しかし、夢ではなく現実だった
王女様にお願いをされて了承してから数分も経たないうちに俺は騎士のような人たちに連れられて玉座のような場所で待機させられていた。
なんでも王様直々に話があるそうだ。
しかし、俺に出来ることはなんだうか。
国の発展とは言っていたが、具体的には何をすればいいのかが分からない。
俺に出来ることといえば大阪の魅力についてを語るぐらいだが、そもそも文化の発展具合によっては大阪名物を語るぐらいしか力にはなれない。
今のうちにお好み焼きとたこ焼きのプレゼンを考えておいたほうがいいだろうか。
……不安だ。
「いやいや、弱気になってどうするよ」
顔を二度叩く。
強く叩いたせいか少しだけ顔が痛いうえに周りから変な目で見られている。
……夢の中って痛覚まで感じるのか。
「はっはっはっ、そう難しく考えることは無い。私たちに君の世界のことをなんでも話ししてくれ」
「……んなこと言われてもここのこと知らんのに何言えって……?」
話しかけられて自然といつもの口調が出てしまったが、俺は誰と話した?
「……えっと、あの、どなた様で?」
「なに、ただの国王だよ」
ただの国王なんてものは存在しませんよ。はい。
即座に正座をし、頭を下げた。
こういう感じの偉い人にタメを使うと王様が許しても私が許さんとかいうキャラが登場して最悪殺されかねない。
夢の中でも死ぬのはごめんだい。
ここは誠心誠意の土下座をしなければと感じてからの行動はとても早かった。
「申し訳ございません!! あの、えっと……ほんとすみませんでした!」
「いやいや、君は召喚陣で召喚された異世界の人間だ。それで怒るつもりはないさ」
「た、大変ありがたきお言葉!!」
頭を下げつつ周りをチラチラと見る。
特に怒ってるような感じは見受けられないが、これは助かったのだろうか?
「しかし、カトスの言っていたように君の言葉は特徴的だな」
カトスというのは王女様のことだろう。俺とまともに話をした人は王女様ぐらいだ。
言葉に関しては仕方がないのかもしれない。
今どきこてこてな人はいないが大阪弁も標準語と比べると変わってはいるようだ。
「これは私の世界で大阪弁と呼ばれていたものです」
「そうか。我々の世界のレギエナ語のようなものか」
おそらく違うと思うが、あえて否定はしないで頷いて肯定した。
王様に大阪弁の理解もしてもらえたところでコホンと咳払いをし、本題に入る。
「えーっとですね、話は王女様から聞いたのですがそもそもこの国の街並みってどんな感じなのですか? それによっては話せる内容が食文化程度しか話せないのですが……」
「そうだな。まずは我が国がどのような状況なのかを知ってもらわなければならない」
王様が近くの兵士に何か合図をすると玉座の後ろを探り始める。
そして何かを見つけたかのように何やらゴソゴソと動かしているようにも見える。
「……あの人はいったい何を?」
「この玉座は祝い事や祭りごとを見る際にここから見れるような仕掛けを設置しているのだ。彼にはそれを作動してもらっている」
仕掛というとやはり玉座周りの壁が開いたりして外が見えるようになるのだろうか?
