決戦・後編
これにて、章が終わります。次の章に行く前に、章整理や編集をしたいと思います。
皆様、宜しければ感想を頂けると嬉しく思います。交流をしたいですw
リガルが構えた両刃の剣の刃は、青白いオーラを纏い。また、ヤナクの剣は真紅を纏う。まるでそれは自己を持っているかのように、揺らめき凪ぎ盛る。
『エヴァ。だが、俺は戦い方を──力の使い方を知らない。どうすればいい?』
『案ずることはない。儂に半身を授けよ。そして、感じるがよいて』
『分かった。お前を信頼してるぞ。エヴァ』
『任せておれ。儂には鮮魚が待っておるからな』
『ふっ。そーかい。なら、勝とうじゃないか』
リガルが念話(エヴァの力を使っている時のみ、可能らしい。エヴァとリガル限定の話術)をしおえるなり、深呼吸をし肩を落とし目を瞑り脱力した姿勢となる。
正眼の構えをしていたが、自然と剣は斜の構えになり。リガルは今、不思議な感覚に陥っていた。水の中にいるような。自分の体ではないような。鼓膜を通して聞こえる音は遠く、体はフワフワとしている。
『ふむ。四〇パーセントって所か』
そのような言葉が聞こえた刹那、自我とは無関係に魔力が大量に放出された。いくら限界突破をし、魔力を高める魔法を付与してるとは言え体には多大な負荷がかかる。リガルは必死に堪えるが、体からは容赦なく出続けた。
とめどなく溢れる魔力は、刃一点に収束し──
「命の始まりが鳴らす鐘」と、口からは聞いた事も言ったこともない──まったく知らない言葉が別段違和感なく、極々自然に紡がれた。
リガルは、斜の構えから一気に剣を振り上げ、放出された青白い炎は、絶大な力を以てヤナクに襲いかかる。リガルは実感した。今迄、自分が放ってきた魔法剣士の攻撃──そのどれよりも圧倒的な力を持っている、と。
「これなら!いける!!」
「全てを零に──」
感情を感じられない、力もない声がリガルの不安感を煽り──嫌な予感はヤナクの行動によって見事に的中する。
「命の終わりを知らせる鐘」
青白い炎は、ヤナクの一振で放たれた深紅の炎とぶつかり合い消滅した。
「はあはあ……何であいつは平然としてやがるんだ?」
刹那の暴風が去り、視界が晴れて見れば毅然と立つヤナクの姿が視界に写る。片やリガルは、たった一撃で莫大な魔力を消費し肩で息をするまでになっていた。
『やはり、勝敗はそう簡単につかぬよな』
『何勝手に腑に落ちてんだよ。と言うか、奴はピンピンしてるじゃねーか』
『分からぬか?儂と、彼奴の力は陰と陽。生殺与奪・生々流転みたいなものじゃ。彼奴が奪う力ならば、鷲は与える力。ホレ、目の前をみてみろ』
言われるがまま、力と力がぶつかり合った地点を見た。
『これは……』
「リガル様が放った後には、草花の芽が生えて?」
「すごい、です」
「だが……逆にヤナクが放ったあとは枯れているな」
「次は僕から行くよ」
「くそ!なんなんだよ!アイツ、なんでこんな力が……ッ!?」
軽い一振で放たれた、禍々しい赤黒色をした炎を、リガルは地面に剣を刺し光の壁を唱え防ぐ。
炎は光の壁にぶつかり合い四方に広がる。それは、数分間に渡り視界を遮る程の密度と、魔力の使い過ぎで鼻から血が出る程の高威力だった。
超継続的回復を付与していなければ、内傷はもっと拡大していたかもしれない。
「そうか。なるほど。普通の魔法じゃあ防げるはずないんだけれど……。これも竜の力がなせる技って事か」
光の壁が青白い光を纏っていた事を言っているのだろう。が、そんな事はどうだっていい。リガルは、炎が消失した瞬間を見計らい駆けた。加速魔法を付与しての全力だ。
コンマ数秒と掛からず、刃はヤナクの間合いに到達。リガルは遠心力に任せ剣を振るった。
「ッッラァ!!」
剣戟を屈折させ、目線から体を落とし足を狙う。青い炎を纏った刃がヤナクを──
「刃が……通らない……だと!?」
ヤナクが装備する鎧が炎で包まれ、リガルの剣は金属音を鳴らすこともなく止まった。衝撃的な出来事に理解が追いつかないまま、後ろへ下がり冷や汗を一つかく。
