怜我「マジでここはゲームの世界かよ....」
俺の名前は神城家長男、神城怜我だ。
現在俺は姉の緋彩と地上に出るために、地下街を全力疾走中だ。
何故、走ってるのかって?
それがさ、突然結構大きな地震が起きたんだけど、その直後に今まで何処に隠れてたんだってくらいの大量のゾンビが押し寄せてきてさ、追われてるんだ。途中地上に出ようとして何度も階段がある所に行ったけど、そのどれもがアウト。何処も彼処もゾンビがひしめき合ってやがる。地震にゾンビ、もう踏んだり蹴ったりだな。そういや2日前にも結構大きな地震あったよな?
ん?何だよゾンビなんかいるわけないだろって?
まぁその反応が普通なんだろうな。俺もつい数十分前まではそんなのは俺が好きなゲームの中だけの話だと思ってたんだよ。それが地震の直後に出るわ出るわで。走りながらも現実逃避中だよ。
「........怜、遅いよ。」
「ハッハ......わかってるっ....!」
若干スピードの落ちてきた俺に注意する姉貴は、ただ俺と一緒になって走っているだけでなく俺がゾンビに追いつかれそうになるとそいつを腰に帯刀した刀で鞘に入ったままで野球のバットの要領でぶっ飛ばしてくれる。ホームランとばかりにゾンビ共がぶっ飛んでいく様は圧巻の一言に尽きるだろう。
対して俺はと言うとたかが数十分走っただけだが、常に全力疾走で走っていることや、振り向けばすぐ側に奴らが迫っているような距離への緊張感などによりスタミナがガリガリと削られていき、もうバテバテだ。男なのに情けない。
だがそんな事思っていても体は正直なもんで、かつて無いほどの息苦しさに、俺はそろそろ自分が限界に近づいているのを悟った。
「てかっ........なんでっ....全然っ....息も乱れてねーんだよ!!」
「........なんか....全然疲れない。........筋力もおかしい。それにさっきから」
「んだよそれっ!!」
姉貴が何か言いかけていたがつい遮ってしまった。
確かにちょっとおかしいよな?
姉貴は部活にも入ってるし、筋力トレーニングとか毎朝ランニングとかしてるけど、それでも女だ。刀で思いっきり殴ったとしてあんな漫画みたいにポンポン飛んでいくのはおかしい。それにランニングなら実は俺もしている。姉貴がトレーニングしてるのを見て俺も始めようと思ったんだけどババアに知られたら絶対確実マジでからかわれる。だから誰にもバレない深夜とかに走ってんだけど、姉貴とここまで差があるとかありえねぇだろ!!
「........ってぇ!!」
足がもつれて転倒してしまった。急いで立ち上がろうとするが全く足に力が入らず、立つことが出来ない。
とうとう足に限界が来てしまった。
どんどん離れていく姉貴の背を見て俺は思った。あぁ、俺はこのままゾンビの仲間入りかよ....。
そして背中を何かに掴まれる感触があり、もう無理だとそんな瞬間だった。
「........怜が止まるのが悪いんだから。」
前方を走っていた姉貴の姿が見えなくなると、フワッと足が地面から離れ、背中と膝裏に手を回される感触があった。
そう、これはあれだ............、女子なら誰もが憧れると聞くあの伝説のヤツ........お姫様抱っこ。
それの姫ポジションが現在の俺だ。そして王子ポジが姉貴。
「何してんだよおおおおおお???!!!!」
「........だって怜しんどそうだし、....遅いし。こっちのが早いから。」
恥ずかしさのあまり大声で叫ぶが、姉貴は全く気にした様子はなく、そう言うとぐんぐんとスピードを上げて、ゾンビ共との距離を開けていく。正直に言うと俺が1人で走っていた時よりも早い。
俺の中にある男としての何かがポッキリ折れそうだ。
「........これからどうしよう。」
「だよなぁ。姉貴の体力がどのくらい持つのか知らないけどこのまま走って逃げ続けるってわけにもいかないし。はぁ、ゲームだったらこう魔法とか攻撃スキルとかあったりするんだけどなぁ。」
