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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第五部 鴉の覇者
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第三章 哀傷

久々の更新でした、すみません。。

最近は「鴉の子」を書く際の文章が不安定で、なかなか筆も進まず、納得のいくものが書けませんでした。


今回の更新分も、なんだかしっくりこないようなくるような……そんなドキドキ(汗)な感じになっています。


まだまだ不安定でしっくりこないかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。



それではこれより第三章です。

時は過ぎ、夏から秋になりました。

では、どうぞ。




【第三章 哀傷】





******


「――待ってたよ、この日を」

口角をゆるゆると引き上げて、今までにないくらいにっこりと笑う。

そう、待っていた。

この日がくるのを、ずっと。


もう、逃がしはしない。

決着を、つけよう。



赤錦、鎧兜、槍を、弓矢を、刀をもて。

歩行隊、騎馬隊、前へ進め。

旗をあげろ。

高々と、天空突き上げるまで。




「じゃあ、お気をつけて」

華虞殿が目を細めてそう言った。

明け方、まだ空が白みはじめたばかりのなかを、おれは黒馬にのって進む。

背後でいつまでも華虞殿の視線を感じながら、決してふりかえりはしなかった。


駿馬の背をやさしくなでる。

はやく戦場を駆け抜けていけるよう、願をかける。

獲物をこの手で捕まえられるように。

千里の馬のように、天を翔るように。

今日こそが、おれの切望した運命の日なのだから。



夏がおわった。

風は冷たさを増し、葉は目の覚める緑の色を落としはじめ、茶色や赤に染まり出す。

日はどんどん沈むのがはやくなり、ただ切なさを膨らませる季節が到来を告げていた。

この戦は、短期間で終わらせる……そのつもりだった。

無駄に体力を使う夏はきらいだったし、冬は豪雪にみまわれ動けない。

となれば、秋が。

秋におこす戦がいいと、そう思った。


兵士をかきあつめ、体勢を整え、目指すは幼皇帝のいます国。

そこを攻め落とし、そして一気に――一気に、烏の山を。

あの屋敷を、ぶっ壊してやる。

ゴウゴウ燃える屋敷を想像し、ひとり馬上でうすら笑った。




「文を」

川を越え、西の幼皇帝の国の国境にさしかかったところで、家臣に言う。

出されたまっしろい紙に黒い墨を落とし、筆を走らせる。


あれから――夜桜たちはどうなったのか。

すっかり音沙汰をなくした裏切り者にも、制裁を加えなくては。

優秀なおれの駒のトカゲによると、西の国はもはやボロボロらしい。

山に小さな幼皇を隠していたくらいだし、もうあの国ももたないだろう。

今、西の国に王はいない――夜桜ごときの器で、国を治められるわけはない。

となれば……めざわりなのは、あの亡国の北の皇子だ。

――殺してやればよかった。

第二皇子はうまく逃げおおせ、西の国へ干渉をしたか。


だが、もうどうでもいい。

どうせあがいたって、最後にはおれの手中に収まるのだから。


「トカゲ、これを」

書いた文を読みなおし、すっとたたんで片目の男に渡す。

長い前髪に隠れた瞳を揺るがすことなく、彼はそれを受け取った。

「それを、夜桜に」



ああ、会いたいよ。

次は死顔を見たい。

冷たくなった肌に触れて、あざ笑ってやる。

あの鴉の姫によく似た、女を。

使えなくなった役たたずを。


トカゲはこくりと頷くと、さっと姿を消した。





目を閉じる。

怒りに歪む夜桜の顔が浮かんだ。

たまらない興奮が、戦の血の匂いが、頭を高揚させる。


「文にはなんと書かれたのですか?」

あまりにおかしくて、くつくつと声を出して笑うと、家臣のひとりが恐る恐る尋ねてきた。

「いや、たいしたことじゃないよ、将軍」

そう、たいしたことじゃない。

ただ、真実を教えてあげただけ。


――おまえの姉は、烏の化け物に呪われたんだよ、と。


腰にさした刀の鞘をなで、すっと空を仰ぐ。

涼やかな風が、ひゅぅっと吹いた。

「――では、行こう」


駒を、進めよう。




大軍が、宮を襲った。

騎馬隊や歩行隊を使い、宮を壊していく。

きらびやかであった面影などないほどに。

すぐに混乱が広がった。

「敵はなすすべがないようでございます。籠城などもってのほか。落ちるのも時間の問題でしょう」

状況報告をする兵がうれしそうにそう言った。


こうやって、まるで客観的に戦場をながめるのは、なぜか気分がいい。

そうやって歴史に名を刻みつけて、英雄と呼ばれた武者たちは笑っていたのだろうか?

