魔王城へようこそ
魔王が封印されて平和な世の中になったら。
魔王城のある樹海都市フェードルフは、シュバルツラント王国の北にある。かつて魔王城といえば恐怖の象徴であり、訪れるのはよほど自信のある冒険者か王国から派遣された勇者一行くらいしかいなかったが、魔王ゴクアークが勇者に封印されて300年、今や観光都市として栄えていた。
「皆様、本日は魔王城にお越しいただきまことにありがとうございます。本日みなさまの案内をさせていただきます、案内人のガイドと申します。今日一日ではありますが、なにとぞよろしくお願いいたします。
皆様の正面にございますのがご存知魔王城でございます。全長444メートル、総面積は樹海を含めシュバルツドーム約400個分、シュバルツラント最大の城でございます。
現在は守備兵などはおりませんが、魔王様がご健在であった頃には門番としてケルベロスが二頭、城に侵入せんとする不届き者を排除いたしておりました。はい、今は大丈夫ですよ~。なんせ勇者が倒しちゃいましたからね! こうして石像だけですので安心して門を通ってください!
さて、それでは第一階層から順を追って説明いたしますが……その前に」
案内人のガイドはいかにも案内人らしい制服に身を包み頭には帽子、口元にワイヤレスマイクを装備していた。終始にこやかで丁寧なガイドは一度言葉を区切り、本日何組目かの集団に向き直る。
彼らはシュバルツラントにある冒険者養成学校の生徒たちであった。それぞれの職ごとに鎧やローブなどの制服を着ている。彼らがここに来ているのはレベル上げが目的でも、宝が目的でもなかった。
修学旅行である。
「トイレは各階層入り口に、非常口は階層ごとに違います。地震などの際はわたくしの誘導に従ってくださいね。慌てず、騒がず、落ち着いた行動をお願いします」
改めて向き直り何を言うのかと――魔王城に緊張していた生徒たちは面食らった。魔王城ならではの危険があるのかと身構えていただけに「あっ、ハイ……」以外に言えなくなる。ガイドはにっこり笑った。
「はい! では行きましょう! まずは第一階層『森の迷宮』でございます。八部衆がひとり『世界樹の守り人シゲルン』が司る森は文字通り迷路になっておりまして、豊かな森の恵みや弱い魔物に調子に乗っている冒険者を彷徨わせます。また森には人喰い花や触手などの捕食系が多く、気がついたら一人、また一人脱落していて残った一人も恐怖のあまり発狂するという、しょっぱなっからわりとえげつない階層でございます」
巨大な扉が重い音を立てて開いた先には、ガイドが言ったような森が広がっていた。わあ、と生徒たちの歓声があがる。
「ガイドさん、でも第一階層ってことは、ここのボスが一番弱いんですよね?」
「ん~、弱いってわけではないんですよ。ここだけの話、実はシゲルンは平和主義でして。攻撃さえしなければ見逃してくれます」
ただし森は迷宮で人喰いモンスターが攻撃してくるが、それは縄張りをあらされたモンスターの本能である。そう言われた生徒は首をかしげた。
「え、でも、勇者様に倒されてますよね?」
「それなんですけどね、勇者ってば世界樹で寝てたシゲルンを見て、捕まったどこかの冒険者だと思い込んだらしく……。世界樹を攻撃しちゃったんですよ。聖剣で」
「え……」
「さすがに聖剣で攻撃されたらどうしようもありません。シゲルンと世界樹は繋がっていますから、そのまま……」
第一階層の生き残り、時折ギャー、シャー、ギシャアアアアアアと奇妙な叫びをあげる植物群を抜けた先に案内される。そこには天井まで届く巨大な樹――森といっても差し支えないほど大きな樹だ――があった。そして見上げるその樹の枝と枝の間にはぽこりと人の顔が覗いていた。よく見てみるとその人のものだろう手足や装備したローブの切れ端などもところどころに出ている。そう、まるで巨木が人を巻き込んだまま成長してしまったようだった。ただし今はそれも木彫りの彫刻であり、見間違えるということはない。
「こちらが『世界樹の守り人シゲルン』でございます。本来なら世界樹そのものとの対決になるはずだったのですが、シゲルンが寝たままなのを良い事に「待ってろ、すぐに助ける!」と叫んだ勇者が特攻してしまい、こうして倒されてしまったというわけです」
生徒たちはその様子を思い浮かべた。勇者一行はおそらく第一階層の魔物があまりにも弱かったから戦闘もなかったのだろう。森の恵みに感謝さえしたかもしれない。隠蔽魔法を使えば縄張り争いなど起こるはずもなく、いきなり目の前に巨木、そして捕らわれた人が現れた。世界樹に埋まるシゲルンは、その小さな体からしてコロポックルだ。森の人とも称され、森と生き、森で死ぬ種族。それがまさか第一階層のボスだとは思わなかっただろう。
「なんていうか……気の毒だね」
「運が悪いとしか……」
「ちゃんと確認してやれよ勇者……」
「いやな、事件だったね……」
