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王都アヴァロン

 王都アヴァロンは、孤島アダランライトにただ一つあるみやこだ。なぜ、ファルルや他の街と同じ大陸ではなく孤島なのか。それは、魔族に攻め込まれない為だと言われている。


 そして。迷宮区がある大陸ロンから、最も離れた場所っていうのも有名な話しだ。


 リガルがファルルで浮遊魔法ヴィチロークを使い、アダランライトに向かったのは、今から四時間ほど前の話になる。


 今は上空を飛び続け、ようやっと眼前に孤島が姿を見せ始めていた。

 早く着きたいのと、手紙を送りたい気持ちで一杯なリガルは「加速魔法アクセレレイション」と、杖を足に翳し唱えると、白いエフェクトがリガルを包んだ。


 伸ばしていた脚を一度折り曲げ、ジャンプする形をイメージして空気を蹴っ飛ばす。


 今までは鳥の鳴き声や、巨大な海洋生物が飛び跳ね海面を叩く壮大な音が聞こえたりしていた。だが、加速魔法アクセレレイションを唱えた瞬間、世界はガラリと変わる。


 見るもの全てが線に変わり、視野もかなり狭まっていた。鼓膜に関しても、風を切る音しか聞こえない。


「やべぇーよこれぇ! むっちゃはやぃい!!」


 誰も見ていないし聞いていないのをいい事に、何故だが無性に叫びたくなったリガルは、スピードに乗ったまま大声をだした。それ程までにこの感覚は気持ちがいい。リガルは今、風を切る楽しさを知ったのだった。


 なんなら、出発して直ぐに唱えても良かったとすら思えてくる。ただ、楽しい時間はあっという間だ。


「もう着いちまう……! 付与魔法解除デスペル


 加速魔法アクセレレイションだけを解除した。刹那、白いエフェクトが体から浮かび上がり粒子になって消え去る。体に多少の脱力感が襲うのと、同時にスピードは減速した。


「んだよ……これは……」


 思わず心情を吐露して、喉を鳴らした。


 リガルは近づいて分かった事がある。孤島アダランライトが王都アヴァロンなのだ。些か語彙力に欠けるが──

 島が丸々一つ、都と化しているとリガルは理解した。何せ、島を囲うように高い壁が聳えているのだ。そう考えると、都と言うよりも、要塞に近いものかもしれないが。


 リガルは、防壁の遥か上を飛んでいるはずなのだが、壁から先の都を見る事が出来ない。不可思議に思い、目を凝らすと、防壁の上には数多くの黒魔道士が居た(他にも騎士らしき者達も居る)。


 きっと幻惑魔法を用いて、王都自体を隠しているのだろう。


 上空から王宮へひとっ飛びとはいかないようだ。


「チッ」


 軽く舌打ちをした後に高度を下げる。


 変な言いがかりを付けられ、集中攻撃を受けたら話にならない。


 リュカに見てもらって分かったが。限界突破レボルシオンで、能力値がかなり高くなったとして、最強ではない。パーティーを組まれ襲われれば、下手をしたら死ぬ可能性だってある。


