決戦・中編
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「両親の形、か」
ヤナクの言葉に多少なりとも、共感出来たのは、背後で耳を伏せ心配そうな様子を浮かべるアルルが居たからだ。
孤島グローリーで出会った集合体の中に居たアルルの両親。ならば、そうか。
「俺の事を守ってくれてたんだな」
今思えば、仲間に裏切られた時に助けてくれたのも。街へ飛ばしてくれたのも。力を授けてくれたのも、全て内に眠る集合体のお陰だった。
リガルは胸に手を当て、浅い笑みを浮かべる。
「少々──憎悪の方が色濃いけどな」
「どうやら、腑に落ちる部分があったようだね。リガル」
「だな。まあ、事これに関しちゃ集合体だとか両親だとかは関係がない。ヤナク、お前は何を始めようとしてるんだ」
「僕が始めようとしている事?簡単な事さ。争いも憎しみも裏切りもない世界。感情を必要としない世界を作る事だよ」
「すげえな。そんな世界があったら、平和なんだろうよ」
「ははっ。やっぱりリガルは分かってくれるんだね。君も力を手に入れたんでしょ?なら一緒に創ろうよ──ね?」
ヤナクの表情は実に優しい笑顔だった。悪意も敵意も感じ取れない笑みを浮かべたままリガルの目の前に右手を差し出した。リガルは、一度目でおった後に短く溜息を吐き口を開く。
「平和だとして、そこに幸せはあるのか?そんな世界を創って繕ってなんの意味がある?」
取らずにいた手で拳を作り、ヤナクはその腕をもって空を横に切る。感情を顕にした彼は、リガルの目に苦しそうに写っていた。苦しく辛く悲しんでいるように。
「幸せじゃないか!!怒りも恨みも妬みも。欲望さえなければ」
「お前は、神にでもなるつもりか?勝手な意見を押し付けて──って、これは俺にも言えることかもしれないけど。それでも俺は、人の尊厳を主張する」
だとしても、ヤナクの考えは間違えている。リガルは、鞘から剣を走らせ構えた。
「俺はな、ヤナク。自分がやっている事が正しい事だとは思ってなかった。だから、事が終えたら殺されるつもりだったんだ。初めて友と呼べたお前の手によって」
「何を仰っておられるのですか、リガル様!」
「りがに、ぃ??」
「主よ、貴方は国をしっかり考えておられる。間違えてなど」
リガルの言葉に対し、慌てたような声音を発する背後にいる仲間達。耳を傾けながらも、振り向く事なく。独り言のように、淡々と話を続けた。
「俺は多くの人を殺した。一人を守る為に一〇を殺したりもしたんだ。自分勝手な思想でな。それが許されていいとは思ってもいないし、今でも夢にでる。けれどそれが罪を犯した俺の罰。逃げる事も言い訳する事もない。だからこそ、俺はお前に最後の審判を求めたかった。そしてお前を……貴族からではなく、一般市民から努力で騎士に成り上がったお前を、英雄に──けれど、今のお前に俺の命は預けられない」
「何を意味のわからない」
「今のお前は独裁と何ら変わらないだろうが。弱気ものに耳を傾けていたあの頃のお前はどこに行ったんだ」
「傾けているだけじゃ、少し行動するだけじゃダメなんだ。──この目は、あまりにも見すぎてしまった」
背を向けゆっくりとヤナクは、きょりをとる。
──そして、振り返るなり剣を抜いた。
ヤナクの体の周りには可視化された魔力が溢れ出す。真紅に染まったそれは、まさに赤き竜を思わせる程に力強く覇気を感じざるを得ない。
「僕はね。僕わね、リガル」
まるで全てを諦めてしまったかのような。あるいは、哀れんでいるような──そんな声音と共に、ヤナクの周りに散らばる物は重に反し、宙へ浮かびはじめ、同時にリガルは物凄い威圧感を感じ始める。
──ここまでとは。
「だからこそ世界を変える。人が好きだからこそ世界を」
リガルはまだ、力を扱い慣れていないが、遅れをとってはいられない。爪先に力を込め、魔力を込め始める。
「ならば俺はお前の前に立ち塞がらなくちゃならない。大切な人が居る世界の為に」
「欲望で汚れてしまった世界を浄化し、争いのない世界を創り。全ての欲や感情から解放し、人々を──」
「新たな国を創り、全てを変え。人に新たな未来と可能性を導き──」
「「救ってみせる」」
「その為に」
「だからこそ」
「ヤナクを」
「リガルを」
「「この手で討ち果たそう!!」」