……それは非現実的か。
なにせこの建物、王様がいるのだから城なのだろうが、それにしては小さい気がする。
玉座の周りも会議室みたいな場所と繋がっていたりさっきからメイドがバタバタと玉座の後ろを走っているのに皆それを気にしてはいない。
なんというか、俺の思っている感じの王様の城のイメージよりも見窄らしい感じさえする。
……そんな時だった。
突然背後から波のような音が聞こえた。
最初は小さいもので気のせいかとも考えたが、次第に音は大きくなっていった。
気になってしまった俺は後ろを振り返り音の正体を確認した。
「――なんだこれ!!?」
城内全体がSF漫画のテレポートした時のような光に包まれ、光が消えると壁や床が消えてなくなっていく。
……いや、床が消えているはずなのに人が普通に立っているのを見るに透明化しているようにも思える。
「あの、これは……?」
「君の世界にはないのかね? これは魔術といって、この世界では生活にも……争いにも欠かせないものだ」
魔術というと、あれか。
よくあるファンタジー系のあれなのか。
そうして透明化していくにつれて外がどうなっているのかが分かってきた。
「どうかね? この国は」
「……想像以上ですね」
まず最初に、この国はあまりにも状態が酷い。
住宅がポツポツと並んでいる程度で商業施設なんてものが存在しない。
日本の田舎でもここまて何もない場所なんて存在しないのではないかというほどに殺風景だった。
「……この国は元々千年もの間、とある国に従属していたのだ。しかし、その国が滅びてから独立したはいいものの、私に与えられた領地はこの広い大自然と数百人の国民のみだった」
王様の表情は暗くなり、下を見た。
「私も王として頑張っているのですが、城内にいる私たちは従属地の象徴のように扱われていたこともあって、あまりにも無知なのだ」
「……なら、他の国と協力したら良かったのでは?」
何も敵だらけということはないだろう。
そんな風に思っていたが、王様の表情は暗いままだった。
「いいや、我らには味方がいない。この国には民は少ないが資源は豊富にあるのだ」
「……つまり、協力するとなるとまた従属するしか方法がないと?」
「しかし、それだけは出来ぬ。この国の繁栄は先代の悲願であった」
王様は力強く拳をにぎりしめ、ゆっくりと瞳を閉じた。
「その悲願を叶えるためにも、私たちには知識が、異界の勇者が必要なのだ」
……なんというか、思っていた以上にヘビーな内容だ。
本当に、これは夢なのだよな?
「君の知識は本当に期待している。しかし、魔術が使えないとなると何かと不便だ。今後の為にも私が一つ教えておいておこう」
王様が俺の目の前に右手を出した。
よく見てみると右手には薄くよく分からない花と動物が混ざったような絵が描かれていた。
……この王様は本当にいい人そうだし、俺も出来ることがあるなら助けてはあげたい。
「あの、どうすればいいですか?」
「君の体に魔術を起動するためのスイッチを無理矢理だが作り出す。少し痛いと思うが、この世界では魔術は必要不可欠だ。我慢をしてくれ」
「我慢してくれってそんなにやばい……――ッ!!」
『――こんなことをしても、悪いとは思わない』
……これは。
『恨んでくれて結構だ』
まさか刺された時の記憶か?
あの野郎、あれからも暫く俺の近くにいたってことか。
『どうか頼む。異界の人間たちよ、勇者となり、私の世界を救ってほしい』
異界の人間?
私の世界?
何を言っているんだこいつは……。
……でも、たしかあの時王様も異界の勇者って……。
『――――……――――…………――――――――』
なん、だ、声が急に遠のいて……。
「――しっかりして!!」
「……はっ!?」
意識が飛んでいたのか。
気が付くと俺は王女様や王様や兵士たちに囲まれながら空を見ていた。
……空といっても、これは魔術で透明化しているから天井はあるんだっけ。
……しかし、ここまで酷い夢があるのか。
いやー怖いな。まさに悪夢だよ。
「……はっ、そこまでくるとただ逃げてるだけだな」
逃げるのは得意だが、今回ばかりはその気になれない。
要はあれだ、俺は……俺たちは漫画やアニメなんかでよくある異世界転生をさせられている。
この場合は異世界転移だっけ? まあそこは一先ず置いておこう。
でだ、俺は本当にあの時に殺されている。
そして、奴は何か目的があって俺たちを異世界に転移させた。
となると、俺がいたのは三途の川じゃなくて転移する時のワープ空間という可能性が高くなった。
……だからなんだという部分はあるが、少なくとも他の皆も俺と同じ体験をしてるだろうし、この世界のどこかでさ迷ってるのかもしれない。
なら、この国を第二の大阪として発展させることが皆と合流出来て元の世界に帰れる手段になるのかもしれない。
「……また、やらなきゃ行けない理由ができたな」
「……えっと……」
王女様が困ったように俺を見ている。
なんだ? なにに困って……あ、そういやまだ名乗ってないのか。
「……改めて、私の名前は獅堂統士郎です」
「! わ、私はカトス・アルケインです!」
「王女様、王様、この国の発展を協力するうえで一言よろしいでしょうか?」
二人は満面の笑顔で大きく頷いた。
「うむ!」
「はい!」
今は困惑の方が勝っている状況だが、やってやろう。
やってやるとも!!
異世界に第二の大阪を作る。
そうして大都市オオサカを作りあげてみせる!