それな。ガイドもうんうんとうなずいた。そりゃあ助けようとしていた相手が助けたと思った次の瞬間死んでたら嫌な気分になる。そこではじめてこいつがボスか!! となったりしたら、ボスのほうが報われない。勇者たちもさぞかし気まずい雰囲気になったことだろう。
「第二階層への階段は世界樹の裏側にございます。根が張っていますので足元にお気をつけて通ってください」
ひょいひょいとガイドが先に行った。第二階層への階段は世界樹と壁の隙間にあった。洞窟のような入り口は狭く、中は暗い。非常口を示す看板が光っていた。
「……あの、ガイドさん」
「はい、なんでしょうか?」
「階段の隣にあるのは何ですか?」
階段の隣には、よく見かける扉があった。真ん中から左右に開いていくタイプで、脇に階層を示す数字があり、上下になった三角形がある。
「エレベーターでございます」
「なんで魔王城にエレベーターついてんだよっ!」
戦士職の生徒が渾身のツッコミをいれた。質問した生徒も予想していた生徒も同じ気持ちである。
「それがですね、魔王様が封印されてから研究者が訪れるようになったんですけど、ああいう学者さんってインドア仕事でこういう場所になれてないんですね。階段きついからなんとかしろってクレームがいくつも来てしまいまして。魔王城にエレベーターはそぐわないと意見したんですけど、ほら、あの人たちって実績はあいまいな割に口ばかり偉そうでしかも権威を笠に着てるでしょ、押し切られてしまいまして……。仕方なくエレベーターをつけたら今度は魔王城にエレベーターはふさわしくないと別方面から苦情は来るし、もうホントに、……ねぇ?」
「ねえ? じゃねえよっ!」
「あーでもわかるー。ああいう偉そうな先生ってだいたい太ってるよね」
「そうそう校長とか」
「で、それまで黙ってたクセに気に食わないことあるとクレームつけるやつもいるよな」
「PTAや子供会に顔出さないくせに文句つける保護者あるある」
生徒たちもガイドの説明に苦笑いだ。よくあることなのだろう。子供たちは大人をけっこうよく見ているものなのである。
「そちらも世知辛いんですねえ」
思わぬ共通点である。まだ子供の生徒たちも苦労していると知り、ガイドもほろ苦く笑った。
現実的に考えて444メートルある城の最上階まで徒歩というのはきついので、生徒たちはありがたくエレベーターに乗り込んだ。見たい階層を見て移動すればいいという、実に手軽なガイドにそれもそうだと納得したのだ。ただ歩くだけならともかく、階段はきつい。筋肉痛は確実だ。
「こちらは灼熱の第二階層でございます。『紅蓮魔人アチード』が司るこの階層はとにかく暑さとの戦い。出現する魔物もフレイムゴーストやイフリート、有名な火を吹く石像もこちらにございます」
「はーい、ガイドさん。第一階層の上が炎で火事にならないんですかー?」
「良い質問ですね。エレベーターでお気づきでしょうが、階層同士は厚い壁で区切られていますので、床が抜けたりしないかぎり火災の心配はありません」
そもそもダンジョンの仕様が混在することはまずないのだ、それは魔王城であろうと例外ではない。シゲルンとアチードが喧嘩でもすればまた話は違うが、魔王に仕える同じ八部衆なので喧嘩をしたことはなかった。
「互いに実力を認め合う仲間ですからね、喧嘩などあり得ません」
「え……喧嘩しないの?」
「魔王の部下って魔王の寵愛を競ってるイメージ」
「足の引っ張り合いとか、良い所で抜け駆けとか」
「ありませんよ、そんなこと。それぞれ分野が違いますし、自分にできることを相手ができないからって見下したりするのはお門違いというものでしょう。戦士職に魔法攻撃してみろと言うようなものではありませんか」
「…………」
なにそれ羨ましい。生徒たちは気まずそうにお互いの顔をちらちらと見合っていた。成績のことや家柄で喧嘩になるのは日常茶飯事だ。特に魔法使い職の生徒は実家が貴族で常に戦士職を見下していたため、ガイドが例えに出したその文句をしょっちゅう使って馬鹿にしていた。前衛と後衛では役割が違うとわかっていても、功績を独り占めしたかったのだ。それを馬鹿馬鹿しいときっぱり言われ、魔法使いの子はしょんぼりとうなだれた。
「ちなみにアチードは第三階層の主『氷結のシバレル』の恋人です」
「魔王の手下って恋愛すんの!?」
「しますよ、普通に。恋人になるにあたって八部衆の7人と戦って認められていますから、そういう意味でも余計な諍いはありません」
「ちょっと待った! 7人ってことはシバレルとも戦ったってこと!?」
「そうですねえ。いかに女人とはいえ、いえ、女人だからこそ、自分より弱い者とはお付き合いできませんよね」
生徒たちは「ほぇー」と感嘆のため息を漏らした。先程の魔法使いがこっそりダメージを受けたようにうなずいている戦士の少女を見ているが、どうやら彼は好きな子ほど苛めたくなるタイプだったらしい。彼の恋路に合掌。
