魔力食い
活動報告にコメントを下さったか、ありがとうございます。そちらだと返信が出来ないので、前書きで伝えようと思いました。えたらずがんばります!w
「いいぞ坊主!!」
「俺は、大穴のお前に最初っから、賭けてんだ!そのままぶちかませよ!」
「次はハウンズか? 新参者に負けんなよ!」
観客席が騒ぐ中、シーカーは一向に対戦相手の名前を呼ばない。顔を仰いで見れば、騎士数名と話している。
気になりヤナクを見れば、小首を傾げる反応を示した。どうやら、下まで情報が届いていないようだ。
「次の対戦相手だった、ハウンズだが……死亡が確認された」
突然のシーカーから告げられた言葉に、辺り一体は戦慄に包まれた(主に帰属側)。
「一体なにが!?」
「まさか、あの化物の仕業か?」
「いやそんな事が」
「誰だ! 誰がハウンズを殺した!」
「さては、あの赤髪の騎士が勝たせまいと!」
──は?
言い掛かりに、リガルは耳をピクリと動かし睨み上げた。
貴族達が立ち上がり、好き勝手に犯人探しをしていると、シーカーが銅鑼を鳴らす。
「黙れ! ガリウス様が居るのだぞ! 情けない!」
怒鳴り声に貴族達は黙り、面白かったのか冒険者達はクスクスと肩を揺らす。
「原因はコチラで探る。よって、最後はリガルとマルカ!」
連戦のメリット・デメリットとして、バフが維持出来る事と、魔力の回復が出来ないことにある。
現状で、リガルにかかっている付与魔法は──
魔防御
魔力向上魔法
魔力超向上魔法
腕力向上
加速魔法
浮遊魔法だ。
マルカの魔力も測定不能と聞いているが、リガルだって測定不能の魔力に倍率がかかっている。早期決着を狙えば、ゆうに勝てるはずだ。
──いける。
自分を説得させ、右手で掴む杖を強く握り歩いてくるマルカをギリッと見つめた。
「杖はどうした?」
手ぶらのマルカは、魔法を使わずに勝てるというのだろうか。嘗められたものだ。
無言を決め込むマルカに苛立ちを覚え、吊り上がった目を睨みつける。
「では、両者──準備はいいな?」
「はい」
「いつでもいいぜ」
「開始!!」と、銅鑼の音が響く。
リガルが足に力を込める前──
つまり、戦闘態勢に入る数秒前にマルカの声が先をいった。
「付与魔法解除!!」
「は?」
体を襲う脱力感と共に、まだ一歩も動いていないマルカを見た。正確には右手をリガルに翳してはいるが、それだけだ。ただそれだけだ。魔力が練られた気配など微塵もない。
「ほら、立ってると死ぬぞ?」
「くっ!」
リガルはとりあえず、回避に専念する為走り出した。けして速いとは言えないが、突っ立っているだけではいい的だ。
「これがマルカの」
「ああ、生で見るのは初めてだが噂は本当のようだな」
「魔力を練らずに、魔法を発動できる──魔力食い」
「魔力食い? なんだよそれ」
「なんだ、知らねぇのか? 相手の魔法を喰らい、自分の魔力に上乗せする。マルカ特有の力だよ」
「シャナクみたいなものか?」
「力だけならシャナクをゆうに上回る。それに、相手の魔力を使うだけなら、練らずに魔法を使えるんだ」
「つまり、ほぼ零秒で魔法を?」
「ああ、そうなるな。ワールドトリガーの連中は、各々、バカ強い固有スキルを持っているんだ」
「こりゃあ、赤髪の分が悪い、か」
観客席が何やら騒がしいが、耳を傾ける暇もない。
リガルは、走りながらマルカの動向を伺う。一向に目で追う事も、先程みたいに手を翳す行動もとりはしない。ただ、目を瞑り静寂を保っていた。
──ならば。
リガルは、杖の先端を向けて唱える。
「閃光弾」
白い輝きが、光線状になりマルカを襲う。直撃した閃光は、弾けた。
「よし」