『何が起きてるんだ?!』
『うむ……。共鳴度の違いじゃろうな』
『共鳴度?』
「ほら、ボーッとしてると消えちゃうよ」
「……チッ!光の壁!!」
『ああ。彼奴は多分じゃが……今、人であって人ではないのであろうて。器は人であれ、魂は赤き竜──イグニスに近い。故に力を完全とは言わずもだせているのだろ』
『なら、俺も早く共鳴度を』
リガルは後方にいる四人に気を配りながら、防壁魔法を用いてどうにかその場を凌いでいた。
「この場を撤退したいが……」
「分かっている。分かっているが、出来きない……邪魔を私はしてしまっているのか……ッッ!!」
「落ち着け。ミネルバにディグよ。確かに今、背を向ければ格好の餌食であろうな。なにせ、彼奴は神出鬼没。ならば、他に出来ることを探せばよい。目を見開け、目を逸らすな。我々にも妨害程度は出来ようて」
『それは出来ぬ』
『何故だ?何故、アイツが出来て、同じ行動をした俺とお前には』
『それはお前が純然たる者ではないからだ』
リガルがエヴァと念話をしている間も、ヤナクの猛攻はとまらない。それどころか、時間を重ねる事に動きは軽やかになり。一撃は手が痺れ、余波で切り傷が出来るぐらい力を徐々に、そして確実に増していった。
「どうだい。分かっただろ?思いの重さの違いを!決意の違いを!」
「うるせぇ!少し力を手に入れたからって勝った気になるな!」
鍔競り合いをする中、互いの感情がぶつかり合う。目は血走り、歯茎を剥き出しに語気を荒らげるリガル。一方ヤナクは、凪いだ波のような穏やかな表情を絶やすことはなかった。
「僕は勝ち負けなんかどうでもいいんだよ。ただ理解し、協力してくれればそれで」
「理解?協力?お前が求める世界の未来なんざ見たくねーんだよ!助け合いも、何かを思う事もない世界なんざ、ただだ冷たいだけだ。そんなんはな!タダの地獄なんだよ!」
「君だけには、理解をして欲しかったよ、リガル。だけどもういいや。僕は一人でもやり遂げよう」
力一杯に剣を押し、反動で距離をとる。
「お前ら、いくぞ!!」
「何をするのか知らないけれど」
ヤナクが切っ先を天に向けた時、リガルの後方から気合いの入った声が轟く。
「任せてください、我が主よ!準備はいいな?ミネルバ!!」
「安心しろ、とうに出来ているからな!!動きを止める!」
ラウンズの号令に返答したミネルバは、見えざる手を使い、ヤナクを拘束。
「いやはや。これで動きを止めたとでも?」
「アルル、頼んだよ!」
「はい、です!──グルゥァァァァア!!リガ、にぃを助ける──です!!」
ヤナクが拘束を力任せに解く刹那、アルルは獣の王を発動。人並外れた身体能力を駆使し、ヤナクが技を発動する遥前に剣を蹴り飛ばし、一呼吸の間に多段蹴りを腹部へと叩き込む。
「グッ……」
ヤナクの苦痛を匂わせる声が漏れた時──
「アルル、下がっていいぞ!」
「グルルルッ!!」
ディグの言葉を理解したアルルが速攻で距離を取り──
宙へ浮かぶヤナクをディグは、その禍々しい眼窩で捉え、剣を抜いた。
「これがパーティと一人の違いだ。リガル様に害を及ぼした罪──お前の死をもって贖罪としよう。英雄の一振!!」
立っているのもやっとだ。視界すら霞む。口の中は、血の味でいっぱいだし、腕や足は痺れが止まらない。
故に今立っていられるのは、意地だ。だが、一番大きいのは、そう、ここに居る仲間達が背を押してくれていることだ。
リガルは力一杯に、柄を握り締める。
「そんな夢は寝て見てろ!この一撃を以て、お前の野望を打ち砕く!ハァァァア!!」
青い炎を纏っていた刃に、白いオーラが渦を巻き始める。髪は無造作に踊り狂い。地面が円形状に抉れる程、魔力を高める。
「くらいやがれ!英雄の一端!!」
」
リガルの英雄の一端がディグの英雄の一振と合わさり、人一人を優に呑み込む光の刃がヤナクを、大蛇がごとく食らいつき離さない。
「……ヤレヤレ。さっきも言っただろ。こんなもので僕の動きも──なにもかも止めることなんかできないって。じゃあ、さようなら。最後の焔」




