていた。
「変わらないじゃない。悪でいいんだ。俺は今までだって、多くの命をこの手で奪ってきた。クズ野郎だよ」
左手を自分の瞳に写し蔑むと、アルルはその手を握って首を左右に振るった。
「違う、です。リガにぃに助けられた人は一杯居る、です。アルみたいに」
「アルル……」
必死な彼女を見て、リガルの胸には熱い何かが込み上げる。
「ほう。なるほどのう。つまり、オヌシが我が友を救ってくれた恩人という訳じゃな」
「んな綺麗なもんじゃないけど」
「儂の恩人の恩人となれば、断る事も出来まい。力を貸すとは限らぬが──良かろう。儂はこれより、オヌシらに着いてゆこうぞ」
「本当か?」
「竜に二言はない。それに、人の子の王が、世界を脅かしておるのなら、儂も……まあ、よいか。では、早速行こうではないか。友の島へ」
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FGOが、クリスマスイベでアストルフォきゅんきますね!
ぁあ、アストルフォきゅんの剣を早く使いたいでし!!メンテ頑張っていただきたい!!