金等級
これより2章に突入します。
物語が多少飛びますが、それはいずれ閑話で投稿するつもりです
──リュカがリガルの能力を測定してから、早三ヶ月が過ぎていた。ミューレは、約束通りにアルルの服を買い(出歩けるように、青いベレー帽とゆったりとした長めの白いスカート)。子供達、五人にも紹介してくれた。
彼らは、アルルやスライムに恐れることもなく。それこそ、孤立した辛さや寂しさを知っているからか、アルルの手を優しく引っ張ってくれた(因みに今は十人居る。大家族だ)。
アルルも初めは緊張していて、中々馴染めずに居たが、長男格であるアビル(十一歳)と長女格であるシャナ(十二歳)のおかげで、今はとても仲がいい。スライムは、小さい子供から大人気でリガルはある意味驚いていた。
「いよいよ、だな」と、リガルは深く深呼吸をした。
早三ヶ月とは思ったが、思い返せば色々あったな──と、ギルドの前で立つリガルは馳せる。
季節が変わり、より一層と寒くなった事も然り。様々な依頼をこなし、悪巧みをする冒険者に罰を与え続けた三ヶ月──
リガルの手は随分と、血腥くなってしまった。血に染った手をギュッと強く握り、目に力を込める。
「よし」
気を改め、両扉に手を添え押し開いた。
銀色のタグが歩く度に踊り、それを見た冒険者達もまた、様々な心情を吐露している。
褒めているもの、驚いているもの、悪口を言うもの、様々だ。大半は、面白く思っていない人達が多いい。だが、事それに関しては、分からないでもない。
皆がパーティを組み、手に入れる称号をリガルは一人で手に入れているのだ。何か、反則をしていると思うものがいて当然だろう。
リガルは、だが毅然とした様子でカウンターに辿り着いた。
「おめでとうございます。リガル=アルフレッドさん」
ギルドのカウンターにて、ミューレの礼儀正しい声が、リガルを讃える。
「これで貴方も、晴れて金等級。国の為に、悪を討滅してください」
漆塗りをされた、重厚な箱の中には高そうな綿が敷き詰められ、包まれるように金に輝くタグが置いてあった。
リガルは、別段喜ぶ事もなく手に取ると銀のタグを手渡す。
「では、こちらは飾らせて頂きます」
タグは、昇級すると名前と共に壁に飾られるのた。
リガルは短く頷いて、口を開いた。
「お願いします」
「もう一つ。こちらが、王都から届いた招待状です」
丁寧に両手でミューレがリガルに手渡す。リガルも両手で受け取った。
「ありがとうございます。それと、ミューレさん」
「はい、なんですか~?」
にっこりと笑みを浮かべるミューレをしっかりと見つめた後に、頭を下げる。
「アルルとスライムの事、よろしくお願いします」
今のリガルにとっては、大切な家族。なんとしても守りたい存在となっていた。
「了解です~」
ミューレはあざとく額に手を翳し、ウィンクする。
「では」と、踵を返してリガルは外へと向かった。
「頑張れよ坊主!」
「目指すんなら一番目指せよ」
「魔王をぶっ倒して、英雄なって帰ってこいよ!」
様々な見送る声が小っ恥ずかしいくて、リガルは足早に外へと出た。
「あ、終わった、ですか?」
子供っぽい声に右をみてみれば、ベレー帽を深く被ったアルルが壁に寄りかかり、こじんまりと座っていた。
「アルル、一人で来たの?」
「はいです。って、どうしたですか?」
「いや、気にしなくていいよ」
なにやら視線を感じたが、金等級に上がった故の嫉妬かなにかか──
旅立つ前なのに不安がらせることもないだろう。リガルは、手を差し伸べた。
「ほれ、スカートが汚れるぞ」
「ありがとう、です」と、小さい手を手のひらにちょこんと置いた。
リガルは優しく握ると、ゆっくりと引っ張りあげる。
「ちゃんといい子にしてるんだぞ?」
手を離し、ベレー帽の上に手を載せると、アルルは両手を上に載せた。
「アルは、本当は、一緒に……」
「王都は警備が厳重だって、ミューレさんが言っていただろ? 他種族をよく思わない奴だっているかもしれない。そんな危ない場所に連れていく訳にゃいかないんだよ」
リガルがゆっくり、諭すように告げると手を離したアルルはスカートの裾をぎゅっと握った。
「居なくならない、ですか?」
鼻声で問うアルルに、リガルはしゃがんで答えた。
「当たり前だろ? 俺は強いんだ。アルルも知ってるだろ?」
「でも、人は怖い……です」
未だ拭えない対人恐怖。本当に、あの四人組だけに植え付けられた恐れなのだろうか。でかかった言葉をグッと呑み込んで、笑顔を作った。
「悪い人は、俺が懲らしめてやる。だから、大丈夫だ」
待つと決めた以上、掘り下げる必要もない。アルルが心の底から信用し頼ってきてくれた時に、全力を注げばいいだろう。
なにより──
ワールドトリガーの実態を暴く為にも、リガルはワールドトリガーの加入を目指す事が大切だ。
加入さへすれば、アルルの故郷だって色々と調べる事ができるに違いない。
──滅ぼしたと言われる仮面の悪魔。
──親殺しの犯人。
「約束ですよ? 本当に」
アルルは、両手で涙を拭う仕草を見せた後に、顔を持ち上げた。
「指切りだ」
リガルは、アルルの前に小指を伸ばす。
「はい、です」
小指と小指が絡み合い、リガルは上下に腕を動かす。
まずは、王の信頼を勝取り自由に行動できなくてはならない。
もし、本当に親が殺されたのだとしたら──ミューレの考察通り、ワールドトリガーが犯人だったのなら──
リガルは、殺す事を心に強く誓う。
それらも、含めて──
「指きった」
立ち上がり、もう一度アルルの頭を撫でてリガルは言った。
「じゃあ、王都アヴァロンに行ってくる」
「はい、ですっ」と、アルルは陽だまりのような笑顔をリガルに向けた。
頷いて、背を向ける。人と離れるのがこんなにも辛いとは思わなかった。アルルの視線を感じ、振り向きたい気持ちがリガルを襲う。
また泣いているんじゃないか。怯えてないか。やっぱり連れていけば──
不可視化魔法を使えば、あるいは……
「あほか俺」
口の端を噛み締め、前を向く。足取りは重たく、それでもリガルは突き進んだ。
読んで頂きありがとうございます。と言うか!私事ではありますが、スカディ(キャスター)が当たりやがりました!!
これでぇ、スカシステムてのを体験できるぜ~!!
ともあれ、まだタイトル回収していないですが、ちゃんとするので!!待っていただければ幸いです。