致命傷になるとは思っていない。寧ろダメージなんか大して食らってはないだろう。だが、距離を詰めるには十分事足りる。ただ一瞬の目くらましになればいい。
──だが。
「閃光弾」
「なっ!?」
直撃したはずのマルカは、傷一つない。それどころか、眼前に迫る閃光。リガルは、どうにか真横に跳躍し回避をした。
「あぶねぇ……」と、肩から伝わる鈍い痛みに眉を顰め、視線を向ける。
肩の部分が黒く焦げて、血が滲んでいた。判断を、見誤れば顔が吹っ飛んでいたに違いない。マルカは間違いなく、平然と立ちながらも、リガルを殺す気概だ。
「ほれ、次は何をしてくる?」
腕を組み余裕な様を見せつけ、リガルは軽く舌打ちをして睨み付ける。
殺す気概がありながらも、マルカは攻撃を先に仕掛けてこない。何か秘密があるに違いない、そしてそれが──
勝つ為の切り札になるはずだ。
リガルは走った。マルカの周りをグルグルと走り続け、背後に周り魔法を唱える。
「拘束魔法!!」
光りの輪がマルカを拘束したのを、リガルは瞳にしっかりと捉える。畳み掛ける絶好のタイミングだ。魔法を唱えようと立ち止まった次の瞬間、倒れ込んだのはリガルだった。
「ぐふっ」
理解が追いつかないまま、手足を見ると光りの輪がリガルを拘束している。逆に無傷で立つマルカは、リガルにジリジリと近づいた。
「絶対的な自信があったみてぇだが、お前は俺に勝てねぇーんだよ。分かったか?」
下卑たものを見る目で見下し、怪しく口角を吊り上げ嘲笑う。
「何言ってるか分かんねーな? と言うか、顔をどけろよ。お前の頭が陽に反射して眩しくて堪らねーんだよな」
負けじとおちょくり蔑むと、マルカの目は冷め切った。
「あーそうかよ」
リガルの顔に手を翳し、感情もない声音を発する。
「じゃあ、死ねよ。一生、光を見ずにすむようにな。破邪の鉄槌」
殺意と同時に魔力が練られるのを感じ、付与魔法解除を唱え、即座に体を回転させ難を逃れた。
リガルが倒れていた場所は、真っ白い球体が地面を音もなく抉る。
「なんだよ、まだ苦しみたりねーのか?」
ゆっくりと体をリガルに向けるマルカは無表情だ。
「馬鹿か? 俺は全く苦しんじゃいねーよ」と、即座に立ち上がり笑みを浮かべながら額を滴る汗を拭う。
リガルはこの時、マルカに対して違和感を覚えていた。手を翳した時、魔力を練らずに発動をしていれば、間違いなく痛手は負っていたに違いない。
──だが、マルカは魔力を練った。
なぜ、態々。殺すつもりでいる男が、態々、逃がす行動をとるのだろうか。
距離をとりながら、リガルは考える。どちらにしろ、まだ決定的な手がかりがない。今は探る為にも攻撃に専念しなければ。
「やはり、自分からは来ないのか……なら!」
リガルは、杖を天に翳して叫ぶ。
「フォトン・レイン!」
光の矢が容赦なくマルカに降り注ぐ。
「だから、無駄だ」
手を上に翳すと、矢は消失する。
「フォトン・レイン」
またも、リガルと同じ魔法だ。敢えて同じものを使い馬鹿にしているのか。あるいは、リガルの魔法をコピーしているのか。
──いいや、ありえない話だ。
「んな事よりも……!」
範囲魔法は逃げること自体が難しい。だからこそ、パーティーでは重宝されるのだが、今は状況が違う。隙になるが仕方ない。リガルは、天に杖を掲げた。
「魔法反射」
リガルの頭上に展開された透明な壁が、フォトン・レインを弾いて辺りに飛び散る。
「隙だらけだ。消えてしまえ」
やはり、マルカは魔力を練る。
「うお! 魔法を使えるやつは魔法反射を使え!」
「下手したら怪我人が出るぞ!」
観客席が騒ぎ出し、リガルは後ろへ退きながら見上げた。そこにはフォトン・レインから逃げる貴族達の姿があったのだ。
「なるほどな」
観客席にかけていた筈のバフが消失している。加えてリガルの魔法を真正面から受けても無傷。