「とはいえ紅蓮のアチードと氷結のシバレルでは互いに弱点すぎて、未だに手を繋ぐこともできないピュアっぷりと評判でございますが」
「ほどがあるだろ!!」
「キスまで遠すぎる!!」
「それ本当につきあってる!?」
「付き合っていますよ、ああほら、あそこでいちゃついているのがアチードとシバレルです」
ガイドが微笑ましげに指差した方向には、炎に包まれた屈強な筋肉を晒す男と、彼から100メートルは離れた場所でずぶぬれになっている線の細い女がいた。とてもいちゃついているようには見えないが、時折シバレルが顔を覆って体をくねらせているので愛の言葉を連呼でもされているのだろう。
「愛の語らいを邪魔するのも野暮ですので次に行きましょう。シバレルの姉君であるオボレルは勇者との戦いで唯一生き残った八部衆ですよ」
「行きます」
全会一致だった。
エレベーターが5階で止まると、目の前には広大な湖が広がっていた。
「第五階層はご覧の通り湖でございます。『水底のセイレーン・オボレル』がここの主で、シーサーペントやクラーケン、まれにケルピーなども出現します」
「クラーケンか……水に引き摺りこんで獲物を仕留めるタイプだな」
「絶対出会ったらダメなやつだ」
「引き摺りこまれたら呪文の詠唱もできないし、確かに最強かもね……」
生徒たちは先程のツッコミがなかったかのように真剣になった。静かに凪いだ湖に魔物は見当たらないが、代わりに船などの移動手段もない。水に浮かぶことは魔法で可能でも、歩いていくには遠く、次の階層への階段を探すのも一苦労だ。水の上で魔物に襲われたら目も当てられない。
「まあ、オボレルは基本湖の底にいますので、勇者に出会わなかったから戦闘がなかっただけですが」
「スルーされた!? 階層のボスなのにスルーされたのかよ!?」
「なにせ水から上がると干からびちゃうんで、出るに出られないんですよ」
「ボスの意味とは!?」
それでいいのか勇者。それでも八部衆かオボレル。ツッコミが復活した。
「ちなみにオボレルの最近の趣味は、海に出て漁船や軍艦に向かって遭難者を装って手を振ることだそうです」
「その情報いらないから!!」
「つーか暇を持て余してるじゃねえかオボレル!」
「ただの迷惑なやつぅぅ!!」
湖を前に佇んでいても仕方がないのでさっさとエレベーターに乗り込んだ。
「第八階層は罠がそこらじゅうにあるパニックルームでございます。『絶望の魔術師ヒッカ・カッター』による趣向を凝らした罠の数々はまさに圧巻のひと言!バナナの皮を文字通り皮切りに、天井からは金盥、ドアを開けると落ちて来るギロチン、スタート地点に戻ってしまう落とし穴、転がってくる巨大な岩などが待ち受けます!」
「定番だな」
「ここへきてようやく普通の魔人が来た感じ」
「トラップなら鑑定で回避できるし」
「ちなみにヒッカ・カッターがいちいちくっついてきて煽ったり文句つけたりします」
「やっぱまともじゃなかった!」
「なんなの? 魔人てなんなの?」
「普通に対決してくる奴いねえのかよ!?」
「最終的に対決しますから多少趣味に走っても同じことかと」
「最初から対決しろよ!!」
さすがにトラップだらけの階層を進みたがる者はいなかった。というか、先程から壁に隠れてこそこそこっちを窺ってるのがヒッカ・カッターだろう。同じ顔がふたつ、どうやら双子のようだ。
「ええ~冒険者養成学校の生徒っていうから期待してたのに度胸ないんだねヒッカ」
「先生に教わったことしかできないような子供じゃ仕方ないよカッター」
わざと聞こえるように言ってくる。カチンときた武闘家が一歩前に出たが、足元の床がカコンと鳴った。とたん、壁が動いて矢が撃ちだされてくる。
「うわあああああっ!!」
「きゃははははっ! やったーひっかかった! ひっかかったー!」
「バーカバカバカ! まんまとひっかかってやんのー!」
「このやろおおおおおお!!」
まんまと煽られた武闘家の生徒がヒッカとカッターに向かって走り出していく。しかし見事にバナナの皮に滑って転び、降って来た網に囚われ、四方から剣が突き刺さり、姿が見えなくなっても悲鳴だけが轟いている。そして落とし穴に落ちてエレベーターの前に戻ってきた。
「おもしろかったー」
「まさか全部のトラップにひっかかるなんて、なかなか才能あるよ!」
「うるせえええええ!!!」
生徒たちが助けなかったのは、ガイドが「すべて寸止めになっていますのでよほど間抜けでもないかぎり怪我すらしません」と言ったからである。見たところ擦り傷程度の負傷はあるが、彼のダメージは精神的なものが主なようだった。
「ああ、負傷していますね。治癒魔法をかけておきましょう」
ガイドがめっとヒッカ・カッターを睨みつけ、武闘家に治癒魔法を施す。
「怪我させちゃだめだとあれほど言ったでしょう。PTAは怖いのですよ」
「ええ~こいつ頑丈だからいいじゃん!」
「そうだよ~僕らだって暇なんだし!」
