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次からちゃんと成彰視点ですよ〜w
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蝕まれる。
暗くひたひたと忍び寄るように。
あの暗闇には、決して光など届きはしないのだ。
冷たく深い海底のように、はたまた光を閉ざした洞穴のように、それは明るさを赦しはしないのだ。
震える恐怖すらカテにして生きるしかない。
どうして生きているのか、不思議なくらいに。
正確に言えば、おれは死ねない。
それすら赦されていない。
この世が終末を迎えるその瞬間まで、おれは生きてゆかなくてはならないのだ。
呪われた魂は決して満足することがない。
ただ渇き、飢えながら、それでも息をとめられない。
そしてこの魂には、まだ野望が渦巻いている。
それからも逃れることができない――それが呪われた魂を受け継いだ者の宿命。
いつも、どこかで満たされない自身を恨みながら、生きていくさだめ……。
「成彰さま」
ふいに部屋に、子供が入ってきた。
やや目がうつろで、正気を失った狂人のようにも見えた。
――とうとう、だ。
このときを、どれほど待っていたことか。
「そこに座っていろ」
ニタニタ笑いながら命じる。
すべてが思い通りに進み、もはやゆく手に障害など見えなかった。
この子供は――嶺遊は、早良の魂を受けた子供だった。
おれには、記憶がある。
かつて師実だったころの、それが。
喜助から呪いを受け、おれはいつも満たされない渇きを憶えていた。
これを解くためには――
力が必要だ。
沖聖の魂さえ手に入れば、きっと喜助は血相を変えて飛んでくるだろう。
あいつの大事なもの……粉々にしてやりたい。
「連絡は入ったか」
立ち上がり、部屋の外に控えていた側近に訊く。
外の様子からして、もうそろそろの時間だと察しがついた。
側近は予想通り、あせりながら首を横に振った。
「そうか。もういい。下がれ」
側近が一礼して去っていくのを見届けてから、おれはまた腰を下ろす。
静紅からの連絡はない――つまり、あの女は裏切った。
それから、トカゲからも連絡はない……か。
トカゲが裏切ることは、まずないだろう。
彼――翠冷にトカゲの名を与えたのは、このおれだ。
鴉から、家族も目玉も希望も奪われた翠冷は、もう二度と光に触れることはないように思えたから。
トカゲ……否、常陰。
光の当たらない、陰。
奴にぴったりだと思った。
あいつはおれを、まるで神でもあるかのように崇拝している。
だから裏切るなんて絶対にない。
ともすれば……なにか、あったのだろう。
どうする?
連絡の伝は絶たれ、ただ時を待つばかりになった。
「――来るか」
喜助。
あいつが、来る。
それとも、ほかのだれかか?
おれに怖いものはないけれど。
前髪を振る。
丈の長い衣をパサリとはらって歩く。
曇天のなかを、進んだっていい。
はじめからそのつもりだ。
喜助がはやいか、それとも早良の目醒めがはやいか。
すべては天運のさだめが導いてくれるだろう。
「どちらが逝くのがはやいか、勝負だな」
ぞくりと背筋を冷たい快感が伝う。
たまらない。
やめられない。
埋まることはない歓びを、潤されることのない癒しを、求めてやまないその望みを。
この手に、つかみとるまで。
獲られると、信じて。
もうすぐだ。
あのおやさしい沖聖は、早良の魂につられてくれるだろう。
「はやく目覚めろ」
子供の頭に手を置き、言った。
すべては、己の野望のため。
宿命の、その果て。