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想い

読んでいただきありがとうございます

 月明かりが海面を照らす中、高度を上げず、遅い速度で空を飛びを移動していると「うっ……」と、喉を詰まらせたような声がリガルの毛穴を開く。


 ──良かった。目が覚めた。


 その実感がリガルにとてつもない安堵感を運んでくれたのだ。


 微かに伝わる視線に目線を手繰り寄せられれば、青い瞳がリガルを見ている。状況がまだ掴めていないのか、虚ろな目をしたアルルは、どこか朦朧としていた。


 リガルは、落とさぬようにしっかりと抱え正面を見直して刺激をしないように、ゆっくりと話す。


「よく、頑張ったな」


 ここでやっと、自分が置かれていた状況を理解出来たのだろう。リガルの長袖(黒い肌着)を震えた手で掴んだ。


「りが……にぃ。ごめんなさい、です……」


 ホッとし、涙を流すだとか、鼻声だとかではないようだ。リガルが思うに、この震えた声は──


 恐怖し絶望し死を悟った。


 そんな辛く痛く悲しい、出来事がまだアルルの心を掴んで離さないが故に出たものなのだろう。


「謝るなよ。それに大丈夫だ。もう離れないから」


 怒りや悲しみを押し殺し、リガルは平たんな声でそう言った。強く抱き抱え、そう言った。


「ありがと、です……でも……フーちゃんが……フーちゃんが……」


「魔石は無事だ。スライムが、アルルの場所まで導いてくれたんだよ」


「フーちゃん……」


 ここで初めて、リガルの腕が濡れて涙を流した事を理解した。


 自分の場合は謝り、他者のためには涙を流す。この子は本当に優しい子なんだろう。


「時間が経てば、復活するのだろ?」


「…………ない、です」


 掠れた声に、耳を凝らしたが聞こえなかった。


「もう一回、言ってくれないか?」


「戻らない……です」


「なんでだ?」


「黒い魔石が復活するのは、生き物が抱く負の感情が再び溜まるから、です」


「ふむ」


「ですが、転生させた魔石──浄化したものには負の感情は宿らない、です」


「つまり、ビーストテイマーが再び魔力を込める必要があると?」


「ですです」


 ──なるほど。


 ならば、リガルは覚悟を決める必要があった。限界突破レボルシオンをアルルに付与する事を。彼女が、リガルのように復讐の火を灯し悪に染る可能性がある。

 その時、自ら殺す覚悟を──


 分かっていた。他人の気持ちを重んじれるアルルが過ちを犯すことはないと。


 ──しかし、それでも。


 心と言うのは強くなく、強固でもない。弱く柔らかいものなんだ。今は大丈夫だとしても、アルルの心の中には今も、国を滅ぼされた悲しみが宿っている。

 情緒が安定しない中で、限界突破レボルシオンと言う選択は間違っていないのだろうか。


 眉頭には皺を寄せ、口の端を噛み締める。すると、人の体温よりも少し高い温もりが、片頬を暖めた。


「りがにぃに、話がある、です」


「どうした?」


「アルの力は、一家相伝いっかそうでんです」


「うん」


「けれど……アルの家族は──国は……死に、滅んだ、です」


「────」


 腕からアルルの悲しさを感じるのと同時に、かける言葉も見当たらず心には変なモヤモヤが残る。


 ──いつか、覚悟していたはずの言葉だったはずだ。


 それでも、いざアルルの口から言い放たれると言葉が喉でつっかえる。何も考えてなかったわけじゃない。リガルは、アルルの寝顔を見る度、子供達と戯れるアルルを見る度──


 色々な状況、状態の時、欠かさず考えていた。だが、そのどれもこれもが今のアルルに対して持ち出す言葉とするなら──


 安すぎる気休めにもならない言葉だ。


「そして、アルには家族から託された想い──力が使えない、です」


「それなら俺がっ」


 依然と片頬に手は触れたまま、アルルが首を振るったのを腕越しに感じる。


「アルは、知ってる、です。りがにぃがいつも苦しんで悩んでた事。ミューねぇと一緒になって、アル達が居た国の事を調べてくれていた事も──」


「それは……」


「だから、決めた、です」


「何を──?」


「アルの力を、りがにぃに託すです」


 リガルはアルルの言葉に首を横に振り応えた。


「何を言ってるんだ。アルルもさっき言っただろ?大切な家族に託されたものだと」


「りがにぃ?」と、鈴の音のような優しく穏やかな声が、リガルの心を宥める。


「アルにとって、りがにぃは大切な家族、です。もう一つの帰るべき居場所……です」


「それは詭弁だ」


「違うです。ママは、言っていたです。この力は、自分の大切な人に託すように、と」


「それは同じ種族でだろ」


「大切に思う気持ちに、エルフも人もアル達も関係ない、です。アルにとって、大切な人は──りがにぃ、です」


 ──アルル。


「だから、この力で悪者を……世の中に苦しみを運ぶ悪者を倒して欲しい、です」


 慰める所か、逆に励まされた。リガルは、自分の不甲斐なさを悔やみながらも、息を大きく吸い込んだ。そして、目を鋭く尖らせ決意を顕にする。


「任せておけ。俺が全てを変えてやる」


「さすが、りがにぃです」


 頬をゆっくりと指先でなぞり、アルルは手を自分の胸元に置いた。瞬間、頬から感じる風の冷たさに寂しさを感じたリガルは、アルルを胸に抱き寄せる。


「りが、にい?」


 びっくりしたのか、声が上擦ったアルルにリガルは声を震わせる。


「助けられなくてゴメン。守ってやれなくてゴメン。いつも、気を使わせて。いざという時、そばに居なくて。怖い思い、辛い思いをまたさせて──ゴメン」


 リガルの言葉に、抱き寄せられ体を緊張させていたアルルがゆっくり身を委ねた。


「謝る必要、ないです。りがにぃ?」


「なんだ?」


「こーいう場合は、一緒に『ありがとう』です」


「そう、だな」


 鼻をすすり、うっすらと笑みを浮かべた。


「じゃ、いっせーのーせーで」と、アルルが声を出し──


「ありがとう」


「ありがとうです」


 二人は互いに互いを感謝した。


「じゃあ、少し飛ばすぞ」と、アルルを胸元から離そうとした瞬間、服をギュッと強く握った。


「このままが、いいです」


 か細く弱々しい声音を聞いて、リガルも納得をした。


「そ、うか。そうだな。それの方が安全だ」


「はい、です」


「じゃあ、つかまっとけよ!!」


 空を蹴り飛ばし、リガルは一気に加速した。皆が待つ──家族が待つファルルへ向かって。

ランキング上位って。物凄い破壊力あるんすね。あれは凄い。

俺もいつかは載ってみたいものですな!と言うか、このすばの映画見ましたが、あれはクソ面白かったww

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