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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第五部 鴉の覇者
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******




夢だ――。



――揺れる、金色。

黄金に光る、きらきらした布のように流れ、しとしとと。

ひたひたと、響く。

足音は忍ばせようとしたって、ひたひたと響きわたる。

忍び寄る影のように、ぬっと現れる。

ひたひたと、ひたひたと。

ただ響いては、奈落の闇に誘い込む。

ひたひた、と。



――雨が降っていた。

小さな館に、彼女はいた。

いつも縁側で遠く空を見やり、なにかを探しているように。


――雨が降っていた。

曇天の下、今日も彼女はだれかを待っている。

その表情は冷たく、悲しい。


――雨が降っていた。

どんなに叫んだって届きはしない。

報いなのかと嘆くだけ。



金色の髪を散らして、彼女は鳥籠のなかで、待つ――。






――場面が変わった。

烏の羽のような漆黒の黒髪を垂らして、その女はうなだれていた。

いや、正しくは正気を失っていた。

ただ崩壊したかのようにぼんやりと闇にたたずみ、その瞳にはなにも映していない。

恐怖も悲しみもよろこびも、なにも。


哀れだ。

あいつを信じた結末がこれだ。

ばかな女。

光を失った瞳。

力をなくした身体。

もはや心すら喰われたか。

ただ女の耳に光る赤いピアスだけが、異様な光を放っていた。




「師実」

突如声が鼓膜を揺らし、響く。

そこにはにんまりと笑んだ男がいた。

蒼白い肌に黒い髪を垂らし、笑った口元から八重歯がチラと見える。

そのまま男は腕を伸ばし、おれの首に触れる。

「師実、見つけた」

その手に力が入り、しめあげられる。



――おれは、師実じゃない!

必死で抵抗するが、おれの手は虚しく空を切るだけだった。

そのうち目がかすみ、足が宙に浮く。

ぎりぎりとしめあげられ、意識が遠のく……


「呪いを解いてやるよ……だけど解放はしない」

視野が狭くなり、男の顔がおぼろになる。

ただ声だけが奇妙に反響していた。

「いいことを思いついたんだ。貴様を――マヨナカさまにあげるんだ」

カカカッと笑い、さらに力を込めて男はおれの首をしめた。



死ぬのか?

いいや、ちがう。

おれはマヨナカの餌食にされる――!


冗談じゃない。

おれが奴を取り込むんだ。

奴の力を手に入れて、忌々しい烏どもを滅ぼしてやる。



「苦しめ」

喜助は満面の笑みでそう言った。

暗闇が――ひたひた、と……。


「うわあああああ!!!」











――夢だ。

額にはびっしょりと汗をかいている。

心臓はばくばくと早鐘をうち、息も荒い。

漠然とした恐怖が、巣食っている。

動揺、している。

こんなの、久しぶりだった。



もうすぐ、夏が終わりにさしかかる。

風が徐々に肌寒さを運んで、それを知らせてくれるだろう。

そして。

ついに戦の幕開けだ――。




「成彰さま」

にっと目を細めて、華虞殿が笑う。

白い肌を惜しみなくさらけだし、妖艶に。

「お戻りになりましたぁよ、あなたさまぁの駒が」

薄暗い部屋にのびるその声に、満足そうに喉を鳴らした。

華虞殿の後ろからやってきたのは、まぎれもないあの男。

裏切るはず、ないよなぁ?

常陰にありし、その瞳を照らすものは、なにもないだろう?

おまえはいつだって、結局はおれに逆らえないんだよ。



口角をくいっとあげて、そいつを見やる。

その見えない片目をあざ笑うがごとく。

「久しぶり、トカゲ」

おれの声に、奴は小さく頷いた。

片目をぐるぐると包帯で巻き、長い前髪で顔を隠している。

肌は青白く、冷たい雰囲気の男だ。

光なんて知らない、いつも陰に包まれているような、そんな男。

灰白の長い衣をまとい、トカゲは無表情のまま口を開き、そのきれいすぎる声を発した。

「お久しぶりです、成彰さま」


にこにこ笑いながら、そっと彼に近づく。

怒ってないわけではないんだよ、と暗にさとすように、じっとその瞳を見つめた。

すると、一瞬ぐっと唇を引き結んでから、トカゲはその場に膝まずいた。

「……先の戦いで負傷しまして、成彰さまのもとへ還るのが遅れましたことを、お詫びします」

「いい。許そう」

顔をあげさせ、目に巻いているしっとりとした包帯に触れる。

この包帯の下には目玉がない……喜助に喰われた、あわれな目玉が。

そう思うと、身体は自然にぞくぞくと震えた。

たまらない、興奮。


狂気だと、思うよ。

自分でも、たまらない狂喜だと。



「もうすこしで、大きな戦がはじまるんだ……トカゲ?」

ぐいっとその包帯をはがす。

剥いて、露になったそれを笑ってやろう、と。

「おまえはこちらの、味方だろ?」

目玉を奪われたこいつに、一生光なんてこない。

憎しみに沈んで、奈落の闇へ。

ともに、闇へ。


「すべてを消そう。烏も、幼皇も、関わったものすべてを」

絶ちきってしまおう。

これからの未来に、おまえらなんていらない。

おまえらのあるべき場所なんてないんだ、喜助。



古傷をえぐられることなく、動揺の種が芽吹くことなく、おれは生きていく。

そのために邪魔になるようなら、容赦しない。

すべてを、消し去ってしまおう。

おれの未来は明るく、潤っているのだと、そう信じたいから。


「過去なんて、いらない」



光を映さない瞳を見つめながら、おれは笑った。

その覇道を揺るがすものなど、なにもないというように。




決戦は、すべて。

運命は、すべてその日に。








これにて第二章は終了〜☆

お次の三章は、時間もたった秋が舞台になります。


ここまでなんだか重くてぐうたら気分でしたが、三章からはまたテンポアップ・・・できたらいいです^^

動きも結構あると思います。



実はずーっと三章を書きたかったのに、怖いんですよね笑

それはおいおい……


がんばりますっ★


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