「........怜....ここは現実。........現実逃避しないで。」
「分かってるよ!でもゾンビとかマジで現実味ないじゃん。だったらさぁ、こう“ステータスオープン”とかやったら何か出てきそうじゃね?」
ヴォンッ
「「................。」」
冗談半分で『ステータスオープン』と言うと謎の文字が羅列された半透明のモニターが俺の前に現れた。
もちろん、俺と姉貴は無言になる。
因みにこの間もゾンビから逃げてるんだぜ?マジで俺の姉貴バケモンだよな。
「ははっ....ははははっ。」
「....怜、現実に戻ってきて。」
「いやいやいや、なんでだよ!!」
「........目の前の現実だけを見て。」
「あー、マジでここはゲームの世界かよ....。だけどこれが今の俺達に残された最後の希望になるかもしれないんだよな....。」
「....なんて書いてるの?」
姉貴の位置からは見えにくいのか不思議そうに聞いてくる。
「ちょっと待てよ。」
そう言ってその半透明のモニターを除くとどうやらゲームで言うところのステータスが載ってるようだった。
因みにこんな感じ。
☆☆☆☆☆
名前 神城怜我(時空支配者)
Lv. 1/5
職業 人間
HP 13/13
MP 13/13
ATK 8
DEF 4
AGI 7
LUK 2
☆☆☆☆☆
........なんつーか、マジで変な世界になったな。これ皆出るのか?
「........どう?」
「あー、ちょっと待ってくれ。」
ふむふむ、何となくわかるのは今の俺はクソ弱いって事だな。何だよ『LUK 2』って!!確かにこの状況を思うと不思議と納得出来てしまうのが腹立つ所だな。
まぁレベルが低いから仕方ないか。
後なんだこの『職業 人間』ってそらそうだろって言いたいな。
その他は........ん?名前の横に書いてるこれは一体なんだ?『時空支配者』?何だこの無駄に厨二臭い名前は。
気になってその文字をタッチして見ると、モニターの画面が切り替わった。
☆☆☆☆☆
時空支配者
→時空の支配者の君は時空に関するあれこれの支配者になったよ。
☆☆☆☆☆
「何だよこれ!!ふざけんな!!」
「........落ちる、暴れないで。」
「あ、わりぃ。」
「........それで?なにか分かったの?」
「いや、なんか俺時空の支配者になったみたいだ。」
「........そう。」
「............いや、なんか突っ込んでくれよ!!」
「....それで何が出来るの?」
「そんなの分かんねえよ。」
「じゃあ自分で考えなさい。貴方はいつまで親の助けが必要な子供でいるつもりなの?」
珍しくスラスラと喋った姉貴の、突き放すような視線と言葉が俺に突き刺さった。
そう言えば俺はこの事態が起きてからずっと姉貴を頼ってきた。最初は男なのに情けないとか恥ずかしいとか思っていたのにいつの間にか当然のようにこのお姫様抱っこをされるという状況も受け入れていた。........これではダメだ。
よし、今の俺に何が出来るか考えろ。
まずこの『時空支配者』だが、何が出来るか分からないが逆に言うとまだこいつには何かがあるという希望があるんだ。ならば何が出来るのか。
この説明文には『時空に関するあれこれの支配者になった』とよく分からないくらいふわっとした曖昧な事が書いてあるが、要するに時空に関する何かが出来るようになったと考えられるだろうか?
もし、何かが出来るのなら例えば何が出来るだろうか?
時空....時間....空間....。
俺達は今何をしたい?あのゾンビ共を一掃する力が欲しい?いや、今はここから逃げたい。
逃げる....こことは違うゾンビが居ない場所に行く....移動?
空間を移動することによってこの場から逃げる。空間を移動........そうだ!!転移だ!!
時空の支配者になったんだ。転移くらい簡単に出来るだろう。てか、出来てもらえないとやばいぞ!!逆に何が出来るってんだよ!!
