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鴉の子  作者: 詠城カンナ
第一部 鴉の姫
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******



――喜助?




喜助の声が、においが、気配がする。

わたしはゆっくりと目を開けた。


……不思議だった。

息ができるような錯覚に、痛みを感じない麻痺状態で、わたしはなんとか起き上がった。

立つことはできなかったが。

はぁ、と息を整えると、わたしは神経をとがらせた。

なにが起こっている?



――だいたいわかった。

喜助、殺しちゃだめ。

ああ、たぶん、これが最後の力。

喜助、わかって。

これはわたしの意思――



「夜呂と高安を全力で守れ」



自分でも驚くほど、大きくはっきりとした声だった。

わたしの声が、その命令が、大きく響きわたる。

屋敷に、木々に、風に、羽音に木霊して、その響きはみなの耳に届いた。

喜助が、夜呂が、高安が、みんながわたしに顔を向け、驚きの表情になる。

ああ、みんな生きている。

これからも、きっと生きていく。

そう思うと、心は軽かった。

わたしはにっこり笑う。


「これは命令……わたしはこの屋敷の主だもの」


どうか、わかって。


喜助はじっとわたしを見すえた。

まっくろな眼がわたしを捕らえ、吸い込まれるような錯覚を生む。

やがてふっと息をつくと、空を飛び、旋回している烏たちに向かって吠えた。

『姫の命令だ!このチビとそこの人間を全力で守れ!!!』

了解の合図に、烏たちはそれぞれ気高く鳴いた。

黒い黒い点の烏たちが、それぞれにはばたき、動きはじめた。



……よかった。

喜助、ありがとう。



夜呂……

わたしもあなたをもうすこし、知りたかった。



最後に、かすかだけど聴こえたのは――烏の鳴き声と、人間の叫び。


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