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転生と魔石

「転生?」


 リガルの問に、スライムを頭にのっけると頷いた。


「はい、です。えっと……」


 上目遣いでチロチロと見られて、察しがついたリガルは口を開く。


「俺の名前はリガル。リガル=アルフレッド。君は?」


「んと、アルは、アルル=ルルベットです」


 まだ目を見て話すのは、難しいようで魚を見ながらアルルは名前を教えてくれた。


 魚の油が火に落ちて、食欲がそそる音を鳴らす度に、アルルは生唾をゴクリと飲み込む。リガルの質問すら忘れているようだ。つまり、目を見て話す云々の前に相当、腹が減っているのだろう。


 ──いや、口の端からヨダレも少し垂れていた。


 リガルは焼き加減をみて「よし」と、地面に刺さった枝を抜くと、アルルの前に差し出した。


「ほれ、焼けたから食べてみ」


「ふぁああ! やばい、です。とてもとてもやばい、です」


 何がやばいのか聞きたかったが。頬を両手で押さえ込んで、目を輝かせて蕩けた表情を見たらどうでも良くなった。おまけに、尻尾は凄い勢いで左右に揺れている。


「ファル! ファルファル!」


 スライムも頭の上で飛び跳ねるもんだから、リガルはもう一本を抜き取り大きい草に載っけた。


「お前は、こっちのを食えな」


「ファル!!」


 勢いよく飛びつくと、そのまま枝ごと包み込んだ。スライムは、透明度がある為、消化している様が良く伺える。魚を消化しているからだろう、体内には気泡がいくつも生まれていた。


 リガルは、スライムを観察しつつアルにもう一度訊ねる。


「で、だ。転生って──」


「あろれすね」


「あ、ごめん。食べてからでいいよ」


 美味しそうに食べてくれる一人と一匹を見て気分を良くしたリガルは、自分の分も与えた。


「ん~やばいれす~」


 受け取るまでは、遠慮しまくってたくせに。いざ手に取るとパク、パクパクと無我夢中でアルルは魚を食べていた。


 あっという間に魚四匹は跡形もなくなくなった(スライムが骨を食べたので)。


「ごちそうさまでした」


 アルルが両手を合わせ、食に感謝をするとスライムも一緒になって鳴く。


 本当に仲が良いのだろう。この時だけは、心の底から安らいで、リガルは穏やかな声で言った。


「お粗末さまでした」


 そこから暫し、食後の休憩を挟んだ後に、満足気に腹をさするアルルを見る。


「で、転生って?」


 リガルの問に、耳をピクリと動かす。


「えと、ですね。リガルさんは」


「リガルでいいよ。ぼ……俺もアルルと呼ぶからさ」


 すると、何故かアルルは困った様に眉を八の字にする。


「アルの事を呼び捨ては、構わないです。でも、アルが呼び捨ては、駄目です」


「ああ、なら適当に考えてくれていいよ。俺はなんでもいいし」


 気の抜けた声でお願いすると、数秒足らずで尻尾を一往復させた。どうやら、なにか閃いたようだ。


「りがにぃは、ダメです?」


「兄ぃって……」


 抵抗はあったが、儚げな眼差しを向けられては断るに断れない。


 リガルはため息混じりに頷いた。


「なんでも。と言ったのは、俺だもんな。いいぞ、リガ兄ぃで」


 食の力は凄い。あっという間に、距離が縮んだとさえ、錯覚してしまう。


「ありがと、です。あ、転生はですね?」


 緩く小首を傾げるアルルを、瞳に写してリガルは相槌を打つ。


「うん」


「りがにぃも、魔石は知っているですよね?」


「分かるよ。体を構築するコア、だろ?」


【魔石】


 魔族の肉体が消失した際に現れる、ひし形の石。色は黒く、そして暖かく脈打つように淡く光をともしている。


 魔族の肉体を構成するかなめを担っていると言われており。なので、魔石を破壊しない限り、時間が経つと再び肉体が宿る。単純に壊すとは言うが、容易ではないのが事実だ。


 スライムやトード、所謂いわゆる下級魔族の魔石ならば容易いだろう。しかし、中級、上級、弩級(主に幹部)になれば、コアに宿った力も強く、簡単には砕けないだ。


 それこそ、能力が見合わなければ無意味である。なら、何故、ギルドに持ち帰るのかと言えば、様々なモノにエネルギーとして利用出来るからだ。


 ──多少、残酷ではあるが自業自得でもあるだろう。


 等と、質問されてもいいように思い出していると、アルルは言った。


「はいです。なら、コアの本質を知っているですか?」


 ──本質?