開幕の付与魔法解除は、ここに来る前に予め、観客席に対しての付与魔法を吸収していたのか。
ならば納得のいく話だ。リガルは、矢が突き刺さり穴が空いた壁を触り、勝気の笑みを浮かべる。
フォトン・レインが効力を失い消えた刹那、魔法反射も役目を終えた。見計らったかのように、マルカはリガルを正面に手を翳す。
「消し飛べ。ドラコ・ブレス」
熱も冷たさもない、真っ白い炎がリガルを襲う。
──だが、遅い。
「加速魔法」
リガルが横へ駆け、ドラコ・ブレスは壁で炎を立ち上がる。
「避けた所で、お前の攻撃は意味をなさない」
「それはどうかな?」
リガルは、マルカに向けて特攻。
マルカも許すはずなく、付与魔法解除を唱えるが、リガルは魔法反射を唱え相殺させた。何もせずとも、魔力を練らずに魔法を発動できるリガルにこの場は分がある。
マルカが付与魔法解除を唱えようが、距離は縮まり、詰める事こそがリガルの狙いなのだ。
「接近戦に持ち込むきだぞ?!」
「なるほどな。魔法がダメなら物理か」
「けど、白魔道士の腕力なんかたかがしれてるだろ?」
「違いない。腕力向上を唱えた所で、魔力食いが魔力を食らう」
「いい作戦だったが、無謀か」
風を切る音が鼓膜を満たし、瞳は眼前にいるマルカただ一人を捉えていた。
辿り着く寸前、リガルは自分に付与した加速魔法を付与魔法解除で消失させる。
一気に減速した反動で、マルカの服は後ろへ激しく靡いた。
「何っ!?」
「やはり、右手に秘密があんだな?」
魔法を警戒し、右手をリガルに向けようとした瞬間、右手首を強く握る。
「動か……なっ!?」
焦りをうかべるマルカの表情を、見上げて拳を強く握る。
「吹き飛べ……ッッらぁぁ!!」
下から振り上げた右拳が、マルカの顎先を抉る。
「ぐ……はっ!?」
「まだまだ!! 加速魔法」
「浮遊魔法」
倍速と浮遊を付与し、リガルは飛び上がるマルカの先を行く。
「っらぁ!!」
体を空中で回転させ、踵を腹に叩き込む。
「ぐふっはっ!!」
嘔吐し白目を向いたマルカが、次は急降下。しかし、そのスピードの先をいくリガルは先に地上に降り立つ。
「右手が使えなきゃそんなもんかよ!?」
足首を掴み、振り回し壁めがけてぶん投げる。既に気絶しているのか、なすがまま飛ぶマルカを追いかけ杖をかざした。
「トドメだハゲ頭。ホーリー・フラム」
マルカの腹部中心に光が集まり、爆発音と共に一気に弾けた。
リガルは一応、自分にかかった付与魔法を解除し、壁にめり込んだマルカの元に向かう。
「…………」
泡をふいて、マルカは気絶をしている。その光景を見たであろう、観客席もざわめきを隠せないでいた。
「勝者──リガル=アルフレッド!!」
シーカーの発言に、闘技場の熱量は一気に爆発し冒険者達は立ち上がり拍手を喝采させる。
「すげーよ! つか、魔法じゃなく腕力で圧倒するとかお前とんだ化物だな!」
「いやそれだけじゃねぇよ! 機転の利かせ方が全くちげぇ。一人で金等級に上がったのも納得いくぜ!!」
慌ただしくなる中で、ヤナクは静かに駆け寄り肩に手を載せた。
「大変だった?」
心配そうな様子で隣に立つヤナクに、リガルは首を横に振って答える。
「んや。正直、大したことなかったな」
マルカが騎士に連れられ、すれ違う瞬間「お前の事は絶対に許さねぇ」と、脅されたが負け惜しみだと、リガルは聞き流す。
ワールドトリガーともあろう男が情けないと、背に蔑視を向けているとシーカーが声を張り上げた。
「ではこれより、勝者リガルにガリウス様がお言葉をくださる!一同、礼!」
読んで頂きありがとうございます。次章からタイトル回収の方へはいります。長々と、待たせてすいませんでした!