表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴉の子  作者: 詠城カンナ
第二部 鴉の娘
19/100

第二章 誘惑






【第二章 誘惑】







******







重たい空気にげんなりしているのは、たぶんあたしだけなのだろう。


あたしたち一行は、今は山道をてくてくと歩いている。

枝がちくちくして歩きにくいけれど、足場だけはなんとか確保されていた。

山のなかは高い木々のせいで、なかなか日の光が入ってこなく、薄暗い。

そのなかを、なんとも間抜けな気分で歩いているのは、きっとあたしだけなのだろう。



先頭はトカゲ、次にあたしと空弥、そして後ろをとぼとぼ鼻唄まじりに歩くのは喜助だ。

トカゲは相変わらず無愛想で終始無言だし、喜助は彼のことを気にするわけもなく陽気だし、空弥は空弥で呑気に遠足気分だしで、あたしだけがなんだか煮詰まっているようだった。

加えて心配性ときたもんだから、たまったもんじゃない。

出るのはため息くらいだった。





幼皇さまの西国までは、三日かかった。

それというのも、トカゲはなにやら近道をたくさん知っているようで、あっというまに西国まで来てしまったのだ。

喜助は山道がお得意のようで、たまに空弥をおぶってくれた。



……それにしても、気持悪いものだ。

トカゲは三日間めったなことでは口をきかなかった。

喜助もふざけたことしか口にしなかったし。

みんななにを考えているのか、さっぱりわからない。

あたしはこれからのことを思うと、毎晩寝つけやしないのに……。





あと一日で幼皇さまのお屋敷に着くという夜のことだ。

あたしはすっかり精神的に疲れはて、眠くなってしまった。

空弥をとなりに寝かせ、うとうとしはじめる。

そのとき、うつくしく響く声で、トカゲが言葉を発した。



「……幼皇さまに、明日には来訪することをご報告してくる。朝に迎えにくる。おまえたちはそれまでここにいろ」

「あっ、は、はい!」

ぱっちり目が覚め、答える。

トカゲはそれを聞くと、するすると溶けるように闇に消えた。

――ほっとする。

空気が軽くなったみたい。



『加世は緊張しすぎだ。力を抜け』

カカカッと笑って喜助が言う。

わかってる。

けど、幼皇さま関連のひとたちは、ものすごく怖いのよ!




『さて――出てくれば』




思い出したように、チラと彼の目の輝きが変わった。

鋭さが走り抜ける。

思わず身構えてしまうほど。

なにが出てくれば?

首を傾げたのもつかの間、背後の草陰から、ひょっこりと顔が現れた。


こんがり焼けた肌に、真ん丸の眼、色の抜けた茶色がかった髪の細い男――虎徹だ。

ぎょっとして、あたしは彼を穴が開くほど見つめたけれど、彼はただニコリと笑っただけだった。

どうしてここに山賊が?!




『久しいな。なにか用か』

事も無げにまるで旧友とでも再会したかのような笑顔で、喜助は虎徹に言う。

絶句とはまさにこのこと。

なにが起きたのか、よくつかめない。




「ボクのこと、憶えててくれたんですね」

ニコリと笑いながら、それでも眼に鋭い光を宿したまま彼はつづける。

「先ほどの……あれは幼皇帝の使者?」

あたしは頷く。

「ならば、いきさつはわからないけど、すぐにここから逃げたほうがいい。あいつは、関わるにはまずい人間だよ」


虎徹の顔からは、すでに笑顔が消えていた。

緊張が走る。


「幼皇帝は今、呪いにかかっている最中だ。死ぬまで、そう時間はかからないと思うよ。だから、やつにとってかわりたい人間は、このチャンスを逃さないだろうね」

言ってることを理解して、びっくりしたのは、虎徹が口を閉じてからだった。



幼皇さまが呪いに?

死ぬ?

チャンス?



『ああ。それで貴様も仕事帰りと言うわけか』

喜助がおもしろそうにそう言うと、虎徹が懐から、チャリンと金貨の音を奏でる

袋を見せた。

「そういうこと。幼皇帝の警備はぬるいね。金銀宝はすっかりいただいちゃったよ」

にっこりと油断ならない笑みを見せ、彼はさらに言った。

「まぁ、とにかく、いまは幼皇帝の屋敷に行くべきじゃない。利口なやつらはみんな他国へ逃げてるよ。それにあいつ……」



虎徹は目を細めて、あたしを見た。

丸い目に射止められ、一瞬で動けなくなる。


「さっきの使者は、やばい。あんた、気をつけな」




……あたし?

わけがわからなかった。

きっぱりとそう言った虎徹の言葉が、頭のなかでグワングワンと反響する。




『やはり、加世が狙われているのか』

深刻そうではない口ぶりで喜助が言った。


あたしが狙われているですって?

トカゲに?!


覆面の下からでも、あの暗い眼差しを思い出せる……

あたしが狙われている……

ぞわりと背筋に冷や汗が流れた。




「……そんな……あたしが――なぜ?」

「わからない。ただね。やつはちょっとまともじゃない」

虎徹はそう言うと、さっさと撤退の姿勢をとる。

「すれちがったんだ、さっき。それで、あんたたちを見つけてね。ヤツは、ボクの気配にも気づかないくらい、あわててた」

『なにか裏がありそうだな』



ニヤリと笑い、喜助は虎徹を見て頷く。

彼も不適な笑みを浮かべ、片手を挙げた。



「じゃ、手下が待っているんで、退散するよ。またね――たぶん、もう二度と会わないだろうけど」





闇に消えるように、虎徹は去っていった。

しばしの沈黙が訪れる。




……幼皇さまが死ぬ?

あたしが狙われている?

なぜ?


ああ、わからない。

おかしいとは思ったのよ。

急に幼皇さまから直々に礼物を授けたいだなんて!

あのとき、逃げてしまえばよかった!


あたしはなにかヘマをした?

ちゃんと言われた通りの毒は作ったはずよ。

ならば、いったいなにがいけなかったの?

あたしが狙われる理由は……?!




頭を振る。

まったく思い当たらない。

虎徹のデマではないかしら。

けれど……

喜助は知ってた。

あたしが狙われているってこと。





『大丈夫。敵地にのりこむことほど、楽しいことはない』

見上げたあたしに、彼は不適に笑う。

『なにか企みがあることは事実だろう。だが、オレサマがいる。貴様を死なせやしない』



真っ黒い瞳が、らんらんと輝いていた。

闘志剥き出し、にやっと笑んで、喜助は再度あたしを見やる。






『言ってなかった?呪いをかけたのは、オレサマだよ』









これから物語りはどんどん闇にいきます・・・

暗くなりがちな展開だけど、加世ちゃんがいるならなんとかなりそうですね!

今は喜助は明るいけどね・・・

これからね・・・

加世ちゃんには成長してもらいたいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