「姉貴!ここから転移するぞ!!」
「........転移?」
「テレポートだよ。瞬間移動!!」
「?........分からないわ。」
「あー、もう何でもいいよ!取り敢えず俺に捕まってろ。」
「いや、....今、怜抱っこされて」
「行くぞ!!」
またもや姉貴が何か言いかけたがまぁ構うもんか。
出来るかどうかは分からんがまぁ一か八か出来る方に賭けるしかねえ!!
どうか、ゾンビがいない所へ。
「“転移”!!」
そう唱えると俺の意識は抗う間もなく闇に落ちた........。
*****
「............ん....。」
「....目、覚めた?」
「俺....寝てたのか?」
目が覚めると知らない天井ではなく、姉貴のいつもと変わらない無表情が見えた。
「ええ、....10分くらい。........起きないから心配したよ。」
「あぁ、そうだったんだ。心配かけてごめん。それにしても俺はなんで眠ったりなんかしてんだ?」
疑問に思いつつ何処かだるく感じる体を起こして、現状がどうなっているのか知るため辺りを見渡すと、そこはとても見覚えのある場所だった。
「ここって、さっきのスーパーだよな?ってことは転移は成功したのか?」
「........そう。怜が何か言った後........気付いたらここに居たの。........出入口を閉じてから....中を見て回ったけど........誰も居なかったわ。........ここならしばらくは............大丈夫そう。」
そして姉貴が指さした先を見ると、この店唯一だった出入口に防犯用のシャッターが降りていて、完全に封鎖されていた。
見る限りだが結構丈夫そうだし、外にいたゾンビ共の呻き声も今は聞こえてこない。姉貴の言う通りしばらくは安心できそうだ。
これは今の内にさっきのやつの確認をするべきだな。
「“ステータスオープン”」
ヴォンッ
☆☆☆☆☆
名前 神城怜我(時空支配者)
Lv. 1/5
職業 人間
HP 13/13
MP 2/13
ATK 8
DEF 4
AGI 7
LUK 2
☆☆☆☆☆
「........これ何書いているの?」
ステータスを隅々まで確認しようと、あの半透明のモニターを出すと姉貴が興味深そうに覗いてくる。だが書いてあることが分からないのか眉をキュッと真ん中に寄せていた。
「どれが分かんないんだ?」
「どれがっていうか........何も分からない。........これ何か書いてるの?」
「は?何かも何も........、もしかして俺のステータスは俺しか見ることが出来ないのか。なあ、試しに姉貴もステータス出してくれ。『ステータスオープン』って言ったら出てくるはずだから。」
「....分かった。............“ステータスオープン”」
ヴォンッ
出るかどうかも分からなかったがどうやら姉貴にもこの半透明のモニターが出せるようだ。
これには普段全く無表情を崩さない姉貴でもちょっとわくわくとした嬉しそうな表情を浮かべた。
「おぉ........。」
「これは誰にでも出せるのか?まぁ今はその事は置いておいて、どれどれ........。なるほどね、他人のステータス画面は見ることが出来ないのか。いや、一体どういう原理なんだよ........。」
俺は姉貴の前に浮かんでいるモニターを覗いてみるが、そこには何も書かれていない空白が広がっているだけだった。
何がきっかけでこんなものが出るようになったのか気になるが、取り敢えずは置いておこう。
それよりもだ。
俺は立ち上がってスーパー内の文房具コーナーからノートとペンを拝借すると、そのノートに俺のステータス画面を書き写した。そして姉貴にも差し出す。
「........何これ?」
「俺のステータス画面を書き写したものだ。姉貴もここにモニターに書いてあることを書き写してくれ。」
「........分かった。」
さらさらと流れる様にノートに書き込むと、姉貴は俺にノートを返す。
姉貴のステータスはこんな感じだった。
☆☆☆☆☆
名前 神城緋彩(黙示録の業火)
Lv. 5/5
職業 人間(※転職できます)
HP 30/30
MP 31/31
ATK 24
DEF 20
AGI 35
LUK 12
☆☆☆☆☆
あれ?姉貴何か強くね?