「と、なればやはり正規ルートで入らなきゃ駄目っか」


 リガルは目線を下に向けて、船の停泊所を探した。暫く壁沿い(攻撃を恐れ、結構距離をとり)飛んでいると、大きな水門に一艘いっそうの船が入っていくのが見える。


 すかさず後って水門に近づくと、三人ほど装備した者が飛んできた。見た目から察するに──


 白銀の鎧に赤いマントには鳥の刺繍。


 ──タグも見当たらないし、騎士の連中だろう。


「そこの者よ、直ちに止まれ」


 好戦的な物言いに従い、リガルは停止した。海面に魔力が波紋を作る中で、両サイドの二人は、剣の柄を掴み身構えている。


 警戒の割には殺意を剥き出し、リガルを睨んでいた。


 ここは敵意が無い事を示すのが最重要なはず。リガルは、両手を左右に伸ばして口を開いた。


「俺はファルルから来た金等級の冒険者です」


「ふむ。お前一人か?」


 人を値踏みするように、つま先から頭まで見て、目を細めた。馬鹿にされた気分になったリガルは、当然面白くない。


「はい、そうですが」


 鼻で笑い、投げやりに答える。


 第一、警備なんか傭兵にやらせて、さっさと迷宮区に向かい、階層を踏破しろって話だ。


 コイツらが、此処でのらりくらりしているから、孤児院の子供達が戦場に駆られる。


 貴族だからと言って、安全圏にいるとか巫山戯ているとしか言いようがない。


「なんだ、お前。俺を睨んで。馬鹿にしてるんじゃないだろうな?」


 実の所『はい』と、答えたかったが、時間がもったいない。

 リガルは鞄から、手紙を取り出し騎士の前に出した。


「すいません。長時間飛んでいたもので目が疲れてしまって……これが招待状になります」


「ふん。情けない奴だ。それに最初から、渡しとけば良いんだよ。冒険者風情が」


 勢い良く手紙をリガルから取ると、雑に取り出す。


 ミューレからは聞いていたが、ここまでとはリガル自身も思ってはいなかった。


 騎士と冒険者(特に金等級)では、大きな隔たりがあるらしい。いや、ある。今見て分かった。間違いなくある。


 貴族からしたら、面白くないのだろう。育ちもさほど良くない冒険者が、王都でそれなりの権力を持つのが。


 ──くだらない。


「よし分かった」


 手紙を無理やり封筒にしまいこんで、胸に思い切り押し当てる。


 礼儀もまったくなっちゃいない。


「我々が先導するから、ついてこい」


 たまる鬱憤を宥めつつ、無理無理に頷いた。


「では、行くぞ」


 一人が左、一人が後ろに位置を取り、リガルは真正面で先導する騎士を追う。


「なんか臭わねぇか?」と、左の騎士が鼻をつまむと、後ろから小馬鹿にした声が聞こえる。


「ああ、プンプン臭うなぁ。臆病者の臭いが」


「後衛職が一人とか。絶対に仲間を見殺しにしたんだろーな。臭い臭い」


「おい、お前ら。本人を目の前に、事実を述べるな」


 しまいにゃ、上官にあたるであろう、リガルを先導している騎士も馬鹿にすると来たもんだ。


「はい! 申し訳……くくっ……ございませんでした!!」


 リガルを囲い、飛び交う悪口と嘲笑。これが騎士からの洗礼か。あるいは、雑魚の遠吠えか。


 流石にコメカミがピクリと動いたリガルは、口を僅かに開いて「コイツら殺してやろうかな本当」と、暗い声で言てしまった。


 杖を強く握り、頭の中で数回グチャグチャに殺している内に、水門を抜ける。


 そこは──まるで、世界が新しく誕生したかのように、急に現れた都は、ファルルなんか比にならない程の活気を見せていた。


 そしてこれがまだ、港だという事実に驚きは隠せても、胸は踊る。


 そんな中、ムカつく騎士は立ち止まると、振り向いて感情もさほど篭っていない声音で言った。


「我々が案内をしてやるのは、ここまでだ」


 ──案内を頼んだ覚えはない。恩着せがましいし、一々、鼻につく連中だ。

 リガルは心で悪態をつきながらも頭を軽く、仕方なく下げる。


「そうですか、わざわざありがとうございます」


「ここから王宮へは、違う者に案内させる」


「は、はあ」


 まだ自由になれないのか。景色を楽しむ暇もない。視線を騎士が向いた方向へと向けた(客船の看板)。


「ヤナク! 早く来い! ヤナクッ!」


 威圧感のある号令に、駆け足で姿を見せた青年は両手を口に翳して大きい声をあげた。


「はいはいはーい! お呼びでしょうか!! ナズさん!」


「ここに居る冒険者を、王宮まで案内してやれ」


「畏まりましたあー!! じゃあーえーっと……リガルさん! 浮遊魔法ヴィチロークを解いて、コチラへ来てください」


「え? あ、ああ、分かりました!!」


 言われるがまま、リガルは看板に降りる。


「ファルルから来たんですね。長旅、ご苦労さまです。では、行きましょうか!」


読んで頂きありがとうございます!

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