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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第一部 鴉の姫
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******



屋敷では、烏たちがざわめいていた。

凛は嘴をとがらせて、あきらかに気に食わないという表情をした。


『人間だ!』

『人間がいる……』

『――だ』



「チッ。気味悪い烏だ」

高安は舌うちをして言った。

「言葉を解しているだけだ。烏は利口だよ」

わたしは冷たくにらみつける。




『姫!』

廊下を歩いていると凛がやってきた。

『なぜ人間を入れた?』


なぜ――?

軽く笑う。


「おもしろいと思ったから」

凛はぎょっとしたようだった。

わたしは騒ぎたてる烏たちに向き直り、声をはりあげた。

「この者たちの命はわたしが持つ。お前たちは手だし無用――」

それから、にやりと笑う。


なんと幸運なこと。


新たな人間たちがやってくる気配がした。

「侵入者がきた。食べるなり、殺すなり、好きにしていい――この人間を追って、餌はやってくるんだ。嫌な話じゃないでしょう」

凛は渋々認めたように、ひと声鳴いた。

他の烏もみんな凛に従い、新たな侵入者に向かって飛び立っていった。



屋敷はわたしたち三人だけになった。

「お前たち、ひどく狙われているね」

高安に向かってちょっとせせら笑う。

彼は無表情のまま、わたしを見つめかえしてきた。




……まぁいいわ。

その真相を握っているのは彼じゃないでしょうから。




握っているのは――夜呂の方。







「傷の手当てをするといい。なにか薬草くらいならあるだろう」

そう言って、わたしは廊下の端から二番目の部屋に高安を案内した。

薄暗い部屋には、たくさんの薬草が保存されていた。

「手当てくらい自分でできる」

と言うので、わたしは彼をひとりそこに残した。


そして――

「――夜呂、ちょっといいかな」

夜呂はすぐに応じた。







わたしは彼を引き連れて、奥の間にやってきた。

ここなら、だれからも話を聞かれる心配はない。


「……あの白い馬はうつくしいか?」

わたしはゆっくりと口を開いた。

夜呂は顔をゆるめて、にこりと笑った。

「とてもいい馬なんだ!毛並もきれいだし」

わたしは一度見ていた馬を思い出す。

疲れ果ててはいたが、あれはうつくしいものの部類に入るのだろう。

「明日にでも、放してやろう。ここではあの馬は生きれない」

「え?!」

夜呂はあわててわたしの顔を見た。

「馬の面倒はみれない。それに、いつか烏に食われるよ」

夜呂はしばらくうちのめされたかのような表情になった。

「でも……あの馬がいなければ帰れないよ」



――帰れない?

わたしは不適に笑って言った。



「勘違いしないで。わたしが許すまで、あなたたちは決してこの屋敷から出られない……」


ゴクンと少年が生唾を飲んだ音が聞こえたような気がした。

夜呂はしばし沈黙したのち、目を伏せたまま言った。



「……彼を返してやってくれ」


それはもはや――命令だった。



けれどわたしは動じない。

打って変わった彼の口調も態度も品格も、予想内。

ここはわたしの屋敷。

人間に口出しは無用。

主導権はない。




「高安はおれの従者」

あきらめたかのように、夜呂は話しはじめた。

ゆっくりと、自分に言い聞かせるように。



「おれは北国の王の息子。だけど次男だった……」










――夜呂は次男だった。

彼には五つ年上の兄・ミギリがいた。

知識もあり、武力にもたけて、それはいずれ理想の王になる予定だった。

あきらかに人とはちがう才覚に、人々は感嘆の息を呑むのだった。


しかし、丁度四年前のことだ。

南の国との対立が激しくなり、砌はやむなく戦争にいかなければならなくなった。

彼はいちばん信頼のおける家来――高安を夜呂のそばに残した。


「夜呂、お前は立派になるよ」

兄はそう言った。




それから一年後、兄は戦死した。



それからは夜呂が次代の王になることになった。

しかし、やはり南の国との対立は激しさを増すばかりで、ついに父は影武者を高安に命じさせた。

夜呂が死ねば、跡継ぎがなくなるから……

いつも砌の栄光の陰に隠れていた夜呂の情報は、幸いなことに、敵にはほとんど漏れていなかった。

名前も年齢も姿かたちも敵にはわからない。

高安が影になることは容易かった。



高安は夜呂にあらゆることを教えはじめた。

武道、学問、政治、心構え、自分の持っているすべてを彼に与えつづけた。

夜呂は必死だった。

兄の最後の言葉を現実にするために。


――お前は立派になるよ――




やがて、北の国と南の国の戦争は本格化した。

そして五日前、とうとう攻められた。

それから二日後、北の国は滅亡状態になった。

父は夜呂だけはどうにか逃がそうとした。


「またいつか、お前が平和な国をつくるんだ」


そう言われた。

それまで兄より頼られたことはなかった。

それまで兄より期待されたこともなかった。

しかし、そのときは確実に、夜呂はだれよりも必要とされた。


高安は立派な鎧兜に身を包んだ。

夜呂は農民の姿に変えられた。

危ないかけではあるが、鎧をまとえばすぐに王の息子だとばれて殺される。

夜呂は武器を持たず、高安を連れて逃げた。

なにかのときは、最悪高安が身代わりになる。

高安がおとりになる。

高安が夜呂を守るようにと。



しばらくして、敵の追っ手がかかった。

逃げて、逃げて、逃げて……

やみくもに逃げて……

高安は夜呂をかばい、たくさんの怪我をした。

それでも逃げることだけはやめない。

――生きるために。


容易なことではないけれど。

辛く苦しいことだけれど。


約束を果たすために、ふたりは逃げた。



そして、《鴉の屋敷》の領域に迷い込んだというわけである。








「おれは、高安を兄のように尊敬している」

夜呂はゆっくりとわたしを見つめてきた。

その眼がきらりと光ったように見えた。

「……高安を逃がしてやって。ここに縛られるのはおれひとりで充分――」

「それはどうかしら」

わたしは彼の言葉を遮った。


ちがうのよ。

夜呂はまったくわかってない。

人間っておもしろい。


「高安は夜呂といたいと思ってる」

きっぱりとわたしは言い切る。

さきほどから、屋敷の中を動き回る気配がしていた。

たぶん、夜呂を心配して探しまわっているのだろう。


だが、これは気に入らない。

わたしの屋敷を勝手に歩くことは許さない。


「早く高安のところへ戻りなさい――高安がひとりになれば、わたしはあいつを殺すかもしれない」

夜呂は目を見開く。

これは脅しでも冗談でもない。

高安は強い目をしている。

強い意思をもっている。

だが、その分わたしの機嫌を損ねやすい。

夜呂に免じている部分がかなりある。


「……高安から目を離さないことね。屋敷を勝手に歩くことを禁じるわ」

黙りこくっている少年にそう告げると、わたしは絹ずれの音を響かせて、さらに奥の間に足を進めた。

後ろでは、夜呂が困惑と恐怖に捕えられている気配がした。




――肝に命じておくといい。


わたしは姫。

勝手は許さない。




えっと、かなり付け足してしまってすいません。

ごちゃごちゃになってしまいました。。

次からは気をつけますので、今回はあたたかい目で見守ってください笑

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