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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第四部 鴉の王
55/100







******




潮のにおいが濃くなる。

荒れ狂う波の音がひどい。


やはり、おれの勘ははずれてなんかいなかった。

頭に電流がピリピリ流れるように、あいつの悲鳴が聞こえるような気がする。

ひしひしと、焦りはつのった。




しかし、しばらく飛んでいるうちに、また別の感情が芽を出す。

それは怒りを通り越した、歓びだった。


もう、容赦はしない。

してやらない。

これ以上、オレサマの邪魔をするなら、生かしちゃおけない。

もともと生かしておく意思はなかったが。


師実……否、成彰。

貴様の命日がはやまったのも自業自得。

後悔したって、遅い。

必ず仕留めてやろう。




『あいつの頸をとるのは、このおれだ――』



荒波のなか、その曇天を逝く。

高波はまるで悲鳴。

奴らの嘆き。

憤ることはない。

ただ、これからの復讐を思い、ひとりほくそ笑んだ。






光が厚い雲の隙間からこぼれ、天から降り注いでいた。

成彰の城は、南の国の海側にある。

きりたった細く急な高い崖に、そびえるように建っていた。

剥き出しになった岩肌にあたる潮風や波にさらされながら、それでも城は堂々としている。

まるで自らの権力を誇示するがごとく。

気に食わない。

小物のくせに、生意気な男だ。

すぐにでもその城を、ぶっ壊してやりたい。

いつかあいつが、沖聖のものを奪ったように。


――おまえのすべてを、奪ってやるよ。





白い城、黒い旗をはためかせて、それはそこにあった。

ぐるりと城の上を旋回すると、ふいに門の前にいる人物が目に入った。

護衛に一言二言告げると、そいつはひとりで門をくぐる。

近づき、木にとまってよく見やる。

浅黒い肌をした、目の大きい人間の子供だった。

そいつはまるで影のように、音もなくそっと歩く。

おれはよく考えもせず、そいつを呼んでみた。



『おい』

そいつは煩わしそうに首を振り、こちらに目を向ける。

その目がぱっと見開かれたかと思うと、突如正気に戻ったかのように口を開いた。

「か……らす……」

おろおろとしながら、そいつは震え出す。

やがてぽろっと涙をこぼした。

「行かなくちゃ……来ちゃだめ……あの方は……ああ、だめ……」

『なに言ってるんだ、貴様……』

顔をしかめたが、子供はまた前を向くと、のろのろと歩き出した。



――まさか。

わかった。

こいつだ……。




第一、これは予想外の出来事だった。

あいつは自分の妹の魂までもを道連れにしているのか。

彼女はきっと、心から沖聖を愛してた。

たとえ彼が幼皇さまでなくとも。


あの子供がオトリか……。

目を細め、視る。

浅黒い肌の、目だけが丸々と大きい子供――早良の魂を閉じ込められた子供。

そいつをオトリにし、沖聖の魂を呼び出す。

そうして沖聖ごとマヨナカサマを喰らうつもりだろう。


それが成彰の目的。




『そうはさせない』


にやりと笑う。

そうは、させない。






沖聖は心根がやさしいから。

きっと天からだってやってくる。

魂は天に昇りきるまでかなりの時間を要するというから、まだ沖聖の魂はこの世にあるのかもしれない。


蒼於の言葉を何度か頭に反芻させ、噛み砕く。

そうやって祖嚼しながら、成彰の策略家ぶりを嫌悪した。

どこまでも邪魔するつもりなのか。


どうしてやろう?



当初の計画では、まず蒼於や玄緒などの反逆者の始末をし、そのあとで成彰を片付ける。

そういう予定だった。

それからあとは、なにもない。

姫もいない……。

姫のいないあの屋敷には、もう魅力はない気がした。

別にこののち、マヨナカさまが世界をどうしようが知ったこっちゃない。

ただ、残った復讐を片付ける。


それだけ。

あとはどうでもよかった。




蒼於は、もう遅いと言った。

もうすでに、事は実行されていると。


だが、そうはいかない。

成彰は、まだ沖聖の魂はマヨナカさまのなかにあると思っている。

しかし、今彼の魂は天と地の狭間にあるのだ。




――まだ遅くはない。

たっぷり楽しんでやるよ。



もう、いらない。

師実の魂が苦しんでいけばいいと思っていたけれど、もうどうでもいいんだ。

そろそろそれにも飽きた。

奴の時に終止符をうとう。



すべて終わらそう。


この魅力の欠片もない世界に。





……結局、おれは姫が好きだったのかもしれない。

ふと、すべて復讐を成し遂げたあとの自分を考えると、そう思う。

すべてやり終えたおれに、もはや楽しみなど皆無に思えた。

マヨナカさまに遣えるなんて、ごめんだ。



失って気づくことは、やっぱり多い。

けれど――後悔はない。


おれは姫に惑わされてはいけなかったから。

なすべきことはできたから。





さぁ、終止符を。

この世界に、終止符を。



鴉の王の、最後の仕事を。








これにて喜助の視点は終了!

いろいろ視点ごちゃごちゃしてて、すみませんでした〜!

言われて気づくことって、多いです汗



えっと、でもまだもうひとつ、鴉の王は残っています。

次で最後ですかね?



それでは、よろしくお願いします!


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