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いっせーの  作者: 流美
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柊清美

「清美、今日はハイランドに行きましょうね」

「ハイランド? ……やったぁ」


 喜ぶ私の言葉が嘘臭い。顔は笑っていても、目も声も笑っていない。私が「幸せ」に対して心から喜べなくなったのは、いつからだったか。

 ハイランドという遊園地にはもう何回も行った。水族館や、スケートや、動物園など、色んなところに高い頻度で、両親に連れて行ってもらった。両親にさえ言えば、日本国内なら基本的に何処にでも行くことができた。 


 私は幸せなのだと“思う”。


 裕福な家庭に生まれた。両親は大企業の社長と秘書。お金なら好きなだけあるから、18歳になった今もバイトはしていない。しようとしたら、今母親が勤めてる秘書を引き継ぐから、それまで自由にしてなさいと言われたし。

 頭の良さは平凡くらいだけど、ちゃんと勉強しているから、テスト順位は上の方を保っている。容姿も、スタイルの良い母親の遺伝のお陰でそこそこだ。

 こんな私を、皆は口を揃えて「羨ましい」と言う。「私もそんな家庭に生まれたかった」と。

 私だって、小学生の頃まではこの家庭に生まれたことを誇りに思っていたし、周りだって、正直に言えば見下していた。だけど私が生きる環境としては、きっと何かが違かった。


 中学に入って、性格がだいぶ捻くれていることに気付いた。甘やかされて生きていたら、自分の性格になんて気付かないもんだと思っていたけれど、案外そうではないらしい。

 私の両親は「人生を危険に犯す」ことを絶対に許さない。極端に言えば、殺人をすることとか。そんなことをすれば、想像もつかない、物凄い剣幕で怒られるだろう。縁を切られる可能性がある。

 でも逆に「人生を危険に犯す」こと以外は、何一つ怒らない。例えばこれも極端だけれど、家で暴れて様々な物を壊す、だとか。

 要するに、世間体だ。世間からの良い印象を崩さないような範囲のことであれば何でも許す。そう、私は両親に怒られたことがない。

 望むものは何でも与えられて、とことん甘やかされてきたお陰で、逆に欲が無くなっていた。何をどれだけ望んでも簡単に手に入る世界が、どうしようもなくつまらない。18年間生きてきて、私は何も得てないような、そんな気がするのだ。


 ある日、高校の卒業アルバムに載せるための、クラス写真を撮ることになった。初めて行く屋上。その日は遠くの山々が見える程に、綺麗に澄んだ空だった。

 先生に誘導されて並ぶ前に、私は端っこに立ってみた。それは単純な興味で、自殺した人が先日ニュースになっていたのを思い出したからだ。

 眼前に目一杯広がる青空。下を向けば、小さくなった先生の車や木の姿が見える。

 ゾクゾクとした。鳥肌が立ち、なんとも言えない開放感が心を満たした。許されることなら、ずっとここに居たいとさえも思った。

 結局、先生に上ずった声で注意されて、大人しく写真撮影に参加したけれど。

 この日から私は「死ぬ不幸」に興味を持ってしまった。


 死ぬ不幸の対義語は、生きる幸せ。当たり前だ。この世界は、生きてるだけで幸せに思え、と言う人間が存在する。生きたくても生きられなかった人からすれば、生きることはとても大きな幸せなのだろう。

 だけど、多分それは間違ってる。死ぬことが必ず不幸なのか。生きることが必ず幸せなのか。

 それは単に、周りが見えてない人の戯言ではないのか。生き地獄という言葉を、きっとその人は知らない。


 またある日、私は飛び降り自殺について調べていた。死ぬ高さとか、死なない可能性のある場所とか、自殺スポットとか。

 けして私が飛び降り自殺しようとして調べていたわけではなかった。興味があるだけで、流石にするなんて。でも、この掲示板を見つけたのが良くも悪くも私の運なのだろう。

 深い青の背景に、白い文章。「いっせーの」という名のついた、ひっそりとした掲示板だ。飛び降り自殺に興味がある人が集まっている。

 私はそこで思いついてしまったのだ。私の幸せのためにすべき事を。やるしかないと、頭の中で声が聞こえたような気がした。







<ガイア#43960 11.30.00:36

 一緒に「死ぬ幸福」を手に入れませんか>

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