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進み続ける物語

五万文字到達しました。十万文字までもうちょっと!

 船から降りて、リガルは港を歩きながら、長く息を吸いこみ、静かに吐き出した。


 潮の香りが鼻腔を満たし、水門から吹く潮風が髪を荒っぽく撫でる。とても清々しく良い気分だ。これで、あの連中がいなければ完璧だっただろう。リガルはゴワゴワした自分の髪の毛を手櫛てぐしで、整えつつ口を開いた。


「此処は、本当に凄い賑わいですね」


 先頭を歩く、ヤナクにリガルは無意識に話しかけていた。港ならではの、力強い活気がある。魚を水揚げしている漁船や、指示をする漁師の逞しい声や鳥の鳴き声に波の飛沫しぶき。レンガ調の建物は、潮風でやや朽ちているが、味があって尚いいとリガルは思っていた。


 ヤナクは一度、顔だけを向けて笑顔を作る。


「それは嬉しい限りですね。僕自身が褒められているみたいで」と、鼻をこすって答えた。


 ヤナクはなんだか、先程の騎士達とは違い好戦的な感じがしない。それどころか、物腰の柔らかさすら感じていた。


 声音も好青年ぽくて、短く整えられた黒い髪は誠実さをイメージとして与える。体型は、鎧を装備しているので分からないが顔から判断するに太ってはいないはずだ。


 身長もリガルと変わらないし、なんだか似たようなものをヤナクに見ていた。


「ヤナクさんって」


「ヤナクでいいですよ」


「じゃあ俺の事は、リガルと呼んでください。寧ろ、対等な言葉で話しませんか?」


 数歩先を歩くヤナクの背をみてリガルが問う。ヤナクは困ってか、恥ずかしくてかは、分からないが後頭部をポリポリかいた後に頷いた。


「では、よろしくねリガルッ」


「こっちこそよろしくッ。ヤナクはさ」


「ん? 何かな」


「なんと言うか……他の連中とは違うよな」


「あー、ね。皆、手柄をたてるのに躍起になってるのさ。生き抜く為にね?」


 少し声に悲しさが篭っていた。


「生き抜く為?」


「そうだよ。手柄をたてれば名誉が与えられて、お金も増えるし、出世もできる」


「ヤナクは出世したくないのか?」


「僕は別に、出世とか興味ないから。皆が幸せで安心できるのならそれでいいのさ」と、横顔を見せたヤナクは微笑む。


「変わってるな」


 リガルの問に、前を向いたヤナクは軽く笑う。


「ははっ。確かに他からしたら僕は、変わり者かもね。まあ僕の家系は貴族じゃなく、平民だからね」


「平民?」


 すれ違う人の肩にぶつからないよう、避け後を追うリガルが言葉を繰り返す。


「そう。三年くらい前かな。僕が十五の時──」


 どうやら、同い年らしい。


「直談判したのさ。僕も騎士団に入れてくれって騎士が休憩する詰所にね」


 見た目によらず、豪快な事をする男のようだ。リガルだったなら、絶対に出来ないと思った。


「初めは門前払いだったんだけれど──」


「うん」


「ほら、リガルの名前とか何で分かったと思う?」


 そうだ。何も知らない筈のヤナクは、見事に来た場所も名前も言い当てていた。不意をつかれて、声が少し上擦った事を思い出す。


「魔法か何か?」


 ヤナクは首を横に振るう。


「僕の固有スキル【心眼しんがん】のおかげなんだ」


「心眼?」


「うん。まあ、大したものじゃないんだけどね。箱や壁の先にある物を見る事が出来るんだよ」


 確かに物凄いものでもなさそうだが、声には出さずに口を開いた。


「いや、凄いと思うよ」


「はは。まあ、有難く貰っておくよ。その心眼のお陰で貨物の中身を確認できる。それが買われ、無事騎士になれたんだ」


「なるほどな。なら、結構な手柄なんじゃないか? 言うなれば、ここの都で謳歌する命を守っているのだから」


「いいや」と、明るい声でヤナクは否定する。


「僕に命令をしてるのは、さっき居たナズさんだからね。僕の手柄って訳にはいかないのさ」


「は? それじゃあ、ヤナクは」


「良いんだ。さっきも言ったろ? 僕は民が幸せならそれでいいのさ」


 見返りを求めず、民の事を思う。同い年だが何処か遠い場所に感じ、リガルは素直に尊敬した。


「ほら、ここからが王都──アヴァロンさ」


 立ち止まったヤナクが、体をどかしリガルに風景を見せる。


 門の先に見えるのは、華やかな都だ。人口も相当だが。それよりも、誰もが高そうな服を着ている。


「お、ヤナクじゃねえか。案内か?」


 その声に横を見れば、見上げるほどに大柄な騎士を筆頭に四名がニヤニヤとしていた、飲み物を片手に。(残りは、騎士と言うより、どこにでもいるような冴えない男達)


