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――喜助?
喜助の声が、においが、気配がする。
わたしはゆっくりと目を開けた。
……不思議だった。
息ができるような錯覚に、痛みを感じない麻痺状態で、わたしはなんとか起き上がった。
立つことはできなかったが。
はