第一章 追憶
ここから鴉の王です!
やっと・・・
あたためていた話が・・・!
ここで、本当に面目ないことに、
登場人物、多すぎじゃね?みたいな。。
なので、登場人物ガイドみたいなのをつくります。
できたら下のリンクはってるとこにはるので、
よかったら、ご活用ください!
ここからは物語の後半に入っていきます♪
それでは第四部、どうぞ。
〜カラスノオウ〜
光のなかの闇に宿りし
若き王は
歓びに猛り
苦痛にいななき
確固たる力をもってして
いざ今ゆかん
それすら曖昧で
朧な存在
しるしはないに等しく
それでも
それでも直
自らのさだめは
自らでつかみとる
そのために
鴉の王
【第一章 追憶】
******
明るい月を見ると、ふと思うんだ。
今でもそれは胸をひどく締め付けてやまない。
――彼の魂は、いまだ報われず、暗闇をひとりでさ迷っているのだろうか、と……。
――恐れるな。
生きることを、怖がってはいけないよ。
まっすぐ先にある光を見失わぬように、常に闇を意識しておけ。
……はい、わかりました。
――おまえはいつでもそばにいろ。
一生仕えておくれ。
……もちろんです。
――おまえに地位をやろう。
……ありがとうございます。
――噂がある。おまえがわたしを殺そうとしていると。
まことか?
……いいえ。
――もう騙されない!
貴様は追放だ!
いちばん信頼していたのに、裏切るなど許さない!
命だけは助けてやる。
……はい。
――最近、おまえがわからなかった。
うれしいのか、悲しいのか、怒りか恨みか喜びか、よくわからなかった。
結局おまえは、わたしを慕っていたのか。
もう、おまえなど見たくない。
……はい。
慕っていたに決まってる。
大事にされ、うれしかった。
認められたときは、泣きたいほど。
だけど……だけど、どうしても信じられなかった。
自分に自信がなくて、本当に相手を信頼していいのか、わからなかった。
ごめん。
おれは、いつも気づくのが遅い。
ごめん。
おれはまたひとりだ。
ごめん。
ごめんなさい――幼皇さま。
おれはひとりになった。
謀反の疑いをかけられ、殺されそうになったが、幼皇さまの情けで、こうして生きている。
おれは小さいころから、幼皇さまのためだけに生きてきた、彼のいちばんの側近だったから。
幼皇さまとは、兄弟みたいだったから。
捨てられた赤子だったおれを拾ってくれたのは、まだ若かった初代幼皇さま。
彼がおれを息子同然に育ててくれ、彼の息子である人間に遣えるべく、その方だけを慕い、その方だけを尊敬してきたのに……。
国を出て、ひとりきりになれる場所を探す。
山奥の、人気のないひっそりとしたところだ。
もうこりごりだ。
地位がほしくて、おれを追い出した奴は、今ごろ幼皇さまの側近になってる。
……大丈夫だろうか、幼皇さまは。
それでもひとり宮から逃げ出してきたおれは、なんてひどい奴なのだろうかと思う。
自身を軽蔑する。
まったく、最悪だ。
おれは山奥に屋敷を建てることにした。
自分でも、建築に関する才能はあると思う。
広い敷地をつくり、木を切り、丁寧にかつすばやく造る。
烏たちが激しく鳴きながら、馬鹿にしたようにおれの周りを飛んでいく。
「屋敷が完成したら、おまえたちも一緒に住もうな」
そんなことを言いながら、いつしか烏たちと言葉が通じるんじゃないかってくらい、仲良くなってた。
仕事があるのは、すごく救われることだった。
幼皇さまのことを思い出す時間もないくらい、働いていたい。
なにも思い出したくはなかったから。
ある日のことだった。
食糧が底をついてきたので、村に降りて米を買った帰り道。
山に入るそのとき、突然脇腹に熱い痛みを感じた。
一瞬息ができなくて、次いで焼ける痛みがどっと押し寄せてきた。
脇腹を押さえ、倒れまいとして振り返る。
そこには、三人の武装した男がいた。
彼らのうちのひとりは、血のついた鋭い剣を持っている。
おれは――刺された?
脇腹を押さえる手は、赤黒く染まる。
ドクドクと脈打つのが耳に聞こえ、心臓は激しく、息は荒くなる。
……傷が深い。
「幼皇さまの命により、貴様を始末する」
男のひとりがそう言った。
なんの感情もなく、淡々と。
ビュッと風をきり、さらに腕を切りつけられる。
ぼんやりしはじめた意識のなかで攻撃をよけ、山中に駆け出す。
山なら、おれのほうが相手よりも詳しい。
必死で逃げた。
「深追いするな。あの傷だ。いずれ死ぬだろう」
そんな声が、背後から聞こえてきた。
……死ぬか。
絶対に生きてやる。
幼皇さまがおれを殺せと命じた?
そんな馬鹿な。
信じない。
どうせおれを邪魔に思う奴らの仕業だ。
悔しいのか悲しいのか、自然と目からは涙がこぼれてきた。
死にたくない。
生きてやる……。
次に気がついたとき、目の前には黒々した眼があった。
どうやら倒れたらしい。
一羽の烏がおれの顔をのぞきこんでいた。
「……ごめ、んな……や……屋敷……ッできなかった……ハァ……」
最期に話しかけたのが烏だなんて、笑える。
自嘲しながら、ゆっくりとまぶたを下ろす。
なんだったんだ、おれの人生は。
こんな結末、望んでなかったのに。
『生きたいか、小僧』
ふいに、声がふってきて、閉じかけたまぶたを再度上げる。
相変わらず澄みきった瞳におれを映しながら、烏はこちらを見ていた。
ふつうなら考えないだろうが、死の瀬戸際だったからだろうか……
おれはこの烏が口をきいたのだと思った。
「ああ、生き……たい」
『ならばくれてやろう。わしの身体を。わしはもう長くない。だから小僧にくれてやる。さぁ、誓え』
烏は高らかに鳴く。
その瞳は誇りに輝く。
『烏の屋敷を造ることを。屋敷ができたら、そこにマヨナカさまの一部を棲まわせることを。マヨナカさまがきっと訪れてくださる。それまでは屋敷の主を選べ』
頷く。
『さぁ誓え。屋敷を守ると。烏の王になることを。さすれば小僧、貴様は不死身となるだろう』
突風が吹き抜けた。
迷いはない。
傷の痛みも忘れ、おれは叫ぶ。
「誓う!おれはすべて誓う!」
屋敷を造る。
マヨナカさまを迎え入れる。
すべて誓おう。
瞬間、前進を焼けるような痛みが走った。
ノコギリで身体を分断され、刀で皮膚の一枚一枚をはぎとられるような感覚。
あまりの痛さに、悲鳴すら上がらなかった。
しかし、次の瞬間には、おれは空を飛んでいた。
人間だった自分の身体もない。
おれを見つめていた烏の姿もない。
ただ山のてっぺんを、くるくると旋回していた。
闇色の翼をはためかせ、烏になって。
それからおれは、烏たちの奇妙な輪にはまった。
長である烏の息子として迎えられ、人間にはない集団の絆のような繋がりをもった。
……心地よかった。
はじめてのおれの居場所。
そう、思った。
時間の流れは、人間のときとはまるでちがった。
この山の烏は、普通の烏たちとはちがうようで、人間と口をきけるし、長生きをする。
賢く、戦闘もできる。
屋敷を造るときにも、たくさん力を貸してくれた。
何年かして屋敷が完成し、《マヨナカさま》の一部を迎え、何十年かして……屋敷の主を探すことにした。
本当はおれでもよかったんだけど、はっきり言って面倒だった。
屋敷から離れられないのは億劫だ。
そのころには、おれは《人間》というものを忘れていた。
《心》ってもんが、わからなくなってた。
心身ともに、不死身の烏になっていたんだ。
離れた国の適当な村で、女の子を拐った。
彼女には烏に慣れてもらう必要があったから、なるたけ幼い娘を選んだ。
そうやって娘を屋敷の主にしたものの、最初はうまくいかなかった。
娘がかんしゃくを起こしたので、うっかり殺してしまう烏もいた。