 近寄って来た男の臭いから察するに酒で間違いないようだ。


「はいそうですっ」


「んじゃそれ終わったら俺ん所の手伝いよろしくな」


 大柄な騎士が威圧感を込めた言葉を発すると、ヤナクは目を一瞬そらした。


「え、いや、この後は、ミー婆に壁の修理を」


 ヤナクの言葉を、騎士がズイと顔を近づけ遮る。睨みをきかせて「は? 市民の手伝いなんか金にならねえだろ。お前は、俺達の言う事をきけばいいんだよ。分かったか?」


「でも、あの人、体も弱いし」


「なら尚更だろうが! な!?」


 力強くヤナクの肩を叩き、騎士は威圧的な笑みを浮かべた。拍子に肩は竦む。下を向いて、拳を作るヤナクの口がゆっくり開いた刹那、リガルは騎士の手首を強く握った。


「肩から手を離せ、屑が」


「おい、なんだ貴様。市民の分際で、騎士に逆らうのか?」


「で、だからどうした?」


 リガルの力に逆らって、ヤナクの肩から手を離そうとしない騎士の腕は、力を込めているのか震えている。リガルは、お構いなしに徐々に握力を強めた。


「ちょ、リガル。僕は大丈夫だから」


 慌てふためく声を出すヤナクの視点は定まらず、騎士とリガルを行き来していた。彼は本当に優しいのだろ。


「手を貸す相手を間違えてはダメだよ、ヤナク。コイツらにその価値はない」


「なん、だと……?」


「事実を言ったまでだ。酒浸りになり、ヤナクを利用し手柄は自分のってか?ふざけんなよカスが」


 次第に肩から手は離れ、同時に騎士の表情は苦悶に満ち始める。


「チィッ!!」


 無理やり肩を引いて、リガルの手を振り切り騎士は(わざと手放した)睨む。


「貴様!! この都で歩くなら夜道に気をつけるんだな。騎士が法って事を教えてやる」と、手首をおさえて騎士は言った。


「冒険者は、物覚えが悪いんだよ。その時はよろしく頼むよ──」と、一歩前に出て、騎士に顔を近づけてリガルは睨みをきかせる。


「色々と……な」


「くっ……」


 体を引く騎士を鼻で笑い、振り返ってヤナクを見た。


「よし、じゃあこのまま王宮へ連れて行ってくれ! もし俺も手伝えたら、婆さんの手伝うよ」


 ケロッとしたリガルの態度に、ヤナクはついていけないようで声を吃らせた。


「え、いやでも……」


「気にすんなよ。先に約束したんだろ?」


「うん」


 短く頷いたヤナクの肩を軽く叩く。


「なら、優先しなきゃ。お前が守りたいのは、腐った!! 騎士の秩序よりも民の声──なんだろ?」


「そ、そうだよな」


 ヤナクは、睨んでいる騎士を見て頭を下げた。


「すいません。やっぱり、先に用事を! その後に必ず手伝います!」


 暫く頭を下げ続けるヤナクを見下し、一向に口を開かない騎士を見て、リガルは杖でレンガでできた道を叩く。


 音に気がついた騎士は、ヤナクとリガルから背を向けた。


「好きにしろ」


 捨て台詞を吐いて、去っていった。


 ──ダサすぎる。


「よし、じゃあ行こうか」


「ありがとう!」


 ヤナクは、微笑みながら手を差し出す。


 リガルも頷いて、差し出された手を握った。


「気にするな。それよか、早く行こう」


「そう、だねっ」


 そこから暫く歩き、リガルの目の前には一つの目標である王宮が姿を魅せる。


 それは物凄かった。恐ろしいほどに輝かしいほどに聳えるそれは素晴らしかった。


 大理石で出来た石段の脇には、彫刻された長い円柱が建てられている。ここに来るまでは、花や木は目立つ事はおろか大してなかったのだが、ここは違う。

 まるで別世界に迷い込んだような、不思議な感覚にさえ陥ってしまう程だ。


 上に続く階段の先を見据え、リガルが抱いた感想は。


 ──神殿のような威厳を感じる。


 ヤナクは目を細め、眺めているリガルの肩をチョンチョンと突っついて振り返らせた。


「ん? どうした?」


「あ、そうそう。これが僕を呼び出す魔具だから、何かあったらスイッチを押してね」


 黒色をした、小さい筒状の魔具を手渡した後にヤナクはリガルの肩に手を載せる。


「これから色々と大変だと思うけど、無理だけはしないでね」


「はは。ヤナクが言うなよ。でも、ありがとう。ヤナクこそ、無理はするなよ。自由な冒険者と違って」


 ヤナクは首を振るう。


「僕は大丈夫だよ。じゃ、早いとこ王様にあって来ちゃいなよ!僕は中には入れないからさ」


「そうなのか?」


 ヤナクは頷くと、肩を数回叩いて踵を返した。


「じゃあ、またねリガルッ!!」


 歩き去るヤナクを目で追ったリガルは、胸に手を当て深く息を吸った。


「よし、行こう」

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