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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第五部 鴉の覇者
58/100

次からちゃんと成彰視点ですよ〜w









******







蝕まれる。

暗くひたひたと忍び寄るように。

あの暗闇には、決して光など届きはしないのだ。

冷たく深い海底のように、はたまた光を閉ざした洞穴のように、それは明るさを赦しはしないのだ。

震える恐怖すらカテにして生きるしかない。

どうして生きているのか、不思議なくらいに。




正確に言えば、おれは死ねない。

それすら赦されていない。

この世が終末を迎えるその瞬間まで、おれは生きてゆかなくてはならないのだ。


呪われた魂は決して満足することがない。

ただ渇き、飢えながら、それでも息をとめられない。

そしてこの魂には、まだ野望が渦巻いている。

それからも逃れることができない――それが呪われた魂を受け継いだ者の宿命。



いつも、どこかで満たされない自身を恨みながら、生きていくさだめ……。





「成彰さま」

ふいに部屋に、子供が入ってきた。

やや目がうつろで、正気を失った狂人のようにも見えた。


――とうとう、だ。

このときを、どれほど待っていたことか。

「そこに座っていろ」

ニタニタ笑いながら命じる。

すべてが思い通りに進み、もはやゆく手に障害など見えなかった。



この子供は――嶺遊は、早良の魂を受けた子供だった。

おれには、記憶がある。

かつて師実だったころの、それが。

喜助から呪いを受け、おれはいつも満たされない渇きを憶えていた。

これを解くためには――

力が必要だ。

沖聖の魂さえ手に入れば、きっと喜助は血相を変えて飛んでくるだろう。

あいつの大事なもの……粉々にしてやりたい。





「連絡は入ったか」

立ち上がり、部屋の外に控えていた側近に訊く。

外の様子からして、もうそろそろの時間だと察しがついた。

側近は予想通り、あせりながら首を横に振った。

「そうか。もういい。下がれ」

側近が一礼して去っていくのを見届けてから、おれはまた腰を下ろす。


静紅からの連絡はない――つまり、あの女は裏切った。

それから、トカゲからも連絡はない……か。

トカゲが裏切ることは、まずないだろう。


彼――翠冷にトカゲの名を与えたのは、このおれだ。

鴉から、家族も目玉も希望も奪われた翠冷は、もう二度と光に触れることはないように思えたから。



トカゲ……否、常陰トカゲ

光の当たらない、陰。

奴にぴったりだと思った。

あいつはおれを、まるで神でもあるかのように崇拝している。

だから裏切るなんて絶対にない。



ともすれば……なにか、あったのだろう。

どうする?

連絡の伝は絶たれ、ただ時を待つばかりになった。



「――来るか」


喜助。

あいつが、来る。

それとも、ほかのだれかか?

おれに怖いものはないけれど。




前髪を振る。

丈の長い衣をパサリとはらって歩く。


曇天のなかを、進んだっていい。

はじめからそのつもりだ。

喜助がはやいか、それとも早良の目醒めがはやいか。

すべては天運のさだめが導いてくれるだろう。




「どちらが逝くのがはやいか、勝負だな」

ぞくりと背筋を冷たい快感が伝う。

たまらない。

やめられない。

埋まることはない歓びを、潤されることのない癒しを、求めてやまないその望みを。

この手に、つかみとるまで。

獲られると、信じて。






もうすぐだ。

あのおやさしい沖聖は、早良の魂につられてくれるだろう。




「はやく目覚めろ」

子供の頭に手を置き、言った。




すべては、己の野望のため。


宿命の、その果て。









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