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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第四部 鴉の王
43/100

第一章 追憶

ここから鴉の王です!

やっと・・・

あたためていた話が・・・!


ここで、本当に面目ないことに、

登場人物、多すぎじゃね?みたいな。。

なので、登場人物ガイドみたいなのをつくります。

できたら下のリンクはってるとこにはるので、

よかったら、ご活用ください!



ここからは物語の後半に入っていきます♪

それでは第四部、どうぞ。








〜カラスノオウ〜











光のなかの闇に宿りし


若き王は





歓びに猛り


苦痛にいななき





確固たる力をもってして


いざ今ゆかん







それすら曖昧で


朧な存在


しるしはないに等しく







それでも


それでも直





自らのさだめは


自らでつかみとる







そのために




鴉の王















【第一章 追憶】





******




明るい月を見ると、ふと思うんだ。

今でもそれは胸をひどく締め付けてやまない。



――彼の魂は、いまだ報われず、暗闇をひとりでさ迷っているのだろうか、と……。







――恐れるな。

生きることを、怖がってはいけないよ。

まっすぐ先にある光を見失わぬように、常に闇を意識しておけ。

……はい、わかりました。


――おまえはいつでもそばにいろ。

一生仕えておくれ。

……もちろんです。


――おまえに地位をやろう。

……ありがとうございます。


――噂がある。おまえがわたしを殺そうとしていると。

まことか?

……いいえ。


――もう騙されない!

貴様は追放だ!

いちばん信頼していたのに、裏切るなど許さない!

命だけは助けてやる。

……はい。


――最近、おまえがわからなかった。

うれしいのか、悲しいのか、怒りか恨みか喜びか、よくわからなかった。

結局おまえは、わたしを慕っていたのか。

もう、おまえなど見たくない。

……はい。






慕っていたに決まってる。

大事にされ、うれしかった。

認められたときは、泣きたいほど。

だけど……だけど、どうしても信じられなかった。

自分に自信がなくて、本当に相手を信頼していいのか、わからなかった。


ごめん。

おれは、いつも気づくのが遅い。

ごめん。

おれはまたひとりだ。

ごめん。


ごめんなさい――幼皇さま。






おれはひとりになった。

謀反の疑いをかけられ、殺されそうになったが、幼皇さまの情けで、こうして生きている。

おれは小さいころから、幼皇さまのためだけに生きてきた、彼のいちばんの側近だったから。

幼皇さまとは、兄弟みたいだったから。

捨てられた赤子だったおれを拾ってくれたのは、まだ若かった初代幼皇さま。

彼がおれを息子同然に育ててくれ、彼の息子である人間に遣えるべく、その方だけを慕い、その方だけを尊敬してきたのに……。



国を出て、ひとりきりになれる場所を探す。

山奥の、人気のないひっそりとしたところだ。

もうこりごりだ。

地位がほしくて、おれを追い出した奴は、今ごろ幼皇さまの側近になってる。

……大丈夫だろうか、幼皇さまは。

それでもひとり宮から逃げ出してきたおれは、なんてひどい奴なのだろうかと思う。

自身を軽蔑する。

まったく、最悪だ。



おれは山奥に屋敷を建てることにした。

自分でも、建築に関する才能はあると思う。

広い敷地をつくり、木を切り、丁寧にかつすばやく造る。

烏たちが激しく鳴きながら、馬鹿にしたようにおれの周りを飛んでいく。

「屋敷が完成したら、おまえたちも一緒に住もうな」

そんなことを言いながら、いつしか烏たちと言葉が通じるんじゃないかってくらい、仲良くなってた。

仕事があるのは、すごく救われることだった。

幼皇さまのことを思い出す時間もないくらい、働いていたい。

なにも思い出したくはなかったから。




ある日のことだった。

食糧が底をついてきたので、村に降りて米を買った帰り道。

山に入るそのとき、突然脇腹に熱い痛みを感じた。

一瞬息ができなくて、次いで焼ける痛みがどっと押し寄せてきた。

脇腹を押さえ、倒れまいとして振り返る。

そこには、三人の武装した男がいた。

彼らのうちのひとりは、血のついた鋭い剣を持っている。

おれは――刺された?


