姫の夫探し
むかしむかし、あるところに王様と王妃さまがいました。
王様と王妃様にはとてもかわいらしい一人娘がいました。王様と王妃様は一人娘の姫をとても大切にかわいがりました。
ローズ姫となづけられた姫は、たくさんの愛情を受けてすくすくと育ちました。ローズ姫はあるとき、王宮の庭の花を眺めながら言いました。
「私は、なぜローズっていう名前なのかしら。私、あまりバラは好きではないわ。だって茎のところがとげとげしているのですもの」
その日の夜、ローズ姫はお母さんである王妃に自分の名前の理由を聞きました。
王妃様は、ローズ姫が庭で言っていたことを乳母から聞いていたので突然のことにも驚かず優しい口調で語り始めました。
「お母さまが王様と出会ったのはこの王宮の庭のバラが咲いているところだったの。ちょうど、今日姫が見てきたところと同じところですね。そして、私と王様が結婚して姫が生まれた時に話し合ったの。私たちの大切な子は私たちと同じように素敵な恋をして結婚してほしいとね。それに姫は私たちの愛情の宝ですもの、大切な宝に大切な名前をつけるって素敵でしょう?そうしてね、姫、あなたはローズとなづけられたのよ」
ローズ姫はこの話を聞いて自分の名前が大好きになりました。小さいころからお母さまとお父様がとても仲が良いことを誇らしく、うれしく思っていたのでこれ以上よい自分の名前など存在しないと思いました。
それから何年か経ち、ローズ姫にも婚期がやってきました。姫はたいそう美しく可憐に育っていたので求婚が絶えませんでした。王宮には毎日いろんな国の王子から手紙と使者がたくさん来るようになりました。王様と王妃様は、自分たちと同じように相手のことを好きになってから結婚してほしいと思っていましたので無理矢理に政略結婚をさせようとはしませんでした。姫のために毎日舞踏会を開き姫に求婚にきた王子達を紹介していきました。
まもなく姫も好きな相手を見つけるだろうと思っていた王様と王妃様も舞踏会を開くようになってから2年も過ぎると姫が結婚する気があるのかどうか心配になってきました。そこで、姫に尋ねてみると姫はこう答えました。
「お母様、お父様。私はお二人のように恋をしたいのです。そして互いに互いを思いやれるような夫婦になりたいのです。しかし、今まであってきた王子達はわたしのことをあいしてくれません。そんな人たちとは結婚できませんわ」
きっぱりと姫が言うので王様とお妃様は困ってしまいました。そこで誰となら結婚できるのかと姫に聞いてみました。
「今まで、私はこの王宮の外には出たことがないのです。どうか、私を、夫を探す旅に出させてくださいませ。一年の間にきっと良い旦那様を連れてきますから」
王様と王妃様は姫が王宮の外へ出るなんて危ない、と最初は許可しませんでしたが、姫があまりに必死に頼むのでついに許可をだました。もちろん、条件付きです。その条件は、ひとつは一年以内に帰ってくること。それは王子が見つかっても、見つからなくても、だ。と王様が言いました。姫はきっと帰ってくると約束をしました。姫がうなずくのを見てからもう一つ条件があるといいました。その条件は、姫に護衛を連れていくことでした。それも姫は一人でいるより心強いだろうとうなずきました。姫の護衛にはこの王宮の中でのえりすぐりが選ばれました。まず、姫の身を守る若者。この若者はまだ若いながらこの王宮で一番といえるほど剣が上手でした。二人目は旅の間の料理を作る、料理番です。料理番には姫が幼いころから王宮にいた侍女が選ばれました。侍女はシェフではないものの料理の腕ならシェフにも負けない腕前でした。侍女は姫の身の回りの補助も仕事の一つです。その二人と一緒に旅をして二人のいうことをきちんと守るように、と王様と王妃様はよくよく姫に言い聞かせました。
「お母様、お父様。行ってまいります」
出発の日がやってきました。姫は、希望でいっぱいの目で王様と王妃様に挨拶をしました。二人とお別れのキスをすると、待ちきれないといった様子で馬車に乗り込んでしまいました。王様と王妃様は、姫たちの姿が見えなくなるまで、手を振っていました。
一年後、姫は約束通りに帰ってきました。姫と護衛と侍女の三人しかいませんでした。王様と王妃様は、夫を見つけることができなかったのだろうと思い、傷心のはずの姫がかわいそうだからとその話に触れようとはせずにただただ温かく姫を迎えました。
それから数日後、姫は王様と王妃様がそろっているときに尋ねました。
「お母様、お父様。どうして私の夫さがしはどうなったかきいてくださらないの?いつ聞かれるか心待ちにしていましたのにいつまでたっても聞いてくださらないから心配になってしまいましたわ」
王様と王妃様は、姫のことを傷つけない一心でその話題に触れないようにしていたのですから、驚きました。王様と王妃様はお互いに顔を見合わせてから聞いてみることにしました。
「姫、夫は見つかったのですか?」
「はい」
姫はうれしそうに答えます。王様と王妃様はまたお互いに顔を見合わせました。
「姫、夫をここに連れてきなさい」
王様は、夫を見つけてきたという姫に言いました。夫が本当にいるのなら、あってしまった方が早いなと思ったからでした。
「はい。少々お待ちくださいませ」
姫はそれだけ言うと、二人の前を失礼して走って夫を探しに行きました。
「お待たせいたしました」
しばらくたってから姫はまた王様と王妃様のところに行きました。姫の隣には、あの日、姫が夫さがしをすると言って旅に出た時に護衛に着かせた男でした。
「姫、夫はどこにいるのかね?」
王様と王妃様は姫と一緒に来た護衛を夫だとは思わずに、聞きました。
「ここにいますわ。お母様,お父様」
姫は満面の笑みでそれだけを言います。姫の隣にいる護衛は直立不動で何も言いません。
王様と王妃様はからかわれたのかと思い、少し厳しい声を出していいました。
「姫、からかったのですか?夫はどこにいるのです」
すると、今まで一言も口を開かなかった護衛が王様とお妃様の前に一歩踏み出して話し出しました。
「王様、王妃様。私が姫の夫です。姫のことを一年間守らせていただいている間に好きになってはいけない姫を好きになってしまったのです」
王様とお妃様は予想もしていませんでした。お城の外に好きな人がいないからと言って旅に出た姫が夫だと言って連れてきたのが、まさか姫のためにつけた護衛だったとは。
「姫、本当ですか?」
王様と王妃様は思わず姫に確認してしまいました。
「本当ですわ。お母様、お父様。彼は旅に出ていた一年間、私のことをいつも守ってくれました。そんな優しくて強い彼のことをいつの間にか好きになってしまっていたのです。彼こそが、私の探し求めいていた夫ですわ!」
姫は嬉しそうに、そして王様と王妃様をしっかりと見つめながらいいました。
王様と王妃様はそんな姫をみて結婚を許しました。
二年後。
純白のドレスを着た美しい姫の隣には、姫が夫さがしに出た時と同じように隣に立つ護衛の彼がいました。姫はとても幸せそうに微笑んでいました。姫の夫は不思議な縁で見つかったのでした。
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