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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第五部 鴉の覇者
67/100

うへぇ(何

たいそう久々になってしまった上、まだ鴉の子になじまず、前半は苦しい感じです汗

後半からノってきたのですが、もしかすれば以前とちがう雰囲気かもなぁ、なんて(^^;)

書いているうちに、奴らの関係や陰謀がわからなくなってきて、混乱しちゃいまして、流れで読み直してみました。

あ、やっぱり成彰楽しい!←

ということで、やる気が出てまいりました(笑)


またお付き合いくだされば幸いです。

それでは、どうぞ!










******



「どこへ行かれるのですか!?」

驚きと非難を込めた声がしたが、気にすることなく、馬に鞍を置く。

鎧兜は脱ぎ捨て、刀だけを帯の横にそえた。

いつの間にか降り出した小雨はぱらぱらと地を打ち、湿っぽさが空気に混じっている。

曇天になりかけた空を見上げ、さっと馬に飛び乗った。

「成彰さま、指揮はいかに?!」

無視を決め込んだおれに慌てたのか、煩く騒いでいた家臣のひとりがそっと尋ねた。

一瞬それすらも無視して出立しようと思ったが、さすがに思い止まり、振り返る。

宮方を攻め落とすだとか、今はそんなことをしている暇はないんだ。


おれには、時間がない。


「なにかあったら籠城に持ち込め――あとはおまえに任せるよ」

それだけを言い、馬を走らせた。






濡れてしっとりとした髪が頬に張り付く。

それすらも構わずに、ただひたすら馬を走らせる。


――姫が堕ちた。

その情報は、価値があった。

鴉の屋敷の姫が、とうとうマヨナカにのっとられたという事実。

いつのまにか起こっていた衝撃に、顏をしかめる。

あいつは死んだのだと思っていた。

マヨナカが屋敷の主になるためには、姫は邪魔な存在。

だから殺したとばかり――取り込まれたのか。


また、裏切りだ。

どうせ信じちゃいなかったけれど。

トカゲは偽の情報を渡していた。

けれど気にすることはない。

真実はすでに、手に入ったのだから。



今、おれの軍と戦っているのは、旧宮軍と北国の連合軍だった。

それをまとめあげているのは、あの北国の皇子の従者・高安。

当の皇子・夜呂は彼に宮を任せ、自らは烏と烏の屋敷へ向かったらしい。


喜助は今、どこにいる?

姫は今、マヨナカは今……?


姫はきっと喜助に売られたのだろう。

マヨナカは迷うことなく、あの夢にみた黒髪の女を取り込んだのだろうということは察しがつく。

ただ、喜助の協力があって実現することだ。

あいつ、姫にべったりだったのにな。

やはり、沖聖には代えられないか。





日がたち、雨が激しさを増す。

空は闇を迎える。

曇天、そんななか一日も休む間も与えず、ひたすら馬を走らせていた。





やがて、木々が覆い茂る。

道幅は極端に狭くなり、岩肌が見えてくる。

土砂降りのなか、これ以上馬では駆けあがれないところまで一気に進み、荒い息を整えた。

屋敷の場所は、わかる。

ちゃんとした道を知らなくとも、なにかに導かれるように、その場所はわかるのだ。

きっと呪いの欠片があるから……。



雷雨。

カッとまぶしいくらいの雷が轟き、一気に雨が強まる。

馬は臆病だ。

鼻を幾度か鳴らし、なかなか進もうとはしない。

おれは舌うちをして、馬をとうとう乗り捨てた。



雨は次第に強さを増す。

まるで嵐かなにかじゃないかと思うほどの勢いをもって、木々をなぶり、風を巻き、そうやって地をぐしゃぐしゃにしていく。

ぬかるんだ地に足をとられ、崩れる。


――もう少しなのに。


寝ていないせいか、頭が重い。

身体もだるく、思うように動かない。

加えて雨を吸い込んだ衣の重みは、どこか気分を落ち込ませた。



やがてしばらくのろのろと歩を進めていくうちに、洞窟のようになっている岩穴を見つけた。

これ幸いと、雪崩れ込むようにそのなかへ入る。

雨粒ひとつひとつが岩肌に反響し、雷のごろごろと地を這い唸り、轟くような響きが空気を揺るがしている。

曇天はつづく。

ずっとずっと、木々が深まり、そのたいそうな屋敷が見えるところまでも呑み込んで。


いきなりはっと我にかえり、苦笑する。

ぼんやりと雨をながめていたなんて、自分としちゃ、滑稽な話だ。

奮い起っていた気持ちはなぜか凪いでいる。


「……ふゆ」


その言葉は、自然に口から滑り落ちた。

ふゆ?

