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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第二部 鴉の娘
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******






――あたしはここのだれよりも強い。

あたしは、気に入らない人間をすぐにでも殺せる。

本気になれば、それはとても容易いことだ。

けれどあえて考えないようにしてきた。



心は脆い。



どんなに危険なことであろうと、自分の欲のためには犠牲だっていとわない……

そんな人間になり下がる気はさらさらなかった。

いつでも、あたしのなかにはもうひとりのあたしがいた。

いつだって、あたしはびっくりするようなまがまがしい心を感じてた。

善人ぶっているのだと、知りたくなかった……




「あたしの価値……?」

ゆっくりと口から言葉が落ちる。

変に落ち着いているのに、心の内は黒い炎が熱く燃えている。

あたしの価値は、毒の知識だけ。



知っていたけれど。

わかっていたけれど。

そんなふうに言われたくなかった。



ぷつんとなにかが切れた気がした……



「空弥に、毒の知識を伝えるつもりはありません。この仕事は――この力は滅ぶべきものです」

きっぱりと言い切る。

ぴんとはりつめた緊張が、部屋中に流れた。

逆らうことをしなかったのは、生きていくため。

けれど、あたしたちにだって誇りはある。

一族の力を誇れないあたしには、知識を受け継ぐ資格はないのだと思う。

まだ、その正しい使い道を知らないあたしは……



いつも正しいことに使えと教えられてきたけれど、実際あのときの一族は、なにに使ったのだろう。

権力を持つ人間は、猛毒を扱うあたしたち一族を重宝し、きっとその毒を戦に用いたはずだ。

それが正しいことなのだろうか。




夜桜さまはしばらく沈黙を守っていたが、やがて非常にゆっくりと口を開いた。

「いつの間にか、季節は冬になるのね」

「……なに」

「いいでしょう。わかりました。わたくしが愚かでしたわ」

そう言うと、夜桜さまはさらにあたしに近づく。

その言葉に驚いたのに、次にとった彼女の行動にさらに驚かされた。

なんと、今まで顔を隠していた白い布を取り去ったのだ。

びっくりしているのもつかの間、そこにはうつくしい顔が現れた。




艶やかな結っていた黒髪を解き放ち、流れる漆黒の眼をのぞかせる。

薄い唇は桜色で、凛としたうつくしさがあった。



「サソリ殿……いえ、加世さま」

かしこまった形をとり、夜桜さまは頭を軽く下げてつづけた。

「わたくしは、あなたにお願いがございます。幼皇さまの気が安らぐお薬をお作りください。そして――」

動けなかった。

真っ黒い髪をゆらし、闇色の瞳を向ける彼女から、逃れられないと直感した。

「――幼皇さま直属の暗殺部隊にお入りいただきとうございます」




……暗殺部隊。

あたしはどれくらい汚れればいいの?

あたしにこれ以上、人殺しをさせないで……!


それに、あたしは気がついた。

なぜ、あたしの本名を知っているの?

《サソリ》と名のっていて、《加世》だなんて教えていないのに……




「三日のうちに、お心をお決めください。わたくしはあなたを信用しています。だから素顔をさらしたのです」

再び白い布に顔をうずめながら、彼女はそっと言った。

「すべては、幼皇さまのために、ですよ。幼皇さまにお会いするには、まだ時間がかかるでしょう。それまでは、相手役を手配しました。彼らから、幼皇さまのことを聞くといい」

すっと立ち上がると、一度軽く会釈をして、夜桜さまは部屋から出ていった。


とてもあっけなく、あっさりと。

あたしはしてやられたのだろう。

まだ自分が子供すぎていやになる。

空弥も守れないなんて……






「失礼いたします」

干渉に浸る暇なく、声がして、ひとりの若者が部屋に入ってきた。

水色の袴を着た、茶色髪の、切れ長の眼をした、なんだか熱意に満ちた男だった。


「ただいまサソリさまのお相手役になりました、正任マサトウともうします。以後、おみしりおきを」

いやにはきはきとしたしゃべり方だったが、あたしはけっこう好きだ。

好感がもて、すぐに警戒心は薄れる。

「えっと……加世といいます。加世と呼び捨てにしてください」

どうしようかと迷ったが、結局本名を名のった。

サソリは毒使いであって、今のあたしはただの加世なのだから。




すると若者は、にこっと笑って、急に親しみやすさを露にした。

「お言葉に甘えさせてもらいます!おれ、堅苦しいのは苦手なもんで。この図々

しさを買われて、幼皇さまの従者になれたようなもんですから」

「えっ。幼皇さまの?!」

「はい。あ!夜桜さまから伝言を言付かっています」

あわてた様子で正任はそう言うと、懐から紙を取り出して読みあげた。



「加世さま。弟君は、まだ眠っておられたほうがいいでしょう。あなたの考えを惑わすことがあっては困りますゆえ。しかり、弟君は屋敷で丁重に預からせてもらいます。そのほうが、あなたにとっても、弟君にとってもよいことなのです。では、ごゆるりと滞在してください――以上」




空弥を……

それはつまり、人質?

そうではないとしても、人質にされる可能性は充分にある。




あたしは頭を振って、あわてて拒絶する。

「お断りします。弟はわたせません」

「加世さま、これはたぶん、命令です」

正任の顔が蔭った。

この人は、熱意に満ちた顔の裏に、どんな冷たい眼を隠しているのだろう。


ここは宮。

たぶん、みんな表と裏がある。

あたしは油断しちゃいけないんだ……。


思わず開きかけた口を閉じる。

「きかないと言ったら……?」

「よくお考えください。ここは幼皇さまの屋敷。宮のなか。あなたがいくら優れた知識を持ち合わせていようと、ここでは意味をなしません」




手足が震える。

あたしには、どうしようもないことなの?

弟を手放すことなんて、できない……




すると、正任はふっと柔らかな声で、再び親しみやすさを取り戻して言った。

「大丈夫。弟君の世話を預かるのは、おれの妻です。絶対、悪いようにはしません」

彼の瞳を見つめる。

泣きそうになるほど、まっすぐだった。



もう、なにがなにだかわからない。

あたしはなんのためにここにいるの。

どうすればいいの。

どうすれば、空弥とふたり、幸せに生きていけるの……?




あたしは無意識のうちに、誘惑に負けたのかもしれない。

空弥を重荷に思うはずはない……

けれど――あたしは、たぶんひとりで考えなくちゃ。





涙を堪え、どうして泣きたくなるのかいぶかりながら、あたしは小さく頷いた。










ここで二部・二章は終わります。

実は、これは三部作でいこうと思ってたんですが、

思いのほか、登場人物がふえてしまって…汗

もしかしたら、というか高い確率で、

四部作になるかもです。

ぇえ、なりますとも!


たぶん、【鴉の王】で!!!ワラ


それでは今後も、よろしくです☆★

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