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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第五部 鴉の覇者
57/100

第一章 陰謀

とうとう、第五部に参りました!

ずっと書きたかった場面が、この部にはあります。

今回のテーマは「涙」。

うまく表現できるかわかりませんが、奮闘してみようと思います。


この部は、後編にとても重要になってきます。

というか、つながってます^^


楽しんで、ドキドキしながら読んでくださるとうれしいです!

では、どうぞ!










〜カラスノハシャ〜










渇いた砂漠


荒れる海





赦されぬ魂に


欲望に身を埋め





ただただ嘆くは


一時の後悔





ただただ求めるは


一時の幸福







奪い取る望みはひとつ


暗黒の世界ただひとつ






世界の、覇者



















【第一章 宿命】








******





「切ってしまおうかな」

ぽつりと言葉を落とす。


これはまだ――彼が城に戻る前のことだ。

彼は毎日のように遊郭を訪れ、女に溺れた人のような生活を送っていた。




太陽の光があたって金色にきらめく髪をひとふさつかみながら、男はため息をつく。

しかしそれを見ていた子供はぎょっとし、あからさまに顔をしかめてみせた。

「成彰さま、まさか、坊主になる気ですか」

それを聞き、男は豪快に笑う。

「それもいい。いっそ俗世間から離れようか」


――そんなこと、できやしないのにな。

笑いながら、そんなことを心の内で思う。




子供はまだ顔をしかめていたが、次に聞こえた女性の声に気を引かれて、すっかり顔をしかめることを忘れてしまった。

「そんなことぉ、あなたさまにはできませんよぉ。僧侶になるってことはぁ、女ぁから手を引かなきゃなりませぬもの」

ぶわっと香を漂わせながら、ひとりの遊女らしき人物が現れる。

着物をはだけさせて肩を露にし、厚い唇にはたっぷりと朱色の紅を引いている。

目元をかすかに緩めながら、彼女は目を見張るようなうつくしい動作で、ふっと成彰の横に腰をおろした。




「ね、成彰さま。それは、無理でしょぉ?」

「たしかにな」

ニッと不敵な笑みをもらし、彼は遊女に口づけた。

顎をとらえ、奥まで忍び込む。



――ああ、だめだ。

満足しないのだ。



どんなに極上の女を抱こうとも、宝を奪おうとも、権力を手に入れようとも、絶対に満たされることはない。


乾ききった、魂……。



その理由を、彼は知っていた。

自分が呪われた理由を。

しかし、それはあまりに理不尽だった。

先祖はどうか知らないが、自分にはまったく関係のないことなのに。



――あの化け烏……絶対に許さねぇ。

唇離し、彼は奥歯を噛み締める。

――どんな手をつかってでも、絶対に呪縛をといてみせる。


そう、どんな手をつかってでも。






「――成彰さま」

嶺遊が恐々と呼ぶ。

子供は真ん丸した目を、一瞬も離すまいとして彼らを見つめる。

成彰は横目で見やると、意地悪くニヤリと笑みを浮かべ、華虞殿から身体を離し、今度は嶺遊に近寄った。

「おまえ、まだ目覚めないのか。まあ、時がくれば使い物にはなるだろうけれど」

「なにがですか」

嶺遊の頭に手をのせ、軽くなでる。

なにも知らない子供を、成彰は心のなかであざ笑った。



――おまえはなにも知らないのだな、早良。

道連れには最高の人材だ。




成彰は立ち上がり、女に向き直る。

優美な彼女はただうつくしく座っていた。

「そろそろ行くよ。華虞殿、いずれまた」

彼女はなにも言わずにじっとしていたが、彼が子供を連れて去りかけたそのとき、決心したかのように口を開いた。

その声は彼女らしくはなく、かすかに恐怖に震えていた。


「うちはここにいます……なにがあっても、あんたを待ってぇる」


金の髪が振り返る。

鮮やかに、艶やかに、どこか切なく。




彼女は心のどこかで、もう彼とは二度と会えないのではないかと感じていた。

はじめはただの客だった。

しかし、今ではちがうのだ。

彼の内から滲み出ている哀しみは、彼女には痛切に感じとれる。

野望に囚われた、かわいそうな男――彼女にはそう思えた。


そしてきっと、そんな男を見捨てられない自分は愚かだと知っていた。

知っていてなお、彼に惹かれるから仕方がない。




金色の髪をした男はなにも言わず、ただ笑った。

いつもの不敵な笑みに相違ない。

それにも関わらず、華虞殿にはどうしても、彼が寂しそうに、その悲しみを押し殺して笑ったように見えたのだ。





男と子供は出ていった。

たしかに、勘違いかもしれない……。



ひとりになった彼女は、普段の彼女にはできないくらい、思い切り泣いた。












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