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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第一部 鴉の姫
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第三章 指輪


【第三章 指輪】







*****


黒い鳥たちは、すぐさま暴れだした。

鋭い嘴をつきつけ、飛び回り、敵の攻撃にすばやく対応する様は、目を見張るものだった。

中でも、喜助は異様なまでも華麗であった。

刃をかわし、宙に舞い、はばたく。

見とれるほど妖美であった。



夜呂と高安は、半ば茫然としてつったっていた。

ただただ彼らの動きに目を奪われるばかりだった。

残虐さが、美しく見えてしまうのは……

一種のまやかしのようなものなのだろう。

辰迅たちはすぐさま悲鳴をあげ、刀をぶんぶん振り回すものの、それはあっけなく空を切るばかりだった。


やがて、喜助の鋭い鳴き声とともに、大柄な男がうめき声をあげて膝をついた。

目からは大量の赤いものが流れていた。

「夜呂、見るな」

あまりの光景に、高安は顔を歪める。

彼の声で我にかえった夜呂は、すぐに別のこと――姫のことを思い出した。



「姫!」

彼女はぐったりと横たわっていた。

紅い血が広がり、鉄のにおいが鼻をついてくる。

目がくらみそうになる。

「これは毒矢だ」

高安がゆっくりと言って、矢を抜こうとする手をとめた。

たちまち傷が広がることに気づいたからだ。

どうしようもなく、うろたえるふたりのもとに、一息つけに喜助が戻ってきた。

嘴は血にぬれていた。


『ああ、人間、おれが取る』


そう唸ると、喜助は嘴に矢をはさみ、スッときれいに引き抜いた。

たちまち傷が広がり、ドクドクとおびただしい血が流れだす。

烏はちょっと首をかしげ、それからガラガラした声で呼びかけた。

『姫、姫。お前は死んでしまうのか?』



――姫を殺したやつは許さない。

姫を傷つけたやつは容赦しない。

だって姫は屋敷の主。



『いつまで寝ているんだ。姫はまだ目覚めてない。早く……』

あとの声はよく聞き取れなかった。

やがて、喜助は再び宙に舞った。


『さ、姫を屋敷に運んで』

喜助と入れ替わりに朱楽が飛んできた。

面倒くさそうに嘴をカタカタ鳴らす。

夜呂も高安も、姫を見て驚き、唖然とし、ほうけてしまった。

矢がつきささった傷は、跡形もなく消えていた。

夜呂は今一度、喜助の飛び去った方向に目を向けてみたが、そこにはもう烏の姿はなかった。

辺りは血のにおいにつつまれ、辰迅たちの生きていた証は消滅して、その気配さえないようだ。




静かに無表情のまま、夜呂は姫の顔にふれた。

白く、どこまでも優美で気高い、姫だった。


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