第6話 美咲、準備完了
「まだ諦めるんじゃないぞ」
そう言って、美咲の肩に手を置いた男の子。
そんな男の子の手に美咲は何故か希望の光を見出した。
・・・・・・のだが、
「えーと、君。
その左手に持っている物は何、かな?」
美咲は男の子が持っている物を見て、絶望した。
「あっ、これか?
これは見ての通りのコントローラーだが?」
何と男の子が持っていたのはゲームのコントローラーだった。
男の子はそのコントローラーで狙撃銃と戦うというのだ。
「いやいやいや。
そんなんじゃ、無理だよ!!
相手は銃だよっ、そんなんじゃ歯が立たつわけないじゃん!!」
そう男の子に訴えると、男の子は不思議そうな顔で言った。
「何で、俺が戦うんだ?
戦うのはお前に決まっているだろう?」
さも当たり前のように。
平然と。
だけれども、美咲には始め、全然理解できなかった。
「・・・・・・へっ、わ、わた、わたひがた、戦うのっ!!」
脳が全く受けつけようとしない。
言葉にするのも噛んでしまうほどだ。
「うっ、嘘ォ「しっ、黙れ!!」」
案の定、パニックのあまり叫びかけた美咲の口を男の子が急いで塞ぎ、「黙れ」と命令した。
「ぅぐ」
よって、美咲は男の子の許可が下りない限り喋れなくなった。
そんな美咲と男の子の前の茂みから、千春たちが現れた。
「あー、やっぱり。
兄さん、来てたんですね」
千春が男の子(弟)を庇いながら前に立ち、弟が後ろで兄に言う。
さっきまでとは違う敬語で。
でも、どこか皮肉めいた敬語で。
「ああ、亜紀、お前が勝手に俺の美咲に手を出してくれたおかげで」
とてもじゃないが、兄弟の会話に聞こえない。
美咲はそう思いながら聞く。
「まさか、兄さんも“Maria”を買っていたなんて。
ゲーム以外には何の興味もない、あの兄さんが」
「それを言うならお前だってそうじゃないか。
植物さえも育てられないお前が、繊細な“Maria”をちゃんと扱えるのか?」
そう言った兄に弟、亜紀が何か気付いたようだ。
「あれ、兄さんが皮肉を言うなど珍しいですねぇ?
まさか、怒っていらっしゃるのですか?」
亜紀が皮肉たっぷりな笑みを浮かべながら兄に聞く。
そんな亜紀の皮肉はいつものことらしく、兄は気にせずに言う。
「ああ、怒っているさ。
プログラミングもしてないのに俺の“Maria”に手を出したことを」
そう言った瞬間、兄は美咲の一歩手前に出て、美咲を庇うように立ち、片手を広げえる。
そんな兄の行動に何かを悟った亜紀は急いで、その行動を止めようと千春に命令する。
「ちっ、千春、兄さんの行動を止めろ!!」
しかし、千春は動かない。
その代りにどこか事務的な言葉を発する。
「戦闘中です。
命令は、“リモート・コントロール”で“Maria”を操作してください。
または、戦闘モードを解除してください。
繰り返します・・・・・・」
それを聞いて、亜紀は苛立ちながらも慌てて杖を振ろうとする。
「クソッ、これだから、“マインド・コントロール”した“Maria”はっ!」
亜紀がもたついている間にも、兄は動き出す。
「いいか、美咲。
今から俺が言うことを心の中で復唱し、肯定しろ。
そして何より、俺を信じるんだ。
そうすれば、俺達は勝つ」
男の子は美咲が喋れないのを忘れているようだ。
そう思いながらも美咲はコクコクと頷く。
そして、「信じよう」と思った。
だって、余りにも男の子の目が真剣だったから・・・・・・。
男の子が大声で叫び出す。
「我が名は、覇瑠。
製造番号0103、コードネーム“MISAKI”の主人である。
よって、“MISAKI”の全ての権限は我にあり、“MISAKI”は我の命令に如何なる時でも、絶対に服従するものとする。
今日、四月十六日、これを宣言する!!」
そう男の子、覇瑠が叫んだ瞬間。
美咲の中に色んなものが流れ込んできた。
技の知識や防御の知識など、今までに学んだこともない、ありとあらゆるものがものすごい勢いで美咲の脳の中に流れ込んできた。
膨大な量のデータだったが、全てが流れ込むのに一分もかからなかった。
「さて美咲、もういいか?
やっと、(戦いの)本番のはじまりだ」
そう勢いよく言った覇瑠。
そのちょっと後ろで立つ美咲の目は、もうさっきまでの美咲の目とは違った。
それはまるで、血に飢えた獣の目だった。