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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第一部 鴉の姫
9/100

更新はこれから、たぶん周一ペースになるかもです。




******




「おお、小娘を殺す手間が省けたなぁ」


ねっとりした口調で、辰迅は言った。

隣の大柄な男も楽しそうに声を出して笑う。

夜呂はじっとしていたが、やがて姫の背中に刺さった矢を抜こうとした。

が、そのとき朱楽の声が響いた。


『それは抜かない方がいい。傷が開く矢だ』


感情のない声だ。

まるでただの人形のように。

夜呂は伸ばしかけた手を引っ込めると、姫を静かに寝かせた。

その眼からは、ひとすじの涙がこぼれ落ちる。

もう、意識はなかった。



夜呂は姫の持っていた刀を持ち、構えた。


泣いてはだめだ。

悲しんではだめだ。


こいつらを片付けてからだ。

そう自分にいい聞かせ、彼はふたりの男にかかっていった。

「うわああぁああぁ」

叫びながら、切りつける。

涙が溢れ、とめることなどできなかった。



憎い。

悔しい。



なんで死ぬんだ。

なんで大切な人ばかり死ぬんだよ……




「そんな細い腕で戦えるか!」

大柄な男が突き飛ばし、それだけで夜呂は倒れてしまった。

それでも彼は立ち上がり、再び挑む。

しかし、ひとつきで夜呂の刀は宙に舞った。

あっという間に力の差が歴然としてしまい、夜呂はきつく顔を歪めてふたりの男を睨んだ。

じりじりとつめよってくる彼から、逃げるすべなどない。

とはいっても、夜呂は逃げようなどとはみじんにも思っていない。

姫をひとり残して逃げるなど、頭には残っていなかったし、そもそもそういう考え自体思い浮かばなかった。


ただ、目の前の敵に立ち向かうことだけ。

それだけで、あとはまっしろだった。


夜呂は自身の手に目を落とす。

武器をなくし、残るのは素手だけ。

辰迅は含み笑うと、刀を夜呂につきつけた。

「選択肢をやろう。殺されるか、奴隷として売られるか」



そんなことならば、選択肢など最初からないも同然だ。

ふっと軽く笑うと、夜呂は挑戦的な眼で答えた。



「死なないし、売られるつもりもない」




辰迅の視線が変わった。

殺気を帯たのだ。


「ならば、死ね」



刀をかかげ、ふりおろす――そのとき、烏の鳴き声が空に響き渡った。

一羽の……否、何十羽もの烏が。

そのあまりの数に、夜呂も辰迅たちも動きをやめて、半ば放心状態で見守るしかなかった。

遠くから、黒々とした点が近づいてきたのだ。

カァカァと鳴き、その黒い点たちは夜呂たちの頭上で止まった。



「夜呂!!!」

同時に、高安の声もした。

夜呂の姿をみとめ、すばやく状況判断をするところはさすがであった。

「辰迅、貴様!夜呂を離せ!」

高安のその口調からは、以前のものが戻ってきていた。

兄と弟のような親しさが。




『姫……』



一羽のうつくしい烏が空から着地した。

がらがら声の、漆黒の翼の、喜助だった。

『姫を殺したな。姫を傷つけたな』

その眼は深く、深く、怒りと憎しみと殺気を宿していた。


逆らえない。

逆らわない。


その、圧倒的な力に。



『人間ども、皆殺しにしてくれる』

不気味ながらがら声が空に、地に、響いた。





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