脇腹を押さえる手は、赤黒く染まる。

ドクドクと脈打つのが耳に聞こえ、心臓は激しく、息は荒くなる。

……傷が深い。



「幼皇さまの命により、貴様を始末する」

男のひとりがそう言った。

なんの感情もなく、淡々と。

ビュッと風をきり、さらに腕を切りつけられる。

ぼんやりしはじめた意識のなかで攻撃をよけ、山中に駆け出す。

山なら、おれのほうが相手よりも詳しい。

必死で逃げた。



「深追いするな。あの傷だ。いずれ死ぬだろう」

そんな声が、背後から聞こえてきた。




……死ぬか。

絶対に生きてやる。

幼皇さまがおれを殺せと命じた?

そんな馬鹿な。

信じない。

どうせおれを邪魔に思う奴らの仕業だ。


悔しいのか悲しいのか、自然と目からは涙がこぼれてきた。



死にたくない。

生きてやる……。



次に気がついたとき、目の前には黒々した眼があった。

どうやら倒れたらしい。

一羽の烏がおれの顔をのぞきこんでいた。

「……ごめ、んな……や……屋敷……ッできなかった……ハァ……」

最期に話しかけたのが烏だなんて、笑える。

自嘲しながら、ゆっくりとまぶたを下ろす。

なんだったんだ、おれの人生は。

こんな結末、望んでなかったのに。



『生きたいか、小僧』



ふいに、声がふってきて、閉じかけたまぶたを再度上げる。

相変わらず澄みきった瞳におれを映しながら、烏はこちらを見ていた。

ふつうなら考えないだろうが、死の瀬戸際だったからだろうか……

おれはこの烏が口をきいたのだと思った。


「ああ、生き……たい」

『ならばくれてやろう。わしの身体を。わしはもう長くない。だから小僧にくれてやる。さぁ、誓え』


烏は高らかに鳴く。

その瞳は誇りに輝く。


『烏の屋敷を造ることを。屋敷ができたら、そこにマヨナカさまの一部を棲まわせることを。マヨナカさまがきっと訪れてくださる。それまでは屋敷の主を選べ』

頷く。

『さぁ誓え。屋敷を守ると。烏の王になることを。さすれば小僧、貴様は不死身となるだろう』



突風が吹き抜けた。

迷いはない。

傷の痛みも忘れ、おれは叫ぶ。


「誓う!おれはすべて誓う!」


屋敷を造る。

マヨナカさまを迎え入れる。

すべて誓おう。




瞬間、前進を焼けるような痛みが走った。

ノコギリで身体を分断され、刀で皮膚の一枚一枚をはぎとられるような感覚。

あまりの痛さに、悲鳴すら上がらなかった。

しかし、次の瞬間には、おれは空を飛んでいた。

人間だった自分の身体もない。

おれを見つめていた烏の姿もない。

ただ山のてっぺんを、くるくると旋回していた。

闇色の翼をはためかせ、烏になって。




それからおれは、烏たちの奇妙な輪にはまった。

長である烏の息子として迎えられ、人間にはない集団の絆のような繋がりをもった。

……心地よかった。

はじめてのおれの居場所。

そう、思った。

時間の流れは、人間のときとはまるでちがった。

この山の烏は、普通の烏たちとはちがうようで、人間と口をきけるし、長生きをする。

賢く、戦闘もできる。

屋敷を造るときにも、たくさん力を貸してくれた。


何年かして屋敷が完成し、《マヨナカさま》の一部を迎え、何十年かして……屋敷の主を探すことにした。

本当はおれでもよかったんだけど、はっきり言って面倒だった。

屋敷から離れられないのは億劫だ。

そのころには、おれは《人間》というものを忘れていた。

《心》ってもんが、わからなくなってた。

心身ともに、不死身の烏になっていたんだ。



離れた国の適当な村で、女の子を拐った。

彼女には烏に慣れてもらう必要があったから、なるたけ幼い娘を選んだ。

そうやって娘を屋敷の主にしたものの、最初はうまくいかなかった。

娘がかんしゃくを起こしたので、うっかり殺してしまう烏もいた。

環境が合わないのか、長生きしない人間もいた。

烏たちの反発みたいなものも表れた。