「大口顧客である冒険者養成学校から切られると収入大幅減ですよ! 最近はすぐ慰謝料言い出す保護者も多いんです。これ以上ぐだぐだ言うなら給料カットしますからね!」
「ガイド、横暴~!」
「横暴、反対~!」
なんだか世知辛いやりとりに生徒たちの顔がしょっぱくなる。武闘家の彼も「いや俺も悪かったし」とヒッカ・カッターを庇う始末だ。魔王城は人気の観光名所だが、たしかに子供に怪我をさせたとなれば世間はうるさく言うだろう。
「ていうか、魔人て給料もらってるんだね……」
「それな」
「魔王城って時給いくらなんだろ」
「固定給だろ」
「ボーナスとか福利厚生が気になる」
ガイドは気まずそうに咳払いした。こういう従業員のやりとりを客に見せるものではない。ガイドなりのけじめというものがある。
「えー、それでは次に参りましょう。三鬼神の間は現在封鎖されていますので、いよいよ魔王の間、封印されし魔王様とのご対面でございます」
三鬼神は八部衆のさらに上となる、魔王の最側近だ。大変苦戦したと聞いているが、勇者本人がなぜか語りたがらなかったので今や伝説になりつつあった。
「あの、三鬼神について聞いてもいいですか?」
「もちろんです。……が、精神的に苦痛かもしれませんよ?」
精神攻撃。これまでも別の意味で精神的に苦痛だったが、これ以上の相手。生徒たちはごくりと固唾を飲んだ。
「三鬼神は実力はもちろんですが、魔王様のお側近くに控えるだけあってえげつない攻撃をしてきます」
ガイドはおごそかに語り始めた。
「まずは一人目、『無垢なる者』オギャー。彼の見た目は赤ちゃんです。お腹が空けば泣き、おむつが濡れても泣き、何もなくても泣きます。さらに3時間おきにミルクを要請して寝かせてくれません。しかも赤ちゃんなので喃語しか話せず、意思疎通に非常に苦労します」
「精神攻撃ってそっち!?」
「人間、睡眠不足は辛いですから。見た目赤ちゃんですし剣を向けるのにも罪悪感が伴います。というか、ぱっちりお目目の澄んだ瞳に見つめられて攻撃できる人は外道ですよ」
「でも鬼神なんでしょう?」
「はい。倒さぬ以上後にも先にも進めません。泣き止まないと部屋にあるあらゆるものが飛んできますからダメージも受けますし、下手をすると武器防具が壊れたりしますので早めに倒さないと全滅します」
「うわ赤ちゃん最強……」
オギャーの精神攻撃、物理攻撃に耐えて倒すと次に待ち受けるのは『自由なる者』クーネルだ。
「クーネルは猫です。しかも三毛猫のオスという希少種。戦いを挑んでもめんどくさそうに尻尾を振るだけで相手にしてくれません」
「剣を向けたとたんに逃げるんだろ」
「よくご存知で。もしかして有名なんですか?」
「予想つくわ!」
「クーネルの攻撃はなんなの?」
「クーネルはオギャーで疲労困憊のところに猫ですからね、やる気を削り眠気を誘ってきます。うっかり寝ちゃったところでパクリです」
毛づくろいをして自由に眠る猫に油断し、相手にされないのならと休憩をとればたちまち襲い掛かってくる。猫の口というのは思いのほか大きく開く、一口でパクリといけるだろう。
「三人目は『最強なる者』カーチャンです」
「もう名前からして嫌な予感」
ガイドはかまわず続けた。
「カーチャンの得意技は擬態です。相手が絶対に敵わないと思っている者に擬態してきます。だいたい母親ですね。「まったくあんたはいつまでも夢ばっか追ってないで少しは家の手伝いでもしな!」「いつになったら母ちゃんに楽させてくれるんだい」「お隣のエマちゃんは結婚して子供3人もいるってのにあんたときたら」など、郷愁を誘ってきます」
「郷愁っていうかさぁ……」
「母ちゃんあるある……」
「地味にいやだ……」
「必殺技『カーチャン怒りの鉄拳』はお尻百叩きで、これはダメージもさることながら精神的に本当に苦痛です」
生徒たちはそろってげんなりとした。ちなみに貴族の出身だと母親ではなく乳母や家庭教師の場合が多く、「お坊ちゃま(お嬢ちゃま)ご無理をなさらないでください」と涙ながらに訴えてきたり、鞭を片手に持った教師に「こんなくだらないことにいつまでかかるんですか?」とため息を吐かれたりする。どちらにせよ幼い頃の思い出を使って攻撃してくるのだ、三鬼神に恥じぬ容赦のなさである。
「……これらの方々をまとめていたのが魔王様でございます」
「魔王様すげえ」
「尊敬するわ」
「これからはアタシも魔王様って呼ぶ」
「魔王様苦労してそう」
「魔王様なだけあるね」
エレベーターがチンと軽やかな音を立てて止まる。ついに最上階、魔王の間だ。
魔王の間は想像していたよりもずっと狭かった。いや、魔王が大きいのだ。二つの角を生やし、黒々とした髪は不気味にうねり、頭上に上げられた両手はまるで竜のように鱗に覆われ鋭い爪が伸びている。大きく開けられた口から伸びた牙。マントの下の体はおぞましい固い肉に覆われている。
なにより激怒のその表情は、見る者すべてを恐怖させる何かがあった。