まるで盤上の駒のように、人間たちは戦いを繰り広げる。

たぶん、当人たちには大きな一戦……その刀のひとふりひとふりが命の生死を決める大事な分かれめなのだろうけれど、こちらからすれば他愛もない駒の一戦。

その一戦が多く勝てば勝つだけ、おれの勝ちが見えてくる……。

ただ、それだけ。


宮の南側は、すぐに落ちた。

北国の援軍がすぐに駆け付けた――というより、宮に待機していた――ため、北側はなかなか落ちない。

それでも、魅力のある捕虜が手に入ったことはたしかだった。


ぼろぼろに引き裂かれた着物を着た、漆黒の髪の女――夜桜が連れてこられた。

後ろ手にしばり、脇を兵士でかためて連れてこられた彼女は、不機嫌そうに、しかし毅然とした態度でおれを見た。

陣幕の下、赤い錦の布にどかりとあぐらを組んで座っているおれをじろりとにらみつけて、夜桜は口を開いた。

「何様のおつもりですか、あなたは」

ああ、おもしろい。

姉妹なのに、やはりこいつは姫とはちがう。

自尊心ばかりを強そうに見せて、恐怖をひた隠している。

ばかな女。

「はじめまして、かな。きちんとお会いしたことはなかったけれど」

「ええ。ですが、わたくしにはわかりますわ。あなたは成彰――卑劣な屑……」

夜桜が言い終わらないうちに、彼女を捕えていた兵がぶんとその白い頬を殴る。

「口をつつしめ!」

口の端が切れ、血がつうっとたれた。



狂喜に似た想いで、おれは豪快に笑った。

「本当の屑はどちらか、見ておくがいい。おまえはおれの駒になってくれたな」

ぎゅっと夜桜が唇をかみしめて顔をゆがめるのを、おもしろそうに見やる。

文――貴様の姉が烏に呪われたと煽ったあの文により、夜桜は動揺した。

そのお陰で、宮に攻め込みやすくなったのは事実だ。

戦は崩れた方が負ける……

内側から崩れた宮など、もろいのだから。


「ねぇ、情報を売ってよ」

すらっと太刀を引き抜き、ぴたりと彼女の首にあてる。

ごくんと夜桜が生唾を呑み込むのがわかった。

「報酬は、ちゃんとやるからさ」

断れないよ、おまえは。




――数ヵ月前のあの日。

トカゲのもってきた情報はこうだった。

喜助と蒼於の衝突により、夜呂という亡き北国の皇子側と宮方との乱闘があった。

それによって蒼於の負傷、静紅の裏切り、玄緒の行方不明という結果を知った。

また宮方は降伏し、西国は一時北国の配下におさまったかに見えた。

……が、お情け深い夜呂という皇子は、西国は西国であるべきだと主張し、横暴な政治や無駄な血を流さないと約束させ、一旦兵力を退去させた。

北国の兵は宮近くに控え、ともに国を築くような動きを見せたが、混乱が生じた宮方はぼろぼろであり、もはや西国の原型などない――と。

だが。

なにかが、おかしい。

不自然だった。



「夜桜、おれはね、人が信じられないんだよ」

疑い出したら止まらない。

だってそれが人間だろう?

「だから真実は、おまえから聞くことにしたよ」

用心に越したことはない。

だから真実は自分で探る。

「褒美はたっぷりやるよ……おまえの呪われた姉の本当を知るのは、おれしかいないよ」

ばっと、夜桜の眼が見開かれる。

すぐにわかった。

こいつが、どんなに姉の情報を欲しているのか。

生き別れの、姉妹の面影を欲しているのか。

ならば、与えてやるよ。


「おれの下につけ、夜桜。北国の皇子だって、蒼於という死に損いの烏だって知らない事実を、おれは知っているのだから」

ふっと笑みをこぼして、その顎を捕える。

黒い瞳が揺れていた。

「……わ……わたくしは……」

ぽろぽろと言葉を落とす彼女を見て、さらに満足する。

可哀想な夜桜。

きっとおまえは一生、その求めた姉に会えないだろうね。



「では、聞こう。今の状況は、どうなっているんだ?真実を、教えてくれるね?」



くいっと顎を引き上げて目を合わさせる。

その黒い瞳が定まる。




次々に情報を口にするその哀れな夜桜をながめながら、おれは彼女にそっくりな女を思い出していた。



きっともう、この世にはいない――烏の姫を。













絶対に完結させたいので、どんな形であれがんばって書いていこうと思います。


待っていてくださるみなさま、本当にありがとうございます!

メッセージとか、すごくうれしいです!


では、これからも、よろしくお願いします!


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