そこで、おれは烏たちに娘を認めさせる必要があると悟り、次に選んだ人間の娘を《家族》として迎えることに決めた。

おれの妹として存在すればいい。

人間ではなく、家族として、烏として、育てればいい。



『人間は烏にはなれないよ』

娘を拐ってくると、朱楽がそう言った。

『心配ない。今度はうまくいく』

ニヤリと笑ってそう返すと、朱楽は無表情のまま、何回かまばたきしてから言った。

『……アタシはそう思えないけどね。アンタが壊れないように、祈るだけサ』

ハンと馬鹿にして笑ってやる。


壊れるだとか、壊れないだとか、そんなのは関係ない。

オレサマは烏の王となるべく、生きているんだから。




拐った娘は姫と名づけた。

すぐに姫はこの環境に適しているのだとわかった。

拒絶することなく、姫はなんでもおれの言うとおりにしたし、烏の姫とすることで、他の烏たちも姫には表立って反抗できなくなった。

屋敷も姫を受け入れ、すべては順調だった。



……父母が殺された。

さすがに人肌が恋しくなったのか、姫が屋敷から逃げ出したことがあった。

それをたまたま人間たちに見つかり――姫を殺そうとした人間を殺したと同時に、助けようとした父母烏は殺された。

姫はとうとう、真に屋敷の主になることになった。

これでみんなは姫に逆らえない。

背後におれがいれば、すべてうまくいく。

その前に――父母を殺した奴らに復讐を。



人間は兵士だったらしい。

運命ってあるもんだな、とこのときばかり実感したことはない。

その兵士は、幼皇の国の者だったから。

復讐と称し、おれは烏を使って幼皇の国の村々を焼き払った。

そして――奴らの武器に塗りたくられた毒の出処を探り、ある一族の住まう集落にたどり着いた。

そこの一族を壊滅させ、復讐を果たす。

姫は無事屋敷の主になり、おれたち烏は人間に支配されることなく、自由に生きる。



恩だとか、損得だとか、義理だとか、地位だとか、そんなものに捕われる理由もない。

自由だ。

ただし、何百年にか一回、人間の姿に戻る時期がくる。

約一年間、人間に戻り、また烏になる。

これは不死身の代償なのだろうかよくわからないが、今では人間の姿のときだけ山をおりることにしている。


すべてうまくいっていたはずだった。

なのに……




狂いはじめたのは、いつからだ?



そうさ。

おれは姫に情けをかけはじめた。

屋敷から解放してやりたいんだ。


これはなんだ?

人間の心か?

失ったはずの、いらないものか?


姫は人間の母のぬくもりを知らない。

おれと同じに。

いや、姫は忘れてしまっただけなんだ。

だから夢に、子守唄をうたう母を見るのだから。

姫は、夜呂という人間の小僧を気にかけているようだったが、それを認めようとはしていない。



……おれはわからない。

人の心も、烏の本質も。

たぶん、まったく知らないんだ。

おれはいったい……何者なんだろう?







――なぁ、幼皇さまよ。

おれはまちがってなんかいないよな。

今も昔も、ずっとあんたを慕ってたんだ。

本物の家族のような錯覚を覚えてたんだ。


こんなおれを、もうアンタはいらないと思うかい?

アンタを置いて逃げてきたおれを……。


ああ、だからせめてたしかめさせてくれ。

今もアンタの血がつづいているかたしかめたいんだ。


アンタのことなら、一目見ればわかるから。

その血筋の人間か、わかるから。



だから、まだ。

おれを解き放つときは今じゃない。



もう、この世界にも飽きたんだ。

結局おれの求めていたのは、単なるぬくもりや愛でしかなかったのかもしれない……。




たぶん、もうすぐいくから。

もうしばらく、待っていて。



アンタをひとりにはさせないからな。






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