「今日はいいお天気ですね。」
だれでも読みやすいように短くまとめました。細かい描写はあえて書いてないので、みなさんの想像力で物語を読んでください。
「き、今日はいいお天気ですね。」
馬鹿みたいで本当にアホみたいな一言だと、僕は思った。
そもそも今日は雨だ。
こんなに場違いな挨拶をリアルでするやつはいないと思っていた。
「ふふっ。」
ほら、目の前にいる女の子に笑われたじゃないか。
「あなたすごく面白いわね。…そうね今はとってもいい天気だわ。」
…どうやら彼女はお気に召したみたいだ。
そもそも、なんでこんなことしてるのか?
そんな風に思われるのは仕方がない。
だって、僕も何故こんなことしたか疑問に思うくらいだ。
でも、買い物帰りに見た彼女がすごく綺麗でそれでいて何か儚さを感じた。
そんな彼女に僕は、多分…一目惚れしたんだろう。
女の子になんて滅多に話さないからどうしようもなかったし、こんな美人ならなおさらだ。
けど、二度も出会えるか分からない。
勇気なんて僕にはないと思ってたけど、今なら僕は自分を勇者だと褒め称えられる。
「ところで、私はあなたのこと知らないんだけど、これってナンパかしら?」
「え、えっとー、まぁそんなとこです…すいません。」
「あら謝る必要なんてないわよ。だって、今から私を楽しませてくれるんでしょ?」
しまったぁー!
ナンパで話しかけて成功したときなんか考えてもなかったぞ…
「そ、それじゃあ…アニメショップとか?」
…って、馬鹿かぁ!僕は!
でも、思いつく場所ここくらいしかないよな…
「アニメショップってなにかしら?まぁ、あなたが楽しいと言うなら行きましょう。」
まぁ、どうせこんな子と遊べること自体が奇跡だ。
失敗したって仕方ないと思うことにしよう。
すると、彼女はおもむろに手を出した。
なんだ?
「あら?手を繋がなくていいのかしら?」
もちろん、繋がせていただきました。
…女の子の手ってやわらかいんだな。
「このアニメなんかすっごい面白いからさ見てみてよ!」
いつの間にか僕は彼女に熱く語ってしまっていた。
「くっくっくっ…あなた本当に面白いのね。さっきまでと全然違うじゃない。」
し、しまった!
夢中になってつい、やってしまった。
「い、いや…これはその…」
「いいのよ。あなたはそのままで。今までの男は私を楽しませようと無理してたけど、あなたは本当に楽しそうなんだもの。私も見てて楽しいわ。」
「で、でもそれじゃあ君が…」
「あら、そんなに気を遣わなくていいのよ。これが面白いのよね?なら、帰って観ようかしら?」
「うん!本当にハマると思うよ!感想聞かせてね!」
「ほら、また熱くなってる。」
「あっ…」
慌てる僕を見て彼女は、とても穏やかに笑っていた。
「あら、もうこんな時間なのね…また今度一緒にどこか行ってくれないかしら?私はあまり遠くへは行けないけれど。」
「えっ?」
「あら?あなたは一度だけで満足だったのかしら?私はまたあなたと遊びたいと思ったわ。」
「い、いえ是非!」
その後、僕たちは連絡先を交換しあった。
また、会えるなんて思ってなかっただけに僕はすごく舞い上がっていた。
彼女と会う頻度は、そんなに多くなかった。
けど、月に1、2回はどこかへ行って遊んだ。
僕は必ず会ったときは、
「今日はいいお天気ですね。」
と、言うことにした。
彼女もそれになんとなくノッてくれていた。
自分でもしつこいかな、とは思ったけど彼女が律儀に返すもんだから毎回言っている。
気になるのは、返事が天気とはあんまり関係ないことだった。
雨の日でもいい天気と答えたり、晴れでもよくない天気と答えたりしていた。
何か規則性があるのかなと思って、彼女に聞いてみた。
「どうなのかしらね?」
いい感じにはぐらかされた。
僕はまだ彼女に告白できないでいる。
何回も会う度に思いは募るが口には出せない。
僕の好意に彼女も気づいているんだと思うけど、いつまでも待ってくれているような気もする。
それにいつまでも甘えてるのも男としてどうかと思うが、このよく分からない関係も心地よかった。
ある日の彼女と遊びに行く日に僕はいつものように彼女に、
「今日はいいお天気ですね。」
と、尋ねた。
当然、普段の返事が来ると思っていた。
けど…
「……」
何も答えてくれなかったんだ。
なにがあったのか聞いてみても、
「なんでもないわ。」
ずっと、こればっかりだった。
どこか上の空な彼女を見て、僕は楽しい気持ちになんてなれなかった。
だからかな?