「これが……魔王ゴクアーク」
ちょうど左胸、人間でいう心臓のあたりに剣が刺さっている。あれが勇者の剣、聖剣だろう。勇者は聖剣でもって魔王を封印したのだ。
生徒たちが魔王の迫力に飲まれていると、背後でガイドが言った。
「ていうか魔王様あれですよね、トレンチコート広げて見せるのが趣味の変質者みたい」
全員が吹いた。
「色々だいなしだよ!!」
「びびってた! 俺びびってたのに!!」
「言われてみればそうだけど……っ!」
「もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ!?」
「やだもう魔王が変態にしか見えない!!」
ガイドはしみじみと魔王を見ている。
「わたくしもなんとかしようと思ったのですが、どうにも残念なポーズで固まっているのでいかんともしがたく。あ、近づいて見ても大丈夫ですよ。魔王様完全に封印されていますから」
緊張から一転、脱力した生徒たちは恐る恐る近づいた。目は当然のように勇者の聖剣に向けられている。
「聖剣にはお手を触れないようにお願いします。うっかり抜けると魔王様復活しちゃいますので」
「これ、触れるのか……?」
「これが、聖剣……」
「勇者であれば抜くことも可能です。聖剣はこれ一振りしかありませんし、魔王様以外の脅威が現れればあるいはと思いますが、今の世界は平和ですからね。必要ありませんでしょう」
魔王以外の脅威が現れる可能性。生徒たちはごくりと喉を鳴らした。魔王が封印されても魔物が消えることはなく、新たな魔王が生まれてもおかしなことではなかった。現に八部衆の中には復活している者もいる。彼らがいつまでも魔王城で大人しく暮らしているという保証はどこにもないのだ。
「……なんで勇者は魔王を倒さなかったんだろう? 倒しておけば、聖剣はどこかに保管されてただろうに」
「そりゃ、魔王様を倒してしまったらこのお城崩れてしまいますから」
素朴な、そして深刻な疑問にガイドはけろりと答えた。おそらく何度も訊かれたことなのだろう。よどみなく言う。
「魔王城は魔王様のお力によって構築された城です。いくら勇者とはいえ444メートルから瓦礫と共に落下したら死んでしまいます」
「えっ? そうなの!?」
「この城魔王でできてんの!?」
「そうなのです。そしてこの城が崩壊すれば、ご覧いただいた階層が世界に拡散します。魔王様が存在する以上の災厄が飛び散るわけですよ、魔界パンデミックですね」
各階層そのものの拡散。いきなり村が灼熱の熱帯地域になったり、井戸が凍り付いたり、沼からクラーケンが飛び出して来たりすることになる。生徒たちは想像して蒼ざめた。魔王がいる意味はきちんとあったのだ。
そもそも勇者が魔王退治を決意したのは、勇者が生まれたことを知った魔王が彼のいた村を襲撃してきたからである。つまりは私怨であった。勇者というのは『勇者の証』と呼ばれる聖痕を体に持って生まれ、常人のそれを遥かに超えた身体能力と魔力を持ち、聖剣を使うことのできる者のことをいう。歴代の勇者は国で保護され大切に育てられるが、魔王に戦いを挑む者は滅多にいなかった。それはそうだろう、勇者がいるだけでその国には箔がつくのだ。むざむざ旅に出してどこかの村娘と恋に落ちでもしたら大損害である。たいていの勇者は騎士として国に仕えるだけで一生を終える。
ところが300年前の勇者は、魔王に村を襲撃されて復讐の旅に出た。伝説と呼ぶべき冒険譚を各地に残し、聖剣を手に魔王に挑んで勝利したのである。魔王を倒さず、封印だけで済ませた彼は祖国に帰らず流浪の旅を続け、魔王城での戦いについてもあまり語ろうとしなかったという。彼の最期がどのようなものであったのかはどこにも残っていない。のたれ死んだのか、それとも勇者であることを捨ててどこかに定住したのか、未だに不明であった。
「その魔王による襲撃というのが問題でして、魔王様、そんなことしてないんですよ」
「えっ?」
「で、でも、勇者の書にはそう書いてあったよ?」
「教科書にも載ってるけど?」
ガイドはまさかと手を振った。
「皆様、よーく考えてみてください。勇者が生まれたことを察知した魔王様が村を襲撃して、なぜ勇者一人だけが『偶然』生き残るんです? そんな都合の良い話がありますか。だいたい魔王様ですよ? 殺るのなら徹底して村ごと水没くらいはさせますよ。手っ取り早く全滅させられますもの。いちいち村人確認して「勇者はどこだー」「魔王様を退治する前にやっつけろー」なんて、わざとらしいヒントを与えたりするものですか」
「え……」
「じゃ、じゃあ、襲撃の犯人って……?」
「勇者が生まれた国の王でしょうね。あまり豊かな国とは聞きませんでしたし、英雄が欲しかったんじゃありません? 魔王様も三鬼神も八部衆も暇じゃありませんし、勇者が戦いを挑んで来るなら喜々として迎え撃つだけです」
