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理由

 アルルを王だと称え、頭を下げた老婆は、黒と白の斑色をした毛並みをしている。それだけでも異彩を放っているのに、容姿だけではなく、口からとび出た言葉にも驚かずには居られない。


 ──いや、待てよ。


 すこし冷静になった時、頭を過ったのは嘗てグローリーにてエヴァと話していたことだった。


「って事は、つまり」



「うむ。そうなるの。我が友、アルルは獣人の王族じゃろうな。もしくは──」と、エヴァは言っていた。


「なんだ。リガルは驚かないのか?お前ならてっきり、目をむき出して驚愕すると思っていたが。ほら、隣に立っているアルルが逆にキョトンとしている」


 ミネルバの揶揄う様にため息を吐いては、チラッとアルルを視線をずらしてみる。


「いや。昔、エヴァとそんな事を話していた事があったんだよ。確か、竜の力とは土地を総べる王家に与えられるものと言っていたからな」


「そんな事を言っていたのか」


「ああ。グローリーでな」


「そう、なんです? でも、アルは自分が王族だって記憶はないです。だから、人違いだって言ってるですが……」


「いやいや。それは有り得ませぬよ。その光を反射し、煌びやかに、艶やかに、滑らかに伸びた白髪はくはつに、雪のようなきめ細かく白い肌。私達、獣人という種族の中でアルビノと言う特質を持った者は王族を置いて他におりませぬ」


「確かにアルルの体質は、目を惹くものがあるものな。私もついつい目で追っている時があるぐらいだ」


 腕を組むミネルバがアルルを見ると、小さい少女は少し困った表情を浮かべモジモジと微動した。恥ずかしいのか、気まづいのか、そこら辺は分からないが。


「まあ、その話は追追するとして。そろそろ本題に移ってくれないか? 俺も皆が心配だし。エヴァの姿だってみえていない」


「確かに、な」


「ありがとう。俺は、リガル=アルフレッド。中央領地を本拠地に帝国──革命を目論んでいる者だ。この度は、俺達を助けて頂いてありがとう。助かった」


 短く頭を下げてリガルが言うと、老婆はニコッと笑みを浮かべた。


「可愛い皇帝様だ事。私はパンプ=ハンブ。この村の村長を担っているものですじゃ」


「では」と、挨拶を双方が終えた時、パンプは話を切り出した。


「この島・ラピスは人の王が住まう都・アヴァロンから遥か遠方に離れた場所にある孤島。人口は四〇〇〇人程度が住んでおるんじゃが、まあ生き残りというやつですじゃ」


「生き残り?」


「そうですじゃ。私達が住んでた島は、エルフ達によって滅ぼされた。そして、王家であるアルル様の父であるアルサーガ=ルルベット様方が敵を引き付けてくれたからこそ、私達はこうして生き延びることが出来たのですじゃ」


「滅ぼされただと? なんたって、そんな……」


「分かりませぬ。あやつらは、突如として顕れ、見たこともない兵器を使い平気な顔をし、民草を蹂躙し始めたんですじゃ」


 パンプの表情は、例えるならその場に今一度訪れたような。両手で自分の体を包み、身震いを一つした。思い出したくも、思い返したくもないであろう過去を、パンプはゆっくりとしっかりと語り続けた。今は、エルフが開拓をし資源を我が物顔で使いまくってる事等など。


 それらを聞いて、怒りを覚えたのは事実だが、今リガルが怒りで取り乱しては、後ろに居るアルルが気を使いかねない。故に、深呼吸をした後に神妙な趣きで口を開く。


「なるほど。なら、グローリーに居た獣人達は」


「察しの通り、王の血を引く者達と近衛隊とその家族」


「で、でも、アルはおとぎ話のような力は引き継いでない、です。だから、王族とかそんなんじゃ」


 こじんまりとしたアルルは、耳を伏せ否定する。だが、それを聞いたパンプこそ困ったような表情を浮かべ、顎に指を撫で付けた。


「そこがおかしいんですじゃよ。魔力がないって言うのはおかしな話ですじゃ。何かしらの封印が施されてるとしか」


「ふむ。アルルが王族ではない。と言った選択肢はないのだな」


 ミネルバの問いに、迷いなく頷いては胸元に手を翳す。


「はい。なにせ、私は赤子のアルル様を抱かせて頂いた事がありますじゃ。あの頃から変わらず……いや、ちょっと待って欲しいですじゃ」と、暫し黙考した後にパンプは手を叩く。


「もしかしたら」


 口走り、皆を見渡し最後にアルルを見つめた。まるで自分事のような緊張感を覚え、リガルは息を呑む。


「私達の預言者がおったのじゃが」


「過去形?」と、リガルが問うと短く頷いた。


「うぬ。エルフとの戦火に見舞われた際に、の」


「そうなのか……」


「バーバラと言うのじゃが、その方が遺した書物ならば何かしらのヒントがあるやもしれん」


「それは今どこに?」


「此処にはない。私達の故郷にあるはずなんじゃが、何せ用心深い奴での。何処にあるかは、分からんじゃ」


「なるほど。だが、そこに行けばアルルの何かが分かるかもしれないのか」


 魔力が使えない。何かの制約があるとしたなら、出来ることをしてあげたいと思うのは当たり前だろう。恩返しと言えば、恩着せがましいかもしれないが。リガル自身がする事によって、アルルが生きやすくなるのなら。


「別に、アルは知りたいとか思わないです」


「アルル? お前が自分を卑下してるのを知っている。遠慮する事は無いんだよ」


「そんなんじゃ、ないです」


「お前は、優しいからな。わかった。別に過去を探るとか無しで。違う理由で行こう」


「違う理由?」


「それで、パンプさん。俺達は、一体どうやってココに?」


「うむ。遥か遠方で稲光よりも眩い閃光が天を穿ったんじゃよ。その瞬間、村の広場に」


 パンプは、口を止めることなくひたすらに話を続けた。


 此処に顕れた時の状況・リガルの状態・この村の事や様々な事を細かく噛み砕き丁寧に。どうやら、此処に居るのはリガルを含めヤナクとの戦闘の際に居た数名のみ。彼らは今、タダで衣食住は出来ないと言い、手伝いをしているようだ。


「アルルの故郷は、どれぐらいかかるか教えて欲しい」


「本当にいくのですかな?」


「ああ。それと、故郷を取り返す」


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