決め事
浮遊魔法と加速魔法を付与して、リガルはイザクが教えてくれたように西へ飛んだ。
風をけたましい音を立てて切る中で、魔石を強く握り願い続ける。
お前の大切な主を助ける為に力を貸してくれ、と──
どれだけ願ったか、どれだけ強く握ったか、爪が皮膚にめり込み、手からは血が滴る。そんな時だった──
翡翠色の光線が、一本の線を描く。同時にリガルは息を大きく吸い込み、堪らずに叫んだ。
「良くやったスライム!! 俺とお前で救ってやろうぜ!!」
空を蹴り飛ばしより一層加速し光の先へと向かった。大陸を超え、線が示しているのは浮かぶ小さな島だ。リガルは、高度を落とし海面を風で波立てながら進む。
慌ただしく畝る波に、跳ね上がる水飛沫や風を切る音が鼓膜を埋め尽くす中で──
それでも、殺意を込めた双眸が、鋭い眼光が目的の場所を穿ち、心の中だけは義憤で血を滾らせていた。
島に到達すれば、高い木々はなく平野が続いている。リガルが先を見ていると、そこにあったのは古びた教会だ。
眼前に捉え、数メートルの所で足を教会に向けスピードに任せて蹴破った。激しい炸裂音と埃が立ち込めるが、リガルの怒り狂った感情と共に噴き出した魔力に、全てが吹き飛ぶ。
「な、なんでここが!?」
驚いた様子を浮かべるマルカの先には、裸体で十字架へ磔にされているアルルの姿があった。
痛々しく、惨たらしく──その姿はあった。
「お前が……お前達がぁあ……ッ!!」
呻き声にも似た怒号が、リガルの震えた喉から解き放たれ、マルカは後退りをする。
「あらま。こりゃ、まずい。では、私はお暇もらいやすぜ」
「え、それは、タナス様!! ──ひぃっ!」
マルカが教壇を背中で叩き、声を上擦らせた時には既にリガルの顔が目の前にはあった。
「ま、待て! 話! 話をしよう! そうだ! お前が欲しがっていたであろう情報をやる!!」
「情報……だぁあ?」
「ああ! 調べたところ、お前は元ワールドトリガーの息子だろ!? あれは、殺された! シーカー達の手によって! それだけじゃない! 俺達は魔族と結託してたんだ!! 生贄を捧げる事で、王家に危害は加えないと!」
「で、だからどうした?」
リガルはマルカの首の根を掴み持ち上げる。
「ひゅっ……ま、まで! ほ、本当なんだ……」
「超治癒魔法」
磔にされているアルルに唱えて、リガルはマルカを壁に投げつけた。
「グハッ」
「痛みに悶えるのはまだはえーよ」
顔の脇を足で蹴り踏み、マルカに顔を近づけ睨みつけた。
「早く続きを話せ。嘘をついたら分かるな?」
「わ、分かった! 獣人の島を滅ぼしたのも、エルフの島、リバーバルを滅ぼしたのも、俺達と魔族が手を組んでなんだよ!」
「何故そんな事をした?」
「詳しくは分からない! だが、ガリウスが恐れていたのは確かなんだ!」
「恐れていた?」
「あ。ああ」と、頷き震えた唇をマルカは動かし続ける。
「エルフや獣人には、特殊な能力がある。それが後々、人の世を脅かすのではないか──と。だから、魔族と結託したんだ。初めはリバーバルだったらしい、その時に反対をしたのがお前の」
「お前?」
「り、リガルさんの親御さんだ!!」
「つまり、ガリウスは人の世を護る為に自分勝手な妄想を膨らませて、島国を滅ぼし、俺の両親を殺したって事だな?」
「そ、そうだ」
「なるほど」と、リガルがアルルに視線を向けた刹那、足を払いマルカは馬乗りになる。マルカがリガルの首を掴むと、狂気に満ちた甲高い嘲笑いが鼓膜を刺激した。
「あひゃ! あひゃひゃ! ばーか! 油断してんじゃねーよ! このまま貴様の魔力を全て吸い取ってやるわ!!」
右手が熱を帯びているのが首から伝わる。
「なるほど。お前の右手が杖に備え付けられた魔石の役目を担ってるのか」
「そーだよ!! 俺達は、体に魔石を幾つも埋め込む事で類まれない力を」
「へ~で?」
リガルは、別に苦を強いられる事もなくマルカの腕を掴んで立ち上がる。
「な、なんでお前にはそんな力が」
「俺がお前に教える事は、なにもねぇよ。あ~でも、一つだけ。お前の力は“類まれない”じゃない。俺の力こそが類まれないんだよ」
リガルは尻もちをつくマルカを蔑視し、嘲笑う。
「あー、そうそう。魔力が欲しいんだろ? くれてやるよ。思う存分、喰らうがいいさ。魔力讓渡」
リガルの魔力が腕を通してマルカに流れてゆく。腕に埋め込まれた魔石は、真っ黒に輝き吸い続けた。
「ま、まて……」
暫くして、尻もちをついているマルカの体は小刻みに震え、目から赤い涙が流れ始めた。
「なんだ? 遠慮するなよ」
マルカの顔は、穴という穴から血を噴き出す。体で維持できない程と魔力が、暴走を起こしているのだろう。
黒いナニカがビスケにやった攻撃だと、リガルはこの時分かった。もし、彼らに生前があるとしたのなら、白魔道士だったのかもしれない。
「だのぶ、ぼう、むりだがら!」
「何言ってるか、わかんねぇーよ。ほら」
「バギャッ」
短い断末魔が響き、至る所から血を噴き出しマルカの顔は床についた。リガルは見下すと、真っ赤に染まりきった顔に杖を翳す。
「回復されたら困るからな。破邪の鉄槌」
白く小さい球体(ホワイトホールとも呼ぶ)が、マルカの上半身を呑み込み消えた。
「だが、これで全ては繋がった」
気を失っているアルルの元へ歩み寄り、十字架からおろし自分のローブをかけてだき抱えた。安らかに眠るアルルの口から顎にかけて、こびり付いた血を拭い──
そして、怒りと憎しみに満ちた声で、囁いた。
「俺が腐った王国や魔族に宣戦布告してやる。その為に、成すべき事を成す」
読んで頂きありがとうございます。
ラブコメを書き始めたんですが、難しいですねww




