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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第五部 鴉の覇者
61/100

第二章 野望

この回は第一章にしようか迷いましたが、結局は第二章へ。

楽しんでいただければ幸いです。


それにしても、最近は筆が進みません。。(汗

第三章の話は考えているたけに、もどかしい。。

がんばります!



(喜助のセリフはやっぱり『このカッコ』じゃなきゃしっくりこない!←そんな私。笑)

ちなみに、登場人物の裏設定★☆

喜助…甘えん坊

夜呂…年上好き

姫…大食らい

です^ω^


では、どうぞ!






【第二章 野望】







******




頭がくらくらする。

足元がしっかりしない気がして、思わず顔をしかめた。


側近の身体にのりうつった喜助は、くすくすと笑いながら槍で攻撃してくる。

心底楽しそうに。



ああ、わかるよ喜助。

死から逃げようともがく人間ほど愉快なものはないんだ。

怯える人間の顔ほど、笑えるものもない。

おまえもそれを知っているんだろう?


だけど――おれは怯えちゃいない。

ただしゃくなだけ。

おまえにだけは、殺されたくないよ。




ぶわりと足元をすくわれ、よろける。

頭のくらくらが増して、吐気すら覚えた。



「心配するな小僧。簡単には、死なせないから」

くっくっと笑い、喜助は攻撃をやめる。

にらむように見上げると、奴はにやって唇を引き上げた。

「教えてやろうか?この槍の刃には、毒が塗ってあるんだぜ」


毒――

ああ、さっき突かれたところから、毒が身体に回ったのか。

だから頭がくらくらするのか。


「すごいだろう。身体が痺れてくる……動きが鈍るんだ」

くすくす声をたてながら、喜助は槍の刃をなでる。


狂気。

悔しいが、無意識にぞっとしてしまった。




眼をらんらんと変に光らせたまま、喜助はさらにつづける。

「いつもだれかを殺すのはこの毒だ……作っている本人は、とても汚れない子供なのに」

声が、変わる。

側近の声から、がらがらした烏の声に。

『これはおれの人間の時間を殺し、沖聖を殺し、烏の父母を殺した――』


側近だった者の顔が歪み、引きつり、口がさける。

あっというまに、その切れ目は耳にまでのび、嘴をつくる。

人間の身体の上に、烏の特徴をもったような顔がのっかっている。

腕や顔などの肌には、黒光りする羽のような毛が生えていた。

バケモノ――たしかにそれは、人間でもなく烏でもない。

生き物の本能から鳥肌がたってしまうような、身の毛のよだつ恐怖。

それを感じられずにはいられなかった。





『古くから西の国では刃に毒を塗りたくっているだろう。獲物を必ず仕留めるために――できるだけもがき苦しむように』

もはや烏か人間かわからなくなったそいつは、にやりと笑う。


殺される。

今はおれが、奴の獲物。



『そう怯えるな。簡単には殺さないと、言っただろう?』

ニタニタと笑うその化け物から、二、三歩あとずさる。

まるで黒い陰がのびてきて、足首に喰らいつこうとしているような、そんな錯覚を覚える。


捕まったが最後、奈落の底に引きずり込まれて、二度と光を仰げない……

渇きにうめいたまま、潤いのない砂に埋もれていく……

身震いしたくなるほど、それはたまらない恐怖。




『この毒は身体が麻痺するだけ。死にはいたらない――』

化け物はうっとりと槍の刃先をなでる。

そしてニヤリと不敵に笑んだまま、舌をぺろりと出して舌舐めずりした。

『貴様とオレサマはどこか似ているんだ』

「似ているだと」

失笑。

そうかもしれない。

けれど絶対に認めてやらない。

「笑わせるな。おれはおまえなんか、だいきらいだ。おまえみないなヤツになど、似たくはない」



じっとその黒く切れ込んだ眼をにらんでやる。

そうして、ふと思った――いつから、こいつの目はこんなに曇ったんだろう。


師実の記憶のこいつは、どこまでもまっすぐだった。

ただ幼皇に遣えたい……いや、沖聖に認められたいと、それだけのために信念を持っていた気さえする。

それがいつの間にか化け烏になって、呪いやがって、そうやっておれの行く手を阻み、享楽を奪い取る。

おれはただがむしゃらに化けモノを排除しようと動いていた。

こうして、まっすぐに喜助の目を見たのは久しぶりかもしれない。

いつも憎しみが先にたち、おれの目を濁らせるから。




ツイているのかいないのか、毒のせいでかなり頭は鈍い。

それゆえ、じっくりとそんなことまで考えられる。


でも、考えなければ。

死ぬわけには、いかぬだろう?






