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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第一部 鴉の姫
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******



『おい、小僧』



頭上からの声に、高安はすばやい動きで反応する。

後ろに夜呂を隠す。

目を凝らして見ると、木の枝に、一羽の烏が悠々ととまっていた。

眉をひそめ、高安はじっとしている。

烏はため息をつくと、静かな声で言った。



『お前らのおかげで、姫は危険になった』



高安は無反応だ。

烏はさらにつづける。



『まぁ、アタシはどっちでもいいけどね。あの女が主だなんて、思ってないし』

それから烏は、向きを変えて飛びたつ準備をする。

高安は目を離さずに、じっと見つめたままだ。

夜呂をかばう腕に力が入る。




『ただ、アタシはね、あの女を気に入ってただけなんだ』

翼を広げる――その瞬間――夜呂は夢中で、高安の前に飛び出していた。





「あんたの名前は?」

烏はおもしろがるような声で言った。

『アタシは朱楽シュラク。バイバイ、尊い人』






黒い鳥が、空の黒い点になるまで、夜呂はずっとそれを見つめていた。

彼の拳が、かすかに強く握られていたことに、高安も、そして彼自身も気がつかなかった。




夜呂の口元が、かすかに笑っていたことにも。









「さぁ、行きましょう」

夜呂の腕を引き、高安が歩き出した。

「でも――」

「もうすこし先に、迎えがいるはずです。あいつらが、烏どもにやられるはずがありません」

「あいつら?」

やけに自信のある高安を、夜呂は怪訝そうに見やった。

ふっと軽く笑って、彼は言う。

「ええ。数年前から集めた、能力のあるやつばかりです。あなたも聞いたことがあるはずだ」

「だれ?」

歩く足を速めながら、夜呂は尋ねる。

高安がきつく腕をつかみ、ほぼ走るようにしているので、追いつくのがなかなか大変だった。

辰迅トキハヤやその部下、忍び、あとはおれの部下たちです」



ドキリとした。

辰迅は国でも有名なほどの優れた人材だった。

国王の次期右腕と言われた男だった。

その彼が、なぜここにいるのだろうかと、夜呂は首をひねった。

察したのか、高安が教えた。

「……あなたの影は、おれだけじゃないんですよ。四、五人います。そのひとりが、辰迅です」

しかし、夜呂の疑問は増すばかりだった。

影である辰迅がここにいるということは、影が影の役目を終えたということだ。


それはなにを意味するのか――



「国は滅びたのでしょう」

はっきりとした声で、高安は言った。

ドクン、と、心臓に重たい鉛が落ちてきたような錯覚が生まれる。



なんとなく、わかっていた。

たぶん、そうなるのだと。

自分だけが逃がされた時点で、わかっていたはずだった。

しかし、実際にそれを聞くのとでは大違いだ。

実感なんてわかないのに、言葉にされたショックだけが頭をもたげてきた。




「しっかりしてください。あなたはもう、人々の上に立たなければならない」

高安の顔は厳しくなった。

ぎゅっと唇をかみしめると、唐突に夜呂は立ち止まった。



「夜呂さま?」

やや黙りこくったあとで、夜呂ははっきりと高安に目を向けた。

その眼に圧倒される。

「おれは、助けなきゃならない。おれはきっと、そういう運命だったんだ!」

高安の腕を振りほどき、夜呂は屋敷に向かって走り出した。

後ろで高安の声が聞こえてきたが、気にならなかった。







『ただ、アタシはね、あの女を気に入ってただけなんだ』

朱楽の声が、頭に響いてきた。



――うん、そうだね。

夜呂はさらに走った。





――おれも、姫が気に入っただけなんだよ。






ここで一章は終わります。

お付き合いありがとうございました。


次から二章です。

まだまだつづきます!

よろしくお願いします。

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