仲間
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ファルルにある病室に辿り着き、いまだ昏睡状態にあるミューレを初めて見た。
イザクが言うには、我が身を顧みずに炎の中に飛び込み子供達を探したのだとか。確かに、今の彼女は見るに堪えない痛々しい姿だ。
水は被ったらしいが、それでも髪の毛の大半はなくなり、顔や体に巻かれた包帯は、赤く滲んでいる。病院に勤める白魔道士の回復呪文をもってしてもだ(冒険者で例えれば白等級並だが)。
他の子供達も同様にベッドで眠っていた(一つのベッドに二人)。
それをリガルは今知った。たった今知ったのだ。此処に来たのは二回目の筈なのに。眉間に皺を寄せて、歯を食いしばり拳を強く握って視線を伏せた。
助けられなかった悔しさじゃない。助けてくれた、良くしてくれた相手に対して無礼極まりないないと思ったからだ。
「ミューねぇ……」
アルルはミューレ達を見て、リガルの裾を柔らかく握り、尻尾をしだらせ、長くふさふさなミミを伏せていた。とても辛そうだ。
「イザク、ごめん。俺」
壁によりかかり、腕を組むイザクに頭を下げる。すると「よっと」っと、小さく声を出し壁から離れると、ゆっくり歩いてきては肩を叩いた。
「謝る事じゃないだろ。その子は、君にとって大切な人なんだ。やるべき事を成した。誇りに思っていい」
落ち着いた声や穏やかな目線が、リガルを自己嫌悪から遠ざけた。
「そうだな。アルル、ちょっとごめん」
アルルの手をゆっくり解いて、杖で地面を叩く。
「範囲超回復魔法」
リガルの足元を中心に、白い魔法陣が展開し発光している。それは、淡い光を伴った柱となり、皆を包んだ。暖かく優しく慈愛に充ちた光の柱は、ミューレや傷ついた子供達の傷を癒してゆく。
「よし」と、杖を離し、魔法陣が消えた頃には昏睡状態にあるミューレ達の傷は完璧に癒えていた。
そして、改めて口を開いた。
「俺は明日、獣人達が居た島・グローリーに行く」
「グローリー? そらまたどーして」と、後ろに立つヒュンズが、平坦な声で問う。
リガルは一度頷き、アルルの頭を軽く撫でてから、皆が見える場所まで移動し口を開いた。
「俺は数日間だがワールドトリガーを務めていた──」
王都アヴァロンでの出来事を、先程のマルカから聞いた話を、つまりは思いの丈を話した。
ロストやリバーバル、秘密保持の為に無罪の奴を有罪にし死刑を行う現状等──
──仮染めの平和の事を。
数分程度じゃ語りきれない話を、ヒュンズやイザクは嫌な顔せずに聞いてくれた(アビスとかは寝ている)。
「俺は、グローリーでアルルから力を授かる」
「それで?」と、腕を組んだままイザクは、リガルの目を見て問うた。
「まずは、グローリーに住む魔族をぶっ倒し、転生させる。ビーストテイマーの力で」
「で、どうするんだ?」
ヒュンズも疑問が多いいのか、椅子に座りリガルを見上げて問いかける。リガルは、二人の凝視に息を呑んだ。
──変な緊張感が襲う。
「王都アヴァロンを攻める」
「はあ」と、先に溜息を吐いたのは、首をやれやれといった様子で振るうイザクだった。
「何がおかしい?」
「おかしくはないよ、アルフレッド君。でもね、考えが浅はかすぎるよ」
「だな」と、ヒュンズも便乗し頷いていた。
「いいかい? アヴァロンは、言わば王家にとっての要だ。騎士もいれば金等級冒険者も集っている。それも、ガリウス様に言いくるめられた、ね? 上空の敵に対処できるように、高い壁の上には黒魔道士だってわんさかいるし、海上からの入口は一つしかない」