僕は変なことを口走った。
「僕はさ、今まで誰か女の子と喋ったり、遊んだり、付き合ったりしたことってあまりなかったんだ。でも、それでもいいんだよ。僕なんかよりずっといい人がいるって感じてさ、なんか申し訳なかったんだ。」
「…」
「それにほら、僕さオタクじゃん?女の子にはとても気持ち悪がられてた。君が前に見たように、つい熱くなっちゃうんだよ。」
「…」
「でもさ、君だけは違ったんだ。優しく笑ってくれたんだ。僕は、本当に嬉しかったんだよ。だから、最近は少し前向きになれた。会社でも『最近、明るくなったね。』って言われた。」
「…」
「君に救われたんだ。ありがとう。」
「…私もあなたに救われたのよ。」
「えっ?」
「ふふっ。まだそうやって知らないフリをしてくれるのね。」
「…」
「いいのよ。もう。気付いてたわよね?私、あまり目が見えてないのよ。」
そうだ。
僕は何回目だったか忘れたが、気付いてた。
彼女が毎回手を握ってくるのも、僕が行きたいとこに行くのも、どれも見えづらいからだろう。
手を握ってないと足元が危ないし、行きたいところはよく見えてないからどこかよく分からなかったのだ。
でも、僕は気付いてからも彼女から言われるまでは、知らないフリをすることにしたんだ。
「気づいてたよ…」
「ほら、やっぱり。あなたって本当に優しいのね。」
「違うよ。君が隠そうとしてたから、そうしようと思っただけだよ。」
「またそんなこと言うのね。でも、あなただけだわ。みんな気づいたら腫れ物を扱うように私に接した。男はみんな少しずつ距離を置いていった。そして、周りは誰もいなくなった。あなただけよ、こうして私のわがままに付き合ってくれるのは。」
けど…と彼女は続け、
「もう、今日までにしましょう。会うのは。」
「…っ!?」
「今まで、ありがとう。あなたの優しさに私は甘えすぎたわ。本当に。このままじゃ、私は甘えて甘えて……
そのまま溺れちゃいそうだもの…」
「…」
「じゃあ、そろそろ迎えを呼ぶわね。さようなら。」
「………違う」
「えっ?」
「違う!僕は優しさなんかで君に気を遣ったんじゃない!僕は笑ってくれる君が見たかった。もっと見たかったんだ。自分のためだよ。目が見えてない君に毎回付き合わせた、僕の方が甘えてたんだ。」
そうだ。全部僕のためだ。
「僕ってさ、本当にわがままだし、言うことも聞かないやつなんだ。」
最低だろ?
「僕は、全然足りないよ。まだ、君の笑った顔も見るのも満足してない。遊び足りないし、声もまだまだ聞きたいんだ。」
だからさ…
「ここで、お別れなんて絶対に僕はいやだ。」
だって、
「君が、大好きだからだよ。」
「うぇ!?」
「いつでも、君がなにか困ったら僕が側にいる。その代り、君はずっと笑っててよ。絶対に君の顔を曇らせたりしないから。」
「…そんなのズルいわ。」
「ふふっ。今日の僕は一味違うよ?」
「もう…私もあなたのこと大好きよ。私はたくさん、たくさん迷惑かけちゃうかもしれない。でも、もうあなたから離れるなんてできないわ。」
「うん、二度と離れようとしないでね。」
「もちろんよ。」
「ねぇ?もう一回聞いていいかい?」
「いいわよ。」
「今日はいい天気ですね。」
「人生で一番最高よ。」
おしまい。