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黒髪の男は、ふらふらと歩いていた。
身軽そうな身体からは、尋常ではないほどの威嚇的なものが出ている。
口元も目元もやわく、マヌケそうなのに、どこか油断ならない表情に見えた。
トカゲは無表情のまま、すっとその男の前に現れた。
急な出現にも動じることなく、喜助は笑みさえ浮かべている。
「勝手に出歩くな。不審者とまちがわれて殺されても、文句は言えないぞ」
きれいな響く声でトカゲは言う。
覆面の下から響くのに、その声にはくもりもかげりもありはしない。
喜助はニヤリと笑むと、肩を小さくすくめる。
『ああ、悪かった。だが、おれは用があったんだよ――貴様にね』
ピクリ、とトカゲに反応があったのを、喜助は見逃さなかった。
満足そうに喉を鳴らし、クスリと声をもらして笑う。
『やっぱりな。貴様もおれに、聞きたいことがあるんだろう?いい加減、覆面なんてやめろ』
「……なんのことだか」
『今さら知らぬふりはないだろうに。おれは貴様を知っているぞ』
「なにを」
わざと考えるフリをして、喜助は横目でトカゲを見やった。
『忘れたとは言わせない。いや、忘れるワケがないだろう?』
クスリと笑い、喜助はトカゲの覆面に手をかける。
トカゲはされるがまま、動かなかった――否、動けなかった。
『おれは貴様を忘れたことはなかったぞ。なにしろ……』
するりと黒い覆面がはずされ、トカゲの素顔が露になる。
色素の薄い顔……しかし、眼には陰を落とした青年。
覆面から現れた端正な顔立ちの青年は、片目を包帯でぐるぐるに覆っていた。
眼帯のように。
残された片方の目には暗い陰が宿り、今は恐怖と驚きに凍りついている。
不適に含み笑いながら、喜助は声を落として言った。
『――貴様の目玉は、うまかったから。なあ、翠冷?』
今や隠すものなどなくなった青年は、ごくりと生唾を飲み込んで、信じられないとばかりに目の前の人物を見つめるしかなかった。
八重歯を出して口角を引き上げ、喜助はただおもしろそうにトカゲ――翠冷の反応を楽しんでいるようだ。
『どうした?せっかく片方残してやったのに。この日のために、生かしておいたのに』
翠冷は恐怖に顔を引きつらせていたが、喜助のこの言葉で、みるみるうちに憎しみに顔を歪めていった。
しまいにはにらむような形で、彼は相変わらずうつくしい声音で言った。
「やはり、おまえだったのか。ずっとそうじゃないかと思ってた」
喜助はさらにニンマリと笑む。
ドス黒い感情を押さえつけるように、翠冷は自身の心臓をつかみ、目の前の男に憎しみをぶつけてにらみつけながら、唸るように言った。
「やっと会えた。この日を、ずっと待ち望んでいた――烏の化け物め」
『上出来さ』
喜助は軽く目を細めた。
トカゲの名前、出すはずじゃなかったv
当初とは予想がつかないほど、いろいろ複雑になりはじめた模様です。ワラ
思えば、喜助が『呪いをかけた』なんて言ってから、こんな展開になったのだと思われる笑
まだつづきます。
読んでくださっている方、ありがとうです!