環境が合わないのか、長生きしない人間もいた。
烏たちの反発みたいなものも表れた。
そこで、おれは烏たちに娘を認めさせる必要があると悟り、次に選んだ人間の娘を《家族》として迎えることに決めた。
おれの妹として存在すればいい。
人間ではなく、家族として、烏として、育てればいい。
『人間は烏にはなれないよ』
娘を拐ってくると、朱楽がそう言った。
『心配ない。今度はうまくいく』
ニヤリと笑ってそう返すと、朱楽は無表情のまま、何回かまばたきしてから言った。
『……アタシはそう思えないけどね。アンタが壊れないように、祈るだけサ』
ハンと馬鹿にして笑ってやる。
壊れるだとか、壊れないだとか、そんなのは関係ない。
オレサマは烏の王となるべく、生きているんだから。
拐った娘は姫と名づけた。
すぐに姫はこの環境に適しているのだとわかった。
拒絶することなく、姫はなんでもおれの言うとおりにしたし、烏の姫とすることで、他の烏たちも姫には表立って反抗できなくなった。
屋敷も姫を受け入れ、すべては順調だった。
……父母が殺された。
さすがに人肌が恋しくなったのか、姫が屋敷から逃げ出したことがあった。
それをたまたま人間たちに見つかり――姫を殺そうとした人間を殺したと同時に、助けようとした父母烏は殺された。
姫はとうとう、真に屋敷の主になることになった。
これでみんなは姫に逆らえない。
背後におれがいれば、すべてうまくいく。
その前に――父母を殺した奴らに復讐を。
人間は兵士だったらしい。
運命ってあるもんだな、とこのときばかり実感したことはない。
その兵士は、幼皇の国の者だったから。
復讐と称し、おれは烏を使って幼皇の国の村々を焼き払った。
そして――奴らの武器に塗りたくられた毒の出処を探り、ある一族の住まう集落にたどり着いた。
そこの一族を壊滅させ、復讐を果たす。
姫は無事屋敷の主になり、おれたち烏は人間に支配されることなく、自由に生きる。
恩だとか、損得だとか、義理だとか、地位だとか、そんなものに捕われる理由もない。
自由だ。
ただし、何百年にか一回、人間の姿に戻る時期がくる。
約一年間、人間に戻り、また烏になる。
これは不死身の代償なのだろうかよくわからないが、今では人間の姿のときだけ山をおりることにしている。
すべてうまくいっていたはずだった。
なのに……
狂いはじめたのは、いつからだ?
そうさ。
おれは姫に情けをかけはじめた。
屋敷から解放してやりたいんだ。
これはなんだ?
人間の心か?
失ったはずの、いらないものか?
姫は人間の母のぬくもりを知らない。
おれと同じに。
いや、姫は忘れてしまっただけなんだ。
だから夢に、子守唄をうたう母を見るのだから。
姫は、夜呂という人間の小僧を気にかけているようだったが、それを認めようとはしていない。
……おれはわからない。
人の心も、烏の本質も。
たぶん、まったく知らないんだ。
おれはいったい……何者なんだろう?
――なぁ、幼皇さまよ。
おれはまちがってなんかいないよな。
今も昔も、ずっとあんたを慕ってたんだ。
本物の家族のような錯覚を覚えてたんだ。
こんなおれを、もうアンタはいらないと思うかい?
アンタを置いて逃げてきたおれを……。
ああ、だからせめてたしかめさせてくれ。
今もアンタの血がつづいているかたしかめたいんだ。
アンタのことなら、一目見ればわかるから。
その血筋の人間か、わかるから。
だから、まだ。
おれを解き放つときは今じゃない。
もう、この世界にも飽きたんだ。
結局おれの求めていたのは、単なるぬくもりや愛でしかなかったのかもしれない……。
たぶん、もうすぐいくから。
もうしばらく、待っていて。
アンタをひとりにはさせないからな。