「だから、そこを一気に」
「あのね、戦ってそんなに甘くないんだよ。君の気持ちは十分分かるけどさ」
全てを否定された気がした瞬間、歯軋りが鼓膜を掠めた。
「じゃあ……じゃあ! 何もするなって言いたいのかよ!」
抑制の効かない声が、唾と共に飛び出す。床を踏み鳴らし、腕は空を横に切っても尚──
イザクは表情一つ変えず、眉ひとつ動かさずに言った。
「そうじゃない。そうじゃないんだ。戦いには、手順があるんだよ」
「なんでそんな事がイザクに」
「なんでって、言ったろ? 元貴族であり騎士の家系だって。騎士にとって、戦法は重要であり、一番大切だし、戦に於いて欠かせないものだ」
得意げに人差し指を天に向けるイザク。伝えたいことがさっぱり分からない。
「つまり、何が言いたいんだよ。アヴァロンは、まだ攻めるべきじゃないって事か?」
「そうだね。だから、オレも君について行くよ」
「は?」
「まあ、俺は最初っからついて行く気、だったけどな」と、ヒュンズも立ち上がる。
「ヒュンズさんまで、なぜ?」
二人を交互に見ていると、イザクの頬が少し緩む。
「きっと、ミューレさんも君について行くだろう。オレはね、騎士じゃ護れない者を物を護りたい。その為に冒険者になったんだ、親と縁を切ってまで」
「そこまでして……」
「そして、マルカは力な気もの達を、そして罪なき人々を苦しめ、居場所を奪った。ヒュンズさんから、色々聞いたからね。この世界を変えると言うのなら、オレは知恵の実となろう」
「俺は、命を救ってくれた恩に報いたいし、仲間を殺したアイツらを許せねぇ。ただそれだけだ」と、野太い言葉に威圧感をのせ、拳で手のひらを叩いた。
「皆、本当にいいのか?」
リガルの問に皆が頷き、少し離れていた場所にいたアルルはちょこちょこと向かってきてはリガルの脇にピタリとくっついた。
「良かった、ですね」
耳がぴこぴこ動き尻尾を左右に動かすアルルは、暖かい笑顔をリガルに向けた。
「アルルも、ありがとう」
見上げるアルルの頭に手をのせ、柔らかい毛並みを感じながら撫でた。
「むふふ、です」
「俺は、白等級、俗に言う修行時代にゃあ大工もよくやったからよ! 役に立てるぜ?」
「ヒュンズさん、それなら俺もやりましたよ」と、リガルが賛同すると、イザクは肩を上下に動かし微かに笑い声を発した。
「ははっ。オレもやったよ。と言うか、やらされた? そこで眠るミューレさんにね」
「ミューレさん」
「妖精ちゃん……」
今思えば、ミューレが居たからここまでこれたと言っても過言ではない。彼女がアメーバートードの依頼を回してくれて、ミューレと出会い、ミューレが金貨をがめったが故に孤児の事を知った。
色々な思い出が脳裏を過ぎる中、リガルの回想をヒュンズの言葉があ邪魔をする。
「ぷ……ちょっと、ヒュンズさん? この状況で妖精って! ぷぷ」
「確かに……と言うか本当に妖精って呼ばれてるのね……ぷぷ」
「お、おい! 俺は四十だぞ! 年配者を!」
「もー煩いッスね……病室では静かにって言われなかったッスか?」
弱々しくも、嫌味ったらしく聞こえた声に皆が一度視線を交わらせた。そして、一斉にミューレが寝ているベッドへと目線を向ける。
「妖精ちゃん!!」
「妖精さん!」
「おはようございます、妖精さん」
「妖精、さん?」
「よし分かったッス。貴方の冒険者権限剥奪、決定ッスね。この無職どもが」
「それもいいな。ミューレさん、聞いて欲しい事があるんです──」
話別のアクセスを見て、読まれていると分かりどうにかモチベが保てています。本当、ありがとうございます




