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お久しぶりです!
忙しくって更新がおごそかに・・・笑
でも、やっぱりわたしは日本人ですね!(は?
和風がどうしても書きたくなって、鴉の子が恋しくなるんですよね笑
またお付き合いくださいまし★^^
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「宮へ?!」
三日後の早朝。
やっとの思いで毒をつくりあげ、トカゲに渡した直後に言われた言葉に愕然とする。
トカゲの表情は覆面に隠れてやはりわからなかったけれど、声だけは異様にうつくしく響いていた。
「もう一度言う、宮へついてこい」
開いた口が塞がらないし、目玉が飛び出すのではないかと思うくらい驚く。
宮へ……
それはつまり、幼皇さまに会見しろということか。
いったいなぜ?
そんな申し出、今までなかったのに。
なにか罠があるのではないかと疑ってしまう。
「毒サソリの活躍に、幼皇さまは大変感謝しておられる。礼物を贈りたいだけだ」
あたしの心を読み取ったのか、トカゲは響く声音でそう言った。
あたしはあわてて首をブンブン振る。
「無理です!あ、あたしには弟がいるし、客人の面倒だってあるし、行けません!礼物なんていりません!構わなくて結構です!」
一気にそれだけを言ったものの、トカゲはぎろりと覆面のなかからあたしをにらみつけたのがわかった。
ギクリとしてしまう。
「ならば、そいつらも従者として連れていけばいい。もっとも、お前に幼皇さまのお心遣いを断る権利などない」
厳しい言葉に、あたしはただうつむいて承諾するしかなかった。
幼皇さまに逆らえるはずなんてない。
それは痛いほどわかるわ。
あたしはため息を小さくこぼし、首を縦におろした。
『な〜んか、気に入らねぇなぁ』
トカゲが去ると、喜助が大きな口で欠伸をしながらやってきた。
髪には寝癖がついて、目には欠伸のせいで涙が浮かんでいる。
「おはよう」
あたしはまた深くため息をこぼし、彼を見やる。
『あいつだろ、この間の晩に見張ってた奴は』
欠伸を再度しながらも、彼の目は油断ならない。
思わず感心してしまう瞬間だ。
「そうよ。それより、話聞いてた?」
うなだれたように言うと、喜助は小首を傾げながらも答える。
『ああ。宮へ行くとかなんとか、だろ』
あたしはゴクンと生唾を呑み込んだ。
喜助は……ついてきてくれるかしら?
宮へなんて行ったことがないし、正直空弥とふたりだけというのも不安だ。
なにかあったときに、もしも喜助がいてくれれば――彼の強さがあれば――心強かった。
宮へ行くということは、この地から離れたことのないあたしたちにとっては未知の世界に行くようなものだ。
不安じゃないわけがないではないか。
あたしはじっと目を離さないまま、そうして彼を観察するように見つめながら、ゆっくりと言葉を選んで言った。
「もし、ね……喜助さえよければ――その、一緒に行ってくれないかな?あたしたちと、宮へ」
『ああ、いいぜ。どうせおれもそのつもりだったし』
ああ、やっぱりだめだったか……
……ん?
あたしは伏せた目をもう一度喜助に向けた。
彼はニカッと笑っている。
今、彼、言いましたよね?
一緒に行ってくれるって、言った!
