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お久しぶりです!
とりあえず、鴉の王は書き終えました〜!
随時公開していこうと思いますw
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身体が痛い。
手足が痺れ、唸る。
その痛みを外に逃がすよう、首をのばす。
黒い煙が身体を覆い隠し、宙に浮く。
足下で人間どものざわめきを聞いた。
「なにあれ!」
「喜助ッ」
『人型が終わりやがったのか』
蒼於の舌うちを聞き、ゆるゆると頬があがる。
ああ、そうだ。
やっとオレサマは本来の力を取り戻せる。
再び加世と目を合わせたとき、彼女はその目をこれでもかと大きく見開き、硬直していた。
『これがオレサマの本当の姿だ』
ニッと笑う。
加世はきゅっと唇を噛みしめると、しぶとく言いつのった。
「どうでもいいわ。あなたがどんな姿であろうと、喜助には変わりないもの」
相変わらず甘い。
その甘さが時に命取りになるというのに。
おれを助ける?
どんな姿だって構わない?
馬鹿いうな。
『オレサマは貴様の助けなど必要ない。貴様はただの邪魔にしかならない。下がれ』
「――でも」
「加世、こい」
まだ食い下がろうとする加世に、夜呂が声をかける。
あの小僧も、すこしは利口だということか。
鳥の体はすばらしい。
すべてが軽いのだ。
翼をビュッとひとつはためかせれば、身体はぐっと一気に宙に浮く。
人間どもが見上げる。
おれは見下ろす。
たまらない征服感に包まれる。
本来、鳥は色を区別することができないという。
だから光のない闇では、なかなか思うようにものが見えない。
けれど、屋敷の烏はちがう。
おれたちにとって、闇こそが光で、すべてだから。
『さぁ来いよ、卑怯もん』
不敵に笑って、つり目の烏を誘う。
蒼於はすぐにおれと同じ高さまで舞い上がってきた。
『後悔するが、いい』
カッと目を見開くと、即座に攻撃を開始した。
こいつの目玉は、まずいかな、などと思いながら。
蒼於は表情ひとつ変えず、避けては反撃してきた。
「かっ、かかれぇー!」
「お守りしろォッ!!!」
眼下で人間どもが戦闘を開始したのがわかった。
夜桜たちは軍を呼び寄せ、おれたちが闘っているのに便乗して攻撃を仕掛けたらしい。
けれど、夜呂方も抜け目はなかった。
すぐに高安が気づき、配下を応戦させた。
どうやら忍を連れてきていたらしい。
すぐにどっと武器を持った人間たちで埋め尽された。
金属どうしがぶつかりあい、唸り声や悲鳴が響く。
ぞくぞくとした高揚感が背中から上がってきた。
思わずニヤリとほくそ笑んでしまう。
『これじゃ、目玉が喰いほうだいだなあ』
血の海。
屍の山。
ほうら、そこはマヨナカさまの楽園。
蒼於が威嚇し、嘴を突き刺してくるのをひらりと避け、クックと笑う。
『時間はまだたっぷりある。そう急くな』
『急く?』
突如、蒼於が動きをとめ、こちらを見た。
その顔は――笑っていた。
『おまえ、本当にお気楽な奴だな』
今度は蒼於が不敵に笑う。
どういうことだ?
『教えてやろうか。おれは単なる時間稼ぎさ』
勝ち誇ったように高笑いする蒼於。
謀られた?
足下でさんざめく人間どもの声も、鉄のような血の臭いも、なにもかもが消えたような錯覚を覚える。
風は止み、ただ人の熱気でむっとする空気だけが漂う。
時間稼ぎ?
こいつは単なる時間稼ぎで、本当の目的は、兄の玄緒にあるということか。
なにをするつもりだ。
焦るな、と自分にいい聞かせる。
本来、おれはめったなことじゃなきゃ動揺すらしない質なのに。
それなのに、なんだ。
妙に不安が押し寄せてきて、ゾッとさせる。
これは勘だ。
野生の勘。
不吉な予感に支配され、どうしても戸惑ってしまう。
では、なにに?
どうすればいいかは、すぐにわかった。
おれは手加減なしで、奴の腹に喰らいつく。
いかなりのことに驚いたのか、蒼於はまったくといっていいほど防御ができていなかった。
低く悲鳴をあげ、苦しげに悶える。
構わず、おれは奴の喉元に嘴をそえた。
『なにをした』
これまでにないほど、低く冷たい声が出た。
蒼於が思わず震えるのがわかり、満足する。
『本来の目的はなんだ』
さらに嘴を喉元に突き刺すように押し付ける。
すると、やっと蒼於が口を開いた。
負け惜しみのごとく、薄ら笑いを浮かべながら。
『……もう遅い。とっくに計画は実行されているんだ』
蒼於の黒い腹が出血しはじめ、てらてらと光っている。
『おまえ……の……大切なものを、奪うためにな』
表情をゆがめながらも、蒼於はニヤリと笑う。
『気づいていないとでも思ったか。所詮おまえは……人間なんだ。成彰は、すべてわかっていた……』
息を荒くして、蒼於は目を細めた。
意識が薄らいできたらしい。
成彰。
貴様にはまだ、復讐をし終えていないぜ。
『あばよ』
言って、おれは力なくぐったりする蒼於を蹴落とした。
くるくると緩く螺旋を描き、烏は落下していく。
その黒い点が地につくまえに、おれは方向を変えて飛び立った。
――この不安は。
沖聖、おまえか。