歴史というものは後世の人間が文字として書き記すものである。そしてたいてい自分たちに都合の良いように事実を曲解して書く。襲撃で生き残ったのが勇者であり(これを歴史書は『神の寵愛』としている)、勇者が魔王を封印したのは事実である。勇者が魔王退治の旅で「魔王に村を襲われた」と言い残していたことも伝わっている。そして魔王を封印した勇者はそのことについて語りたがらなかったのも事実だった。
生徒たちはあまりのことに呆然と立ち尽くした。では、魔王は冤罪で封印されてしまったのか。勇者がその事実を知ったのはおそらく魔王が封印された後だ。どんな気持ちだったのだろう。ずっと憎んでいた相手が実は別にいたというのは。しかもそれは祖国であったというのは。
「いや、でもそれ魔王側の言い分だよな……?」
「そ、そうだよね。魔王だって勇者が生まれたら放っておかないでしょう?」
「もう300年も前でどれが本当なのかは誰も知らないわけだし……」
「勇者だって事実がそれなら魔王じゃなかったって言いそうなものだろ」
「でも、それなら勇者が凱旋しなかった理由がわかる……」
そして全員がガイドを見た。生徒たちの視線を受けてガイドがにっこり笑う。
「さて、魔王城の案内はここで終了でございます。この後はオプショナルツアーとして地下闘技場での戦闘訓練が予定されていますが、まだ時間がございますのでカフェテリアでご休憩はいかがでしょう。売店でお土産も販売しておりますので魔王城の記念に名物『勇者の聖剣キーホルダー』をぜひどうぞ!」
「いやそれわりとどこでも売ってるし」
「うちが本場です! パチモンで満足してはいけませんよ!」
そんなの誰もいらねーよ、とは誰も言わなかった。販売しているのだからどこかの誰かにはきっと需要があるのだろう。
エレベーターで地下まで行くと、カフェテリアでは同じ冒険者養成学校の生徒が休憩していた。
「あ、みんなもここ来てたんだー」
「やっほー。そりゃそうだよ、せっかくフェードルフまで来たんだから魔王城地下闘技場でレベル上げしないと」
「魔王見た? すごい迫力だったね」
「どっちかっつーと変質者のインパクト強いけどねー」
「ちょ、やめてよせっかく忘れてたのに」
「俺土産物見て来るわ。母ちゃんに何か買っていかないと」
「あたしも行くー。なんかねここの三鬼神コブレット美味しいらしいよ」
「聖剣キーホルダーどうする?」
「いらない一択」
「だよね」
地下闘技場は冒険者登録され、最低でもEランクあれば誰でも利用可能な施設だ。パーティーを組んでいないソロ冒険者でも受付で仲間を選んで戦闘することができるし、あくまでも施設であるため死亡の危険もなかった。
「地下闘技場はEランクからSSRランクまでご自由に選択できます。ですがレベルアップが目的ですと勝つことが最低条件ですので、あまり強い相手を選ぶと瞬時に終わってしまいます。ご注意ください」
「本当に死なずにすむんですか?」
「はい。闘技場ご利用の方にはこちらの身代わりお守りを500ポッチで購入していただきます。戦闘不能に陥りますと強制的に戻され負傷も治りますのでご心配には及びません。闘技場から出る際に身代わりお守りはこちらで回収し、500ポッチも戻りますので実質タダです」
「すごーい! ラッキー!」
「このお守りは販売してないの?」
「申し訳ございません。こちら、リサイクルしておりますので……」
ガイドがしょぼんとしながら首を振った。リサイクルという言葉に色々な苦労が察せられる。
「受付では助っ人として魔物や魔人が指名いただけます。いかがですか?」
「魔人アチードとシバレルがいるっ」
「うぅ……けど指名料高い……」
「さすが八部衆、Sランクだぜ」
「どうする? お小遣い出しあって指名する?」
「八部衆いれば上級の魔物も倒せるんじゃない? そうなればEランクからD、Cまで行けるかもよ!」
Sランクの八部衆は指名料1万ポッチである。パーティが組めるのは最大5人までで、助っ人もパーティメンバーになるため誰になるかで揉めた。
「つか、魔法使い職でいいんじゃない? あんた貴族だし、個人的に出せるでしょ」
「ふざけんなっ! 修学旅行のお小遣いは5000ポッチって決まりだろ! ねぇよ!!」
「えっ、律儀に守ってんの?」
「貴族っていってもケチなんだね」
「お前ら貴族に対して偏見持ちすぎだっつーの! こっちだって結構カツカツなんだぜ……」
「あー……なんかごめんね?」
そこに闘技場からアチードを連れた修学旅行のパーティが出てきた。気のせいかぐったりしている。
「あ!」
「あー、お前らも?」
「すごい、アチード指名したんだ!」
「うちら誰が抜けるかで揉めててさー」
「こっちの班は最初から闘技場目当てだったから4人で組んだんだ。パーティで揉めるくらいならやめとけよ」
「てかすごい熱だねアチードって」
魔王ほどではないが、魔人アチードも巨大である。体から吹きだす炎の熱で自然と汗が吹きだしてきた。
「で、どうだったアチードの戦い。やっぱ圧倒的?」
