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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第二部 鴉の娘
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******





『どうかしたのか』


そんなふうに訊かれ、あたしはちょっと戸惑う。

なんだかもやもやした気持ちのまま、それはなかなか晴れることがない。

……それはきっと、トカゲのせい。



彼はあたしの仕事部屋、つまり隣の小屋に寝泊まりすると言って聞かなかった。

食糧もなにもいらない、仕事道具には一切触れないと約束したので、仕方なく泊めてやることにした。

もっとも、彼の言うことに逆らう気などもともとない。

それはあたしの身にも危険が及ぶだろうから。




喜助はいつものように隅でうずくまるようにして寝た。

空弥はもうすっかり喜助に気をゆるしたのか、すぐにぐっすりと眠ってしまった。

あたしも眠ろう……そう思って目を閉じた瞬間、手があたしの肩を抱き寄せた。

ぎょっとして声も出せずにいると、あたたかなぬくもりが強くあたしを抱きしめる。


「あ……ちょっ、なにするの!」

あわててそれだけを言ったものの、あたしを抱きしめたままの彼、喜助は無言でそっとあたしの首筋に顔をうずめてきた。

彼の吐息がそこにかかり、甘い痺れがくる。

一気に頬は熱を帯び、心臓はただごとではない悲鳴をあげる。

隣では空弥が心地好さそうに寝息をたて、隣の小屋ではあのトカゲがいるのに……


どうしよう?!

というか、どういうこと?!

そんなふうに考えていると、耳元にやさしい彼の声が落ちてきた。



『――なぜ見張られている?』



……え?

びっくりして彼の顔を見ようとしたが、強引に顔を抑えられ、また抱きしめられる形となる。

『喋るな。怪しまれる……』

喜助はなおも鋭い響きを持った声で言う。


怪しまれる?

見張られている?


『覆面男が先程からずっと見張っているのだ。あれは敵か?』

覆面男、という言葉ではっとした。

たしか、トカゲはあたしが客人がいると言ったら警戒していた。

小屋に寝泊まりするということは、あたしが怪しくないか見張りをするということだったのか……

ゾクリと悪感がして、あたしはぬくもりがほしくて喜助を抱きしめかえした。



恐い――恐い恐い恐い!



『殺るか』

静かに、まるで『寝るか』とでも言うかのように、喜助はさらりと言った。

しかし、ここで不自然な行動をとれば幼皇さまに逆らったも同然。

あたしは首を小さく振って、唇を噛み締める。

喜助の顔はよく見えなかったが、彼も小さく頷いた気がした。




それよりも、やっぱり喜助はすごい。

トカゲはいつも気配がなくて、ときどき人形じゃないかと思うことだってある。

それなのに喜助は、今彼が見張っていると見破ったのだ。

トカゲだって幼皇さまの使者だ……たぶん、かなりの忍なんだと思う。

喜助って何者?



「……喜助――」

『あーごめんごめん!』

いきなり喜助はあたしを放し、やや大きめの声を出して笑った。

『人肌が恋しくてさ〜。でも心配するなよ。お子様には手を出さないから』

ニカッと八重歯を見せてそう言うと、彼はまたもとの部屋の隅で寝転がった。


――すごい。

喜助ったら、怪しまれることなく事を片付けてしまったではないか。

あたしもわざと頬を膨らます。

「冗談でもやめてよ。心臓に悪いわ」

喜助はニヤリと口の端をつり上げ、小さくおやすみとつぶやくと、すぐに寝てしまった。

あたしも目を閉じながら、トカゲの警戒をどうやって解こうかと思案した。

今もどこかで見張っているのではないかと思うと、変に怖くて寝つけなかった。




見張られている。

怪しまれている。


――殺されるかもしれない。




トカゲは従順すぎる使者であり、凄腕の忍でもある。

すこしでも幼皇さまの非になるようなことがあれば、利益にならないことになれば、あたしを殺すなど容易いことなのだ。

あたし……サソリが毒を扱い、幼皇さまに献上していることは極秘。

あたしの毒は幼皇さまだけのもの。

この猛毒は他のだれにも知られることは赦されないから……




守らなくちゃ。

生きなくちゃ。


まだ、死ねない。

死にたくない。




あたしは深呼吸し、目を強く閉じた。

怪しまれちゃいけない。

ここで崩れるわけにはいかない。

あたしは……空弥を守るから。


父母のぬくもりを、あたしよりも空弥は知らない。

満足に村の子供たちと遊ぶこともしらない。

幸せなんて、欠片も知らないかもしれない。

それでも――空弥はいつも笑ってくれるから……


あたしはその笑顔に報いたい。

強く、ありたい。



強くそう思い、再び硬く目を閉じる。

部屋には空弥の吐息だけが、心地好さそうに響いていた。



これから一ヶ月くらい更新はかなり遅め。

下手したらできないカモ・・・です。


すいません、見捨てないでくださいませ笑

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