あたしは言いようのないうれしさに満たされ、思わず喜助の手を握りしめてよろこんだ。
「わあ!本当にありがとう、喜助!」
喜助が一緒ならば心強い。
未知の世界へだって行ける気がした。
「宮へ行くの?!」
夜。
空弥にそのことを話すと、目をきらきらさせてそういう答えが帰ってきた。
「宮って、幼皇さまってエライ人の住むところでしょ?すごい!」
こういうとき、やっぱり空弥は男の子なんだって実感する。
恐れより好奇心。
細かいことは気にしないというか、呑気というか。
心配性のあたしにとっては迷惑な話だけれど、空弥はこれでいいのだと思う。
なんだかんだ言って警戒心は人一倍あるし、なにより恐れを知らないことはいいことだ。
未知の世界へ自ら飛び込むことは、男の子には必要なはず。
行くしかない……
なにか企みがないとも言い切れないけれど、こちらには喜助がいる。
そう思うと、自然に心は軽かった。
「出発は、三日後らしいわ。それまでに旅をできるくらいの準備はしておいてね」
『そりゃあ、急だな』
喜助はそう言ったものの、あまり困っている様子はなく、呑気な調子で笑う。
なんだか急に心配になってきて尋ねてみた。
「ねえ、喜助は荷物とか、ないわけ?家族に連絡したり、いろいろあるんじゃないの?」
『ああ、大丈夫だろう。こんな時期だし、家の者にはしばらく留守にするって言ってあるし』
問題ない、と付け加え、彼はゴロンと横になった。
『こんな時期』だとか『家の者』だとか……
喜助は本当に謎だらけだ。
普通ならここで信用していいのか疑うところだろうけれど。
喜助に限って、そんな必要はないと思う。
よくわからないけれど、そんな強い確信があたしにはあった。
「なんか、お兄はどこかの王さまみたいだねー!」
キャハハ、と笑いながら空弥が言った。
なるほど、王さまね。
『そうだぞぉ。オレサマは、この世界の王さまなんだ』
ケケッと顔をゆるめ、襲いかかるように喜助は思いっきり空弥をくすぐる。
すぐに笑い声であふれ、あたしも思わず笑ってしまう。
本当、このふたりは本物の兄弟のように打ち解けたなぁ。
思わずゆるむ顔を隠し、あたしはそんなふたりをながめていた。
ふいに、ああ、幸せだなぁと感じる。
こんなふうな『幸せ』なんて、めったにないのではないかしら?
いつまでつづくのだろう……
あたしはいつまで、笑っていられるのだろう?
幼皇さまがあたしを見捨てるまで?
空弥があたしから離れるまで?
喜助がいなくなるまで?
それがいつなのか、わからないけれど――
たしかにそのまっくらな闇が迫ってきているようで、不安に駆られる。
怖くなる。
このあたたかな幸せを失うのが、ものすごく怖いのだ。
幸せをだれが奪うのか、なにが奪うのか、見当もつかないけれど。
深呼吸し、あたしはもう一度よく喜助と空弥の笑いあっている姿に目をとめる。
この光景を、焼きつけておこう。
どんなことがあったって、今は幸せなのだ。
幸せだったのだ。
それはマガイモノでも偽りのものでもない。
確実にあった真実なのだから。
もう一度、この家に戻ってこれるだろうか。
言葉にできない不安が次から次へと押し寄せては、胸騒ぎを確固たるものにしていくようで恐ろしい。
笑い声の響くなか、あたしだけは――
泣きたいほど、悲しみに沈んでいた……
『加世』
唐突に、ふっとやさしい眼差しをあたしに向け、喜助が言った。
『なに落ち込んでる?オレサマがいるから、心配することはないぞ、小娘』
その満ち満ちた自信に、ゆるぎのない眼に、対照的な柔い声音に、ぎゅっと心臓が包み込まれる。
どうしてわかったのだろう。
どうしてほしい言葉をくれるのだろう。
どうしてあたしは、こんなにも彼の言葉で強くなれるのだろう。
「お姉、大丈夫だよ!ぼくもいるもん」
にっこりと笑い、空弥はあたしに抱きついてきた。
こんなにも、頼もしくなったんだね。
涙は見せない。
泣いてたまるか。
絶対に、なにがあっても、戻ってきてみせる。
あたしはまっくらな不安と胸騒ぎを押し込めるように深呼吸し、弟と彼を見つめた。
大丈夫。
あたしには彼らがいる。
『加世』
喜助は再度あたしの名を呼び、ぐしゃぐしゃと頭をかきなでた。
それが心地よくて、思わず泣いてしまった。