「き……すけ?」

ハッと顔をあげる。

ぼやけた輪郭の沖聖の横に、ゆっくりと身を起こす子供が目に入った。

なにを言う暇もなく、そいつはつづけて口を開いた。

「来ては……だめよ。あなたは、自由になりなさい」

辛そうな、苦しそうな、まるで母親が分からずやの子供をさとすような表情で、早良は喜助を見つめる。

「あなたはもう、充分よ。あなたが幸せになるのが、彼の願いなのよ……」

喜助はちらっと早良を見、そのまま冷たい声で答えた。


『知ってるよ。沖聖はやさしい。そして愚かだ』

「なっ?!」


目を見張る。

早良は開いた口が塞がらない状態で、何度か口をパクパクさせた。

かまわず、喜助は非難するような目を向けた。


『だってそうだろう。自分のことより、いつも周りの人間のことを優先して。ばかみたいだ……充分?幸せ?これがか?』

霞のように朧な沖聖の魂を顎でしゃくり、喜助はせせら笑う。

『貴様になにができる。せいぜい愛していると口先で言うだけだろう?オレサマがいなきゃ……』


沖聖は、安心して眠れやしない――



そう口のなかで奴がつぶやいた、瞬間――痛みが頬をかすめた。

間一髪で身を引き、避けたが、刃物が目の下をかすり、熱い線をひく。




見上げると、今度こそトドメを刺さんとばかりに、どす黒い感情を内に秘めた眼がこちらを見下ろしていた。

『貴様だけは自由にしてやらない。死してなお、渇きに飢えるがいい』

「……そんなこと、できるかよ」

にやりと笑う、化けモノ……

『言っただろう――おれは、呪いが得意なんだ』




死んでもなお、渇きに飢えていくと。

自由など、ないと。

そんなの、ごめんだ。




槍が高々と上げられる。



死ぬのか?

こんなところで。

死ぬ?





――「うちはここにいます……なにがあっても、あんたを待ってぇる」――





ふと、彼女の声が頭をよぎった。

なぜかはわからないけれど、無償に会いたくて仕方がなくなった。

死にたくない……?

いや、もうあきらめすら生じはじめた。

感覚が麻痺したように、ただ喜助から目が離せなくなって、そのままじっとする。

足が動かない。

なぁ、どうすればいい?




『あの世で待ってな』

喜助の目が見開かれ、ぐんとその刄が振り下ろされる。

ただその銀色が近づくのを見つめていた。



――渇きは、満たされない……





次に目に入ってきたのは赤だった。

真っ赤な鮮血がどっと辺りを染める。

生暖かい液体が顔にはね、目の前を黒い赤で満たした。

けれど、痛みはなかった。

銀色のきらめきは、肉体に深々と突き刺さっているというのに。

そっと顔を落とし、水溜まりのようにぽたぽたと溜っていく赤を見た。

そのまま顔を上げる。

刄の鞘になった少女が、おれのまえにいた。



突き刺さった肉体は、おれのものではない。

その怨念の刄を受けたのは、おれじゃない。

あまりに小さい身体で、あまりに強く受け止めていたのは、ひとりの少女――おれの魂の妹。




最初に浮かんだ感情は疑問。

なぜ?

その一言しか出てこない。

わけがわからない。

なぜ彼女はおれをかばう?




『――貴様……』

喜助はぽつりとつぶやくと、冷淡なまなざしを向けたまま、槍を彼女の身体から引き抜く。

「っ、あぁあっ!」

声をあげ、早良はどさりとその場に倒れ込んだ。


声が出ない。

よく、つかめなくて。

どういうことか、わからなくて。



「兄……さま……ぁ」

蚊の鳴くような、けれどたしかにその小さな声は耳に届いた。

顔を近づける。

触れることも、できないまま。

「……守り、たかった……ずっ……と……兄、さま……を……」



死んでゆく。

弱りはて、ついには息をすることさえやめてしまう。

早良が死ぬだとか、嶺遊が死ぬだとか、そんなことに悲しみを覚えたわけじゃない。

嶺遊はどうせもうこの世では生きられないし、早良はとうに死んでしまっていたのだから。


ただ、驚いただけだ。

早良が、おれをかばったってことに。

嶺遊ならば、きっと自分を犠牲にしてでもおれを守っただろう。

そうやって育ててきたのだから。

けれど、早良は……?

嶺遊のごとく、おれを守った、と?



馬鹿みたいだ。

正気のさたじゃぁない。

嘲りの気持ちを含めて笑う。

笑うのに、泣きたくなった。



言葉じゃ表せない。

はじめて知ったこの感情は、なに?



なんと名をつければいい……?







『沖聖、もう還りな。早良を連れて、はやく……』

喜助の声が聞こえ、ハッと我にかえる。

奴は霊体の沖聖の方を向いてなにか言っている。

ああ、早良は魂になって天に還るのか、などとぼんやり思う。

その裏側で、正気を取り戻しはじめた冷静な頭はささやく。


――おれは生きている、と。



ああ、生きてやる。

ぐっと拳に力を込める。





ぎゅっと奥歯を噛みしめ、おれは目を盗んで駆け出した。











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