遊園地の噂
「やっとついたー」
クラスの誰かが言った。
バスで二時間。そこから歩いて、一時間。長かった。
でも、ここは遊園地ではない。宿屋だ。山の中にある宿屋をとったが、ここまで遠いとは思わなかった。でも、夜になったら、肝試しとして、夜の山を登らないといけない。遊園地はまだまだ上だ。
「よし、七時なったら、宿屋を出発するからな~、準備しとけよ」
神野が言った。スケジュールは彼が全て作ってくれた。
夜の七時から山を登り、山頂付近の浦野ドリームランドをめざし、夜の八時に到着。そこで、一時間ぐらい肝試しをして、帰ってくる。十時くらいには、宿に帰れる予定だ。
「飯、食べとくか」
俺はそう呟き、食堂に向かった。
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食堂には、数グループが居た。山登りに来たグループがほとんどのようだ。まぁ、そりゃそうか。こんな山奥まで来るなんて、やっぱり山登りか相当な変わり者だけだろう。
食事はバイキング形式で意外と美味しそうな料理が並んでいた。俺は焼き鮭とご飯、それと味噌汁を取って、席に着いた。
廃園とどんなところなんだろうなとか思いながら、ご飯を食べていたら、隣の大学生くらいのグループが話しかけてきた。
「ねぇ、君、さっきの大人数のグループだよね。何しに来たの?」
「肝試しに」
「肝試し? もしかして、廃園に行くつもり?」
「はい、そうですが……何かあるんですか?」
そしたら、彼らは驚いたような顔をしながら言った。
「まさか、調べずに行くつもりか!? 止めとけ、あそこは地獄って言われてる」
今度は僕が驚く番だった。地獄? そこまで、曰く付きの場所なのか?
「何があるんですか?」
「いや、あるっていうか、噂があるんだよ」
「そうそう、例えば、泣き叫ぶ声や子供の声とかの有名なやつから、光るメリーゴーランドとか、まぁ、沢山沢山」
「……」
「それにあそこに行った人は絶対に帰ってこなかったんだ。誰一人として。僕らはよく山登りにここに来るんだけど、帰ってきた人がいないことは保証できるよ。だって、誰一人として、この付近を通らなかった」
「でも、驚くのはここから」
「誰も帰ってきてないのに、なんで、こんな噂があるんだろうね」
彼らの口は更に動く。
「噂は噂を呼び、それは人を呼んだ」
「俺らはよく見たんだ。君ぐらいの子たちが廃園へ向かっていくのを」
「だけど、誰一人として、帰ってこない」
「かといって、俺らが入るわけにもいかない」
「だから、僕らは静かにしていた」
「だが、忠告はしておいた」
「ここに来て、『肝試し』なんて馬鹿らしいことをしようとしにきている子たちに」
俺は黙るしか無かった。そんな危険な場所だったのか?
「だけど、誰一人として、聞き入れなかった。次第に俺らも罪悪間を覚えるようになった。困るんだ。君たちのような人が増えては」
「だから、入らないでくれ。あそこは地獄なんだ。恐らく、見たことはないが、そうに違いない」
俺は立ち上がった。
「わかりました。クラスのみんなに話してみます」
「あぁ、頼むよ」
俺はクラスのみんながいる部屋に帰った。
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「ふーん。それで」
神野は言った。
「えっ、いや、危険だから帰ろうって」
「その大学生らしき二人組。そいつらの話は信用できるのか?」
「でも、いい人だったし、「でも、嘘をついてるかもしれない」うっ」
「彼らはただ、噂があるとしか言ってない。それが悪い噂にしろ、ここまで来るのにみんなかなりの金を使ってる。今更、帰るなんて言われても納得しないだろ」
確かにそうだ。ここまで来るのに、軽く数万は使ってる。
「だから、ここまで来て、止めるとかできないんだ」
「だけど」
「もし――」
「……もし?」
「――本当に帰りたんだったら、お前だけ帰れ」
冷酷にそう言われた。
「……わかった」
そこまで言われたら、俺は言うことに従うしか無かった。
そして、時計の針は刻々と進み、七時になった