絶と希
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スッキリした面持ち(骸骨なので表情は分からないが、雰囲気的に)なジャンヌの采配は見事なものだった。
陣形・策略。考えられる向こうの策。それに対しての計略。なん通り、いや、何十通りのシナリオを地図と駒を使い皆にわかりやすく説明をしていた。
軍事に疎いリガルですら、鮮明に浮かぶ程に。かと言って、ジャンヌに対して皆が意見をぶつける様な真似事を出来る訳もなく、ただ頷く事しか出来なかったが。
そんな時だった──
「なんですって?」
突如としてジャンヌの声が裏返り。勢い良く机を叩いた事により、配置されていた駒が倒れた。盤面をなによりも大切にしているジャンヌが、目の前の事を忘れてしまう程に焦るのだ。
リガルが焦らないはずは当然なかった。辺りを瞳を動かし見渡していると、ジャンヌが落胆した様子。あるいは、憔悴しきった雰囲気で口を開いた。
「私達とワールドトリガーの間に謎の兵器を持った集団が顕れたそうよ」
「武装集団、じゃと?それに兵器とはなんだ?」
「それが分かったら苦労しないわよ。私が昆虫種を通して分かったのは、未知の武器って事と、ワールドトリガーが撤退を始めた事。そして、彼等が人間ではなく──エルフって事かしら」
「エルフ……?」
リガルにとって、その三文字は聞き覚えがあり、嫌な思い出として残っているものだった。だが、あの件が──あの島での一件が恨みとなり復讐に来たのなら、理解できなくもない。
何せ、リガル本人も初めは復讐者として冒険者や騎士の連中を殺していたのだから。ならば、彼等の敵も自分達と一緒なのではないか。
さながら棒のように立ち尽くすリガルの脳裏には、そんな淡い期待が過ぎっていた。
「リガちゃんが考えている事、何となく分かるわ。けれどそれは、愚策よ。いい?私達に敵対しないのなら、隔てる様に姿を見せないわ。彼等は鼻から私達諸共、駆逐するつもりなのよ」
「はは。いいではないか。ならば、我等がやる事は一緒。そうだろ?ジャンヌよ」
自信に満ち、気迫を見せつけるラウンズの言葉。耳を傾けていた皆が強ばった表情を解して、口元を緩ませた。
「じゃの」
「当たり前だ」
「です、ね」
「このディグの心。そう易々と綻ぶはずがない」
「そうね。これを絶ではなく希にしましょう。今こそ、あの捕虜を使う時ね」と、行動に打って出た数時間後──
「ワルター様」
西の領地にあるワルター邸には、女性冒険者の声が響いた。
「帰りが遅かったではないか。大層いいお土産があるのだろうな?」
一瞬捕縛され拷問された事を疑ったが、彼女の容姿は綺麗なものだ。よって、それはないだろうとすぐ様に解を出し耳を傾ける。
「すみません。中々、探り込むことが出来ず、隙がなかなか生まれませんでした」
「構わん。結果が残っておればそれでな?して、どうだった。東と中央の情勢は」
「それが──」
「クハハハハ!!あの仮面の悪魔……いや、耳長の奴、ヤリをったわ!!」と、ワルターが勝ちを確信した笑みを浮かべたのは、数十分、女冒険者の話を聞いてからだった。
どうやら、耳長の種族が精鋭を連れ攻めてきたらしい。加えて、西に顕れていない事で、ワルターは連合だと理解をした。
──まさに気は熟したのだ。
「全軍、直ちに中央へ攻め込むぞ!!」