 リガルは、斜め上を行く質問に喉を詰まらせた。


「んと」と、苦し紛れに無理やり言葉を出すと、アルルは自分自身の左胸にちょこんと手を触れる。


「生き物の、ありとあらゆる悪感情の集合体、です」


 少しアルルの声は震えていた。表情も、とても、辛そうだし悲しそうだ。


「それは……」


 これ以上聞くのは、可哀想な気もしたが、沈黙を選ぶのが嫌だったリガルは小さい声で聞く。


ねたそねみ、恨み怒り、恐怖。様々な黒い感情。ありとあらゆる生き物が、必ず染まる感情です」


「うん」


「ですが。生まれ変わりをする際、汚れたままでは綺麗な心は産まれないです。なので、黒い感情を切り離すのです」


「それが、魔族のコアだって言うの?」


 リガルは、火に薪をくべて。膝を折りたたみ、座り直すアルルを見ながら問う。


 アルルは「ですです」と、短く頷いた。


「なので、ビーストテイマーは汚れた魔石を浄化し、敵意のない魔族を誕生させる事が出来る、です」


「だから、転生……か」


 素直に凄いと思った。魔石を浄化し、敵としてではなく味方として歩み寄れるなんて。


「でも、なら、なんでアルルは魔族を転生させないんだ?」


 質問した後に、アルルの言いにくそうな表情を見て、迂闊だったと後悔した。ここまで【ビーストテイマー】について、理解しているのに──


 魅力溢れる、それこそ、優しそうなアルルなら喜んで力を使うであろう代物だ。


 ──使わないのではなく、使えない。が、正しいのだろう。


 しかし、リガルが話を変えるべく口を開いた頃には、アルルが無理矢理に笑顔を作り、口を開いていた。


「アルには──才能が、力が、ない、です」


「そんな事、まだ分からないだろ?」


 声を吃らせて、出たのは聞き慣れたであろう、ありきたりな励ましだった。

 リガルは、気の利かなさに嫌気がさし、口の端を噛み締める。


 きっと彼女に【限界突破・レボルシオン】を使えば、難なく使えるかもしれない。

 魔力がそれ以上、成長しないと決まっていたのなら別の話かもしれないが。


 だとしても。もし、能力が爆発的に向上し使った後に力に酔いしれて、力を振り回したのならリガルが殺さなくてはならない。


 殺せるならまだいいかもしれない。しかし、アルルの能力向上がリガル以上だったのなら、リガルが殺されてしまう。


 ──簡単には使えない。


「大丈夫、です。アルにはフーちゃんがいる、です」


 両手を頭に添えて、柔らかそうなスライムをフニフニとしつつ言った。きっとこれは、リガルに対しての慰め。


「そうだ。アルル」


「なん、です?」


「その格好のまま家に帰れば、親が心配するだろ。なんだ……」


 急に小っ恥ずかしくなり、目を逸らし鼻頭をかいて小さい声で言った。


「美味い飯とか服とか、買ってやるからさ。少し一緒に来ないか?」


「…………」


「あ、いや、別に餌にするとかはなくてだな? 一人だと危ないから」


 我ながら、何を必死になっているのかリガル自身が馬鹿らしいと思ってしまった。


「あ、いや、聞かなかった事に」と、頭を抱えて右手を前に出す(手のひらを、アルルに向ける形)。


「いく、です」


 アルルは、明るい声と共に両手でリガルの手を握った。

読んで頂きありがとうございます。


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