冬?

なんだ?

おれはなにを口走った?


――疲れているんだ。

きっとそうだ。

わけもわからず呟くなんて、どうかしている。


身体を横たえ、不気味なほど静かな洞窟で目をつむる。



見えるのは、闇。

静かで、深い、闇。

きらっていた、黒い闇。



けれどどこか――あんなにギラギラ光る雷よりも、寡黙な闇のほうがいいだなんて、そんなことを思った。

思いながら、いつしか夢に落ちていた。






烏がいた。

地に身体を横たえ、力なく。

喜助でもない、あれは――。

『成彰』

半ば自嘲的に、そいつは語りかけてきた。

玄緒だ。

『計画は失敗した』

烏はゼェゼェと喘ぎながら言葉を紡ぐ。

「そうだろうな。おまえ、勝手に動いたからな。おれの知ったことじゃない」

玄緒は密かに、マヨナカの力を手に入れようとしていたのだ……気がついていたが、そのまま放置していた。

烏になにができる?

ほら、この様だ。

早良の魂を使って沖聖の魂を呼び寄せようとしているおれを、喜助が見逃すわけがない。

その隙に玄緒は、マヨナカの力を手に入れようと考えたわけだ。

「おれをおとりに喜助を出し抜いたつもりだろうが……甘かったみたいだな」

『そうさ。もう、取り込まれてる』


――マヨナカに。



ゾッとした。

烏すらも、取り込む。

生きている、生き物ですら。

「それでおまえは、死んだのか」

烏は目をこちらに向ける。

黒々としていて、光はない。

『たぶんな。マヨナカさまんなかにいるってことは、そういうことだろうよ』

烏は笑った。

自分に、それからおれに向かって。

『おまえが夢見の多い奴でよかった……いいこと教えてやるよ』

ぼやけはじめた視界のなかで、烏の声は轟く。

地を揺るがすように、心を怯えさせるように。


『マヨナカさまを負かすことはできない――おまえだってな』


余計なお世話だ。

忠告のつもりか?


口の端で笑って、おれは目をあけた。






『まだ、囚われている』

はっと顔をあげる。

夢から覚めたと思ったが、辺りは再び暗闇に包まれていた。

そして闇に浮かびあがったのは、いつしかも夢に出てきた少女。

長く艶のある髪をふり、彼女は悲しそうにこちらを見やる。

『……もう、いいの。自由になって』

――なにを?

『還そう。呪いは、もういらないの』

問う間も与えられず、彼女は淡々と言葉を落とす。

そうしていつしか、ふっと笑った。


『あなたの幸せを、ずっと願ってる』



ああ、待て。

抱きしめさせてくれ。

この手に。

この目に。

おまえの笑顔を……。


「フユっ!」


無我夢中で、おれは叫んでいた。

闇に向かって。









「……ッ」

なにかが目を突く。

うっと声をあげ、その鋭さに起き上がる。

目を射たのは、さんさんと降る太陽の光だった。

雨があがったのだ。


今度は本当に夢から目覚めた。

いつの間にか深い眠りについていたらしい。

久々にこんこんと眠った気がする。

開けた空に広がる、青い世界を見る。


空の色、太陽の色。

おれの瞳と、髪の色。



ぐっと身体を伸ばす。

どす黒い感情なんて、嘘みたいに消え失せていた。

――否、顔を隠していた。

それでも、このときばかりは、なぜだか物凄く晴々しかった。


フユ。

それはあの少女の名。

だれかはわからない……気づかぬふりをしているだけかもしれないが。



秋が深まる。

やがて、終わる。


そうして、やってくる季節。

巡る季節に、以前ほどいやな気分はしない。

終幕か?

自由か?

ちょっとちがう。

自分でもよくわからない、なにかがある。



やがて秋が終わる。

そうやって巡る季節がある。



――冬が。












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