「あー……それな」
「なんつーか熱かった」
「熱血だったな」
「暑苦しいの間違いだろ」
どういうことかと話を聞けば、アチードは彼が危険だと思った時にしか手出しをせず、「ほらもっと! もっと行けるだろ!」「負けだと思ったら負けなんだよ!」「全力を出せっ! もっと熱くなれよおおおお!!」と非常に暑苦しい応援をしてくるだけだったという。
「なにそれうっざ!」
「そういう熱さなの!?」
すると第二闘技場から今度は別の班がシバレルと出てきた。
「シバレル!」
「アチード……」
シバレルとアチードはひたと見つめ合い、シュバッと距離をとった。
「ああ、君の冷徹な眼差しに早くも鎮火してしまいそうだ!」
「あなたの……その情熱でわたくしは溶けてしまいそうです……」
そうだった。この恋人同士は互いが弱点となるため近づくことができないのだ。その場に集まった生徒たちは二人の間でやりとりを見守った。真ん中に集まったのはそこが適温だからだ。
「ねえ、なんとなく予想がつくけどシバレルの戦いってどうだったの?」
「あー……うん」
「冷静……だったよね……」
「そうだね……冷たかった……」
どうやらシバレルはアチードとは真逆で口数が少なく、話をしたかと思えば「その程度の敵に……てこずるのですか……」「一撃で仕留めなさい……」「やれば……できるではありませんか……」とクーデレを炸裂させたらしい。
「アチードとは別のウザさだな」
「ていうか「……」がうるさい」
「……なのにうるさいとはこれいかに」
「なんなの、魔王の配下って変人しかいないの?」
「ねえどうする? 助っ人指名する?」
「俺たちだけでやろうぜ。あんなののために揉めることねえだろ」
全会一致だった。
冒険者養成学校の生徒たちは全員がギルドに登録しているため、時々学校での教習として依頼を受ける。簡単な薬草採集や最弱と名高い一角兎退治などだが、それでも冒険者としてのランクはEになっていた。
闘技場に時間制限はないが、体力や残り魔力を計算して戦わないと連続戦闘はきつい。彼らはとりあえずEランクの魔物と戦うことにした。ちなみにランクは戦闘回数を重ねるか、上位ランクの魔物を倒すことによって上がっていく。実績と経験がものをいうわけだ。そして生徒たちは、戦闘の経験は少なかった。2回戦で魔法使いの魔力が切れ、僧侶も武闘家の戦闘不能を治癒する魔力は残っておらず、ここで終了した。
「お疲れ様でした。もうすぐ修学旅行の皆様は集合時間ですのでちょうど良かったですね。いかがでしたか我が魔王城の闘技場は」
「戦闘不能が痕も残らず消えるのはありがたい」
「本当にね。魔力も戻ればいいのに~」
「腹へった~」
口々に好き勝手なことを言う生徒たちだが、この闘技場システムは本当によくできている。冒険者ギルドにもレベルアップのための闘技場はあるが、怪我が治ったりはしないのだ。治療費は自腹だし、運が悪いと死ぬこともあった。
「ねえ、ガイドさん。ちょっと聞いていいですか?」
「はい? なんでしょうか?」
「その、どうして魔王城を解放しているんです? 魔王城なのに観光名所にしちゃって怒られないんですか?」
「ああ、それですか。それにつきましてはのっぴきならない事情がございまして……」
そこでガイドは言葉を区切り、大きなため息を吐いた。
「税金対策です」
生徒たちの目が点になった。
「魔王様が支配してらした時は良かったのです。税金などという制度はありませんでした。ですが魔王様が封印されて10年ほど経った頃でしょうか、人間たちの領土分配が片付き、役人が城を訪れたのです。――税金の徴収に」
「え……え!?」
「ええ、驚きますよね。ですがサイアークの樹海も魔王城もとてつもない広さで、ここから徴税しないということはあり得なかったのです。本当に怖いですよ税務署の役人って。こっちが魔族だとか関係ないです」
「…………」
「やむなくギルドに登録し、一番近くにあったフェードルフと提携を組んで観光でやっていこうと決めました。いや、苦労しましたよ……なんせこっちは本能とはいえ人間を殺しまくってましたからね。挨拶しても無視され、子供たちからは遠巻きにされ、土産物は毒入りだと決めつけられて販売の許可を得るのに15年かかりました。あれから40年、はじめてギルドの受付嬢に挨拶を返してもらえた時など、不覚にもこのガイド、落涙してしまいました」
信頼を得るは難く、信頼が壊れるのは容易い。しんみりと語るガイドに誰も何も言えなかった。
「それ以降もエレベーターを設置すればどこにそんな金があったと税務署がやってきて、修繕すればどこにそんな金があったと税務署がやってきて、魔王様封印300年フェスティバルを開催すればどれだけ儲かったかと税務署がやってきて……」
「あったね、魔王封印300年フェス……」
「つーか税務署……」
「皆様も学校を卒業なされば本格的に冒険者として活躍なさるでしょうが、くれぐれも税金対策は怠りなく。マルサは恐ろしい心眼でこちらのうっかりミスを見つけてきます。書類の文字はやたら小さくて回りくどい文章で記入欄は書き込めないサイズですがきっちりとなさってくださいませ。脱税などしようものなら追徴課税が待っていますよ」
やたら重かった。ガイドは税務署とのやりとりを思い出したのかぐったりとうなだれている。
「く、苦労してるんだね」
「あたしお土産買っていこう」
「だね。応援しようよ。大変そうだし」
「そうだね」
ガイドと別れて土産物を買いこんだ生徒たちは、集合場所で別の場所に行っていた班と合流した。フェードルフの宿で一泊し帰路に着く予定だ。
広い部屋に布団を並べて敷き、灯りを消した彼らは先生の巡回を寝たふりでやり過ごしておしゃべりを続けていた。
「色々濃かったね魔王城」
「うん。また行きたいね」
「卒業旅行、魔王城にしない?」
「アチードとシバレルを同時に助っ人で呼んだらどうなるのかな?」
「あいつらいつになったら進展するんだろうね」
「ていうかガイドさんが何者なのか気になる」
楽しかった思い出と共に眠りにつく。そんな彼らの裏ではガイドたちも語らっていた。
「今年の冒険者養成学校の生徒も良い子でしたねぇ」
「警戒心が足りん! もっと修行しろと言いたいぞ!」
「素直な……子供たちでした……」
ガイドの手にあるのは地下闘技場で回収した身代わりお守りだ。人型の紙に血判が押され、そして無残なまでに破れている。
「ふふ、魔王様が復活の暁にはこれを『リサイクル』しますけど、いつになるのでしょうね」
勇者が剣を引き抜くのが先か、封印に飽きた魔王が復活するのが先か。魔王ゴクアークが復活し、またもや人間が討伐に来るようであれば身代わりお守りは『リサイクル』され、傷はすべて本人へと還る。戦闘不能に陥るほどの傷が、冒険者たちに還ってくるのだ。中には何度も闘技場を利用して何度も戦闘不能になった冒険者もいる。人間側はパニックになるだろう。
「勇者が……来ると良いのですが……」
「うむ。封印を解かずとも、闘技場で死合をしてくれるだけで良い!」
「まあ気楽に待ちましょう。退屈もそう悪くはありません」
行楽のご予定は魔王城にお越しください。案内人のガイドが心を込めてご案内いたします。
ガイド:魔王城の案内人。樹海と城で起きたことは全部知っている。案内人ですからね! 基本敬語で話す。さらっと毒舌。勇者との戦いの時には八部衆を勇者と遭遇させたり、残念でしたねここは何々です~とかの説明をしていた。案内人ですからね!世知辛い人間の世界でせっせと金を稼いでいる。魔王城の責任者だがその正体は……?
魔王ゴクアーク:魔王様。勇者との戦いで敗れ、封印されてしまった。今まさに最終変形! というタイミングで刺されたためちょっと間抜けなポーズで300年経っている。やり直しを要求したいお年頃。魔物や魔王城は魔王様の力でできている。うっかり倒すと魔王城が全壊して各階層の魔物や災厄が世界に拡散してしまう。今は封印されてなお漏れ出る力で魔王城は維持できているが、修繕費とかめちゃくちゃかかってる。
紅蓮のアチード:八部衆のひとりで炎の魔人。暑苦しい性格。火を吹く石像などのある第二階層の主。「灼熱の炎で燃やし尽くしてくれようぞ! 我こそは烈火の魔人、紅蓮のアチード!!」とか言う。恋人のシバレルとはキスどころか手を繋ぐこともできない。鎮火しちゃう。
氷結のシバレル:八部衆のひとりで氷の魔人。クーデレ。凍てつく回廊のある第三階層の主。「心までも凍らせましょう……。わたくしは絶対零度、氷結のシバレルでございます……」とか言う。三点リーダーがうざったい。恋人のアチードとはキスどころか手を繋ぐこともできない。蒸発しちゃう。
水底のオボレル:八部衆のひとりで水の魔人。シバレルの姉。一面湖の第五階層の主。「水底のセイレーンとはわたしのこと☆ 溺れちゃってぇ~☆」とか言う。シバレルとは別の意味でうざい。勇者との対戦で唯一生き残った八部衆だが、水から上がると干からびるのでずっと湖の底にいただけ。戦ってない。時々海面から遭難者を装って漁船や護衛艦に手を振って慌てふためくのを見て楽しんでいる。迷惑なひと。
世界樹の守り人シゲルン:八部衆のひとりで樹の魔人。森の迷宮がある第一階層の主。「迷いの森へようこそ。我は世界樹の守り人シゲルン。さあ、我が子らの養分になるがいい」とか言うはずだった。森を荒らす者には容赦しないが動物には優しい。どう見てもコロボックルなのを気にしている。
絶望の魔術師ヒッカ・カッター:八部衆のひとりでトラップ魔人。罠ばかりの第八階層の主。「ひゃーっはは! 僕の罠の味はどう? 絶望の魔術師ヒッカ・カッターとは僕たちのことだ!」とか言う。ヒッカとカッターがいるように見えるが実はひとりしかいない。一人二役で罠に誘う。うるさい。
八部衆は他に土・風・闇の魔人がいる。一度勇者に倒されたので復活に時間がかかる。