赤き光
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ワルターが腰を据える此処は、視界が開けた街であり広大だ。道が広い分、進軍はしやすいが。だからと言って、侵略が容易という訳ではない。田畑が大半を占める此処では、敵の的にもなりやすいのだ。しかし、案の定、敵が大軍を用いて消し掛けて来る事は一切なかった(多少の妨害はあったが、どれもが足を止めるに至らないもの)。
「やはり。ワルター様の予想は当たっていたな」
ワルター邸目前にしたリガル達の前に現れたのは、金等級を含む冒険者・騎士等、数百名だ。彼等は皆が勝ち誇った笑みを浮かべ、刃を向けている。
「ね?傲るとは、この事さ」
イザクは殺意を跳ね返すように、呆れた笑みを浮かべ、リガルの目を見る。リガル自身も、彼の発言には納得せざるを得なかった。何せこれまでも、ジャンヌが思い描いた物語通り。
ワルターは自分が優位だと信じて疑わない。そして、最も効果的な結果を使い、心を挫いてくると。
「奇襲までは予想していたみたいだね」
「そうであるな。そして、目的を目の前に、強敵を仕向けて心を挫き──膝をおらせる魂胆か。なぜ、ジャンヌ殿はここまで分かっていて、わざわざ罠に?」
「簡単さ。リガルの好意を汲んでるのさ」
「無駄な犠牲ってやつか」
「ええ」と、イザクは頷く。
敵が一点に集中すれば、街の住人は被害を被らずに済む。かと言って、ワルターが外に出て先陣を切るとは到底思えない。彼は自分の策に陶酔し、溺れる人種。ジャンヌの言葉を聞いていたリガルが、今一番に納得した光景だった。
「勝ちを疑わないからこその、愚策ってやつなんだな」
「愚策って。リガルも言うようになったね?とは言え、彼はかなり読み違えてるし愚策か。ははは」
「で、あるな。我々、個々が彼等の個々と雲泥の差がある事を奴は知らない」
「さあ、リガル!此処はボク達に任せて、ワルターの捕縛を」
「させるかよ!!」
一人の黒魔道士が火玉魔法をリガルに向けて放った。林檎ほどの大きさには、相当な熱量が籠り、火玉魔法に当たる雨は、鈍い音をたてながら蒸発してゆく。
金等級だからこそ、下級な魔法であっても威力がちがうのだろう。
──だが。
「武技──氷剣」
黒魔道士が放った灼熱は、イザクの一刀のもとに消え失せた。赤子の首をひねるが如く、いとも容易く。
「何だと……!?俺は魔力向上も薬を使い付与してるんだぞ?それを、氷剣如きで……!?」
圧倒的な戦力差に若干ではあるが、気が付き始めたであろう冒険者や騎士達が、ざわめきを隠せずにいる中──
「では、俺もいかせてもらおうか」
ビーズは重厚な鎧を軋ませ、一歩踏み出した。雨音にも負けないその音は、威圧感と恐怖心を敵に否応なしに与える。それを、臆した表情を浮かべた数名が物語っていた。
「怯むな!俺は奴を知っている!!ガラックやミネルバならまだしも、此奴は恐るるに足りん!所詮は副隊長止まりの男よ!」
馬に跨った騎士は、ビーズに剣の切っ先を向け吼えた。彼の言葉は少なからず、数名の心には響いたのだろう。戦意を削がれた瞳には再び光が宿り始めた。
「クソどもが」
目を細め鋭い眼光を以てビーズは騎士達を睨みつけ、怒りによって声を震わせる。
「俺も嘗められたものだ。いや違うな?俺が馬鹿にされてるとなれば、副隊長にしてくれたアディル卿を愚弄しているも当然。許しがたき愚行──よなあ!?」
泥濘だ土に足をめり込ませ、ビーズは一気に踏み出す。遅れて風が来るほどの速さとなれば、この視界の悪さも合わさり目で追うのは難しい。そして、目を眇めていたリガルが、目を見開いた時──
さながら噴水の如く、三人ほどの首からは血飛沫が噴き出していた。
「さあ、リガル殿!此処は俺達に任せてワルターを!」
ビーズとイザクの言葉に頷き、辺りを見渡す。どうやら此処にも白魔道士は居ない。ワルターは本当に白魔道士を処刑や追放を行ったようだ。ならば、こちらも動きやすいというもの。
リガルは、浮遊魔法を付与し空へと浮上。加速魔法を用いて一気に加速──
「と、その前に……」
仲間に向上魔法を付与し、重ねて魔法反射を付与した。これは、黒魔道士の弱体化魔法を恐れての事だ。
「じゃあ、後は頼んだよ!!」と、空を蹴り飛ばした刹那──
遥か先では、赤い光が眩く発光をした。




