わるいこ
次のこ
この子はわるい子?
ねぇ、いい子は夜に外に出ないの。温かい布団でぬくぬくと眠りにつくのがいい子。だから、こうして外に出て知らない大人について行ってる私は悪い子。
キラキラ光るネオンが目に痛い。大人達は私が死んだような瞳が嫌いなんだって。だから笑うの。でも、大人達はそれでも怒るんだ。
おもちゃはおもちゃ箱に入れなきゃ。でも、おもちゃ箱がないの。いくら探してもみつからないの。
そんな時、私におもちゃ箱をくれるっていうお兄ちゃんが現れたの。おもちゃをなおす大切な箱。
そのお兄ちゃんは暗い場所に慣れた私には目に痛い昼間の空みたいな青いスーツを着ていた。
猫を喰ったような変な笑顔で私の躰を抱き上げたお兄ちゃんは、その青いスーツに似合わない暗い匂いがした。
お兄ちゃんは悪い子の私に何度もいい子っていうの。悪い子なのに。
最近、お兄ちゃんはイライラしてる。きっと私のせい。だって、お兄ちゃんは私の顔を見て眼を細めるもの。その時の大人は私を殴りたいって思ってる。
でも、その時のお兄ちゃんは優しく頭を撫でるの。どうしてだろう?
私はその方が怖かった。殴られたいとは思わないけど…
お兄ちゃんは謎。私を他の人に会わせないように、部屋から出れないように鍵をかける。それなのに、外に出てはいけないとわざわざ言って出かけるのだ。
私は、そんなお兄ちゃんを無表情で見送る。わざわざ笑わなくても良いって言ったくせに、それにお兄ちゃんは苛立つ。
でも帰ってきたらなぜか機嫌が良い。そして、暗い匂いが強くなるのだ。
どうしたのって聞いても、にっこりと笑うだけ。その時だけはお兄ちゃんは優しい。本当に優しいんだ。
お兄ちゃんは誰なんだろう?
私を連れ出したときは、ただの気の弱い、お金で解決するいつもの大人だと思った。
でも、ここで暮らしてわかった。お兄ちゃんは常人ではない。でも、狂人でもない。
だから怖いのだ。
ずっと怯えている私をいつも冷たい瞳で見るお兄ちゃん。でも私に人の温もりを教えてくれたのは確かにお兄ちゃんだから。
そんなある日、私はお兄ちゃんから開放された。皮肉交じりの笑顔は見たことが無かったけど、これがお兄ちゃんの本当の笑みだとわかった。お兄ちゃんはきっと私のことを使えない子供だと分かったのだろう。ただの人選ミスだ。
私はお兄ちゃんを狂い慕うことは出来なかった。そして、心から信じることも出来なかった。盲信的に信じてくれる子供を見つけたお兄ちゃんは私のことを捨てた。
私はそれから色々な所に連れて行かれた。どうやら知らぬ間に両親は死んだらしい。
親戚にたらい回しにされた。でも、私は気にしなかった。環境は整っていたから。
私は私を捨てたお兄ちゃんをずっと覚えていた。いや、忘れられなかった。だからお兄ちゃんが着ていた特徴のある服を覚えていた。その青いスーツ。その服を着るためだけに勉強をした。その事以外考えられなかったんだ。
あの時、親から殴られるよりもずっと深くに傷をつけたお兄ちゃんを赦すことが出来なかった。いや、忘れられなかったんだろう。お兄ちゃんの温もりを知ってしまっていたから。
私は、今、お兄ちゃんと同じ青で身を包む。
お読みいただきありがとうございました。
これで、完結です。