第2話 美咲、困惑
あの走り切った後の見上げる空が大好きだった
風によって短いながらも少しなびく髪と、絶え間なく流れてくる汗を感じながら走って、走って、全力で走って
そして走りきった後、見上げる空が
誰にでも平等に見える青く澄み切った空が、
その時だけは自分だけがその空の青い美しさを知っているようで
その時だけは空を独り占めできているようで
とってもうれしくて、大好きで、自然と笑顔がこぼれた
そんな空が見たくて、
そして走るのが大好きで
「絶対、高校に行っても陸上部に入るぞー!!」
と決めていた、
決めていた・・・のに・・・・・・
美咲はいた。
手触りの良いベッドに質素ながらもちゃんとしたイスとテーブル、そして不自然にも散乱した大量のゲームとどデカイテレビなどが置いてある美咲の部屋の何倍にも広い煌びやかな部屋に。
いつもの美咲なら「すご〜い!!」と騒いで、「何でゲーム?」とツッコムが、今はそんな余裕はなかった。
「はぁっ!?
Would you repeat that, please?(もう一度言ってくれませんか?)」
「だから、お前はもう、一度死んでいるんだ。
Understood?(わかったか?)」
美咲の顔が蒼白になり、嫌な汗が流れる。
先ほどから何度も繰り返される美咲の質問と少年の答え。
そして出てくる結論は決まっている。
それは、美咲が死んだという事実・・・・・・。
もし、それが少年の口から出てくるだけで証拠もなにもなかったら、美咲だって信じない。
でも、あるのだ、証拠が・・・・・・。
それは美咲の周りに散乱している書類に書かれていた。
『今里美咲 十五歳 三月十九日午後四時三十六分頃交通事故によって死亡。
偶然通りかかった帰宅途中の会社員によって発見。
その時にはもう息を引き取った後だった。』
この後にも長々と続く文章。
それはすごく細かいところまで書いてあり、作り物には見えなかった。
そしてもうひとつある証拠。
自分の中にある記憶だ。
確かにあの時、美咲自身死ぬという感覚はあった。
そして自分は死んだと思っていた。
しかし、実際どうだろう?
美咲は震える手を動かしてみた。
手は動いている。
つまり、生きている。
この事実は真実以外の何ものでもない。
そう思った瞬間、美咲はまだ震える体を無理やり動かし、座っていたベッドから勢いよく立ちあがり、少年に向かって叫んだ。
「う、うそよっ、うそっ!!
き、君!!そ、そんな冗談の通じない嘘はよしなさいっ!!
お姉ちゃん、苦手な英語使っちゃうほどビックリしちゃったじゃない!!」
「死んでない、私はちゃんと生きている」
美咲の中にそう確信が出来たときだった。
少年が謝るわけでも、黙るわけでもなく、高笑いをしたのは。