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エルフなき島に向かって

2019/11/20に、ブクマ100件超えました。これも、皆様が興味を持ってくれたおかげです。本当にありがとうございます!

 人に尋ねながら、どうにか辿り着いた立派な宿に入り手続きを済ませた。

 此処は冒険者達が使う専用の宿らしいのだが、ファルルも見習って欲しいものだとリガルは思う。清潔感もあり気品も溢れ、柑橘系の匂いが心を安らげるのだ。酒臭くも脂臭くも汗臭くもない。


 ──素晴らしい。


 だが、同時にヤナクが言っていた『生きるのに必死』って言葉も理解ができた。王都アヴァロンは、飲み物一杯だけでも、外と倍近く違う。その金を稼がなくては生きていけないのだから、必死にはなる筈だ。


「リガル=アルフレッド様、お手紙が一通届いております」


 丁寧に名前を呼ばれた後。受付の女性から、手紙を受け取り宛先を見れば“ガリウス=キュース”となっていた。


「ありがとうございます」と、軽い会釈をし案内された部屋に着いては、ブーツを脱ぎ捨て杖を立て掛け、ベッドへ仰向けに倒れ込んだ。


 そして、自分の手をリガルは眺めた。


「血の匂い……取れねぇな」


 宿に入る前に、手は何度も洗ったのだが幾重も付着した血のにおいがこびりついていた。匂いを辿り、ビスケやユミル達を殺した日の夜なんかは、嘔吐や幻覚幻聴に襲われ苦しかったのを思い出す。しかし、今はそれすらない。


 心を痛める事も後悔することも、かと言って自分の行いが善だと開き直っているわけでもない。


 ──心が壊れていくのをリガルは感じていた。


 震えもしない手をぎゅっと握り、額にのせて目を瞑る。静かで穏やかな時の流れに身を任せると、徐々に意識が遠のいていった。


「手紙は……起きたら書こう。今日は色々と……」


 それから暫くして、扉がノックされる音で目が覚めた。何かと思い、目を擦りながら扉を開けると、そこには息を上げたヤナクが立っている。


「え、なんで此処が?」


 ボヤボヤとした意識の中で訊ねると、膝に手をついて不規則に肩を上下させるヤナクは窓を指さす。


「今日は、大事な日──なんだ、ろ?」


 指先に導かれ、窓を見ると外がとても明るい。


「やば。ちょっと中に入って待ってて」


 そそくさと、洗面所に向かい歯を磨き顔を洗い、濡れた手で髪をたくし上げる。


 頭皮が引っ張られ、気持ちがいいのだ。


 風呂に入ってない事が心残りだが、仕方がない。身支度を手っ取り早く済ませ、椅子に座っているヤナクの前に立った。


「準備は出来たの?」


 見上げるヤナクに、リガルは短く頷く。


「ああ。気を使わせてゴメン」


「謝る事ないさ。これも騎士の勤めだから。じゃあ、歩きながら話そっか」


 立ち上がったヤナクと共にリガルは、外へと出た。


「なんで俺の居場所が分かった?」


 早歩き気味で、横にいるヤナクに問いかけると間髪入れずに口が開く。


「そりゃ、冒険者の宿は此処しかないからね。習わしとして、タグがついた者は皆、あの宿なんだ」


「へぇ」と相槌を打つと、ヤナクは横目でリガルを見る。


「昨日は、ありがとう。目が覚めた時、ミー婆の家でビックリしたけれど、話を聞いたら、リガルが助けてくれたってね」


 少し微笑むヤナクの横で、リガルは首を振るう。


「気にする事はない。俺こそ、わざわざ起こしに来てくれて」


「違うよ。これは、僕の任務だから」


「任務?」


「そうだよ。今日、リガル達は試合をする為に、この島を離れ──もしかして、手紙、読んでないの?」


「え、ん、ああ。気がついたら寝てて。あははは」


 ヤナクは、頭を抱えて左右に振るった。


「長旅とか、僕の事とかあったもんね。端折って説明すると──」


「うん」


 行き交う人々を縫い、港に向かっている事は分かった。だが、一体何処に向かうのだらろうか。


「僕達は、一応──護衛という任でリガル達に一人~三人程度つく話になったんだ」


「なるほど。で、ヤナクが立候補してくれたのか?」


「と言うか、僕だけだったね。皆、リガルが負けると思ってるんだよ」


「と言うと?」


「自分達が護衛した冒険者が勝てば、騎士としての知名度もあがるからね」


 ──なるほど。


 リガルがヤナクの肩を叩き、鎧が鈍い音を響かせた。


「よかったな、ヤナク。お前は、一躍有名人だよ」


「はははっ。なに、リガル。もう勝った気でいるの?」


「当たり前だろ、負ける気がしないもんよ」


 鼻をさすりながら、恥じることなく言ってみたら「でも──」と、真面目な様子でヤナクは会話を続ける。


「油断はしない方がいいよ、リガル。慢心しておごるは、騎士の恥じとも言うからね。対戦する相手を見るからに、かなり有名な冒険者達だよ」


「そうなのか?」


「うん」と頷いて──


「聖剣使いのシャナクを筆頭に、ワールドトリガーに一歩及ばずも、金等級屈指の白魔道士達だよ。リガルは、彼等と連戦しなくてはならない。エルフなき島──リバーバルで」


 トーナメントとか言っていた気もしたが、変わったのだろうか。それに、エルフなき島・リバーバルも聞いたことがない。つまり、嘗てはエルフが住んでいたが、移住をして島だけが残ったって事なのだろうか。


 色んな疑問が頭に過ぎる中で、あまり考え過ぎても意味がない。と言う解に至った。


「そうか。そんな強いんだな」


 リガルは、ヤナクの言葉に恐怖や不安感を覚えるのではなく心を踊らせる。


「驚いた。リガルは、まったく自分が負けるとか思ってないんだね」


「ん? どうしてだ」


「だって。その表情からは、強い自信しか感じないよ」


 言ってる事は正しいし、何より負ける事が許されない戦いだ。


 リガルは、拳を強く握り気合いを込める。


 そんなこんな、話をしていると港へとあっという間に辿り着いた。港は、先日のような活気ではなく熱気が篭っている。


「聞いたか? 金等級になったばかりの新参者がワールドトリガーに啖呵たんかをきったんだってよ」


「誰が勝つと思う?」


「そりゃあーマルカだろ」


「いやあ、シャナクがもしかしたら」


「シャナクは確かにつえーが、ハウンズだって中々だろ!?」


「ああ、星弾せいだんのハウンズか……」


 原因は、漁師達よりも騎士や冒険者達の数が多いい事だろうか。


「すげぇ人の数だな」


「これだけ、注目されてるんだよ。冒険者リガルさん」と、ヤナクがからかい気味に笑うもんだから、リガルは強めに肩を叩いた。


「うるせっ。だが、まあ……やってやるよ──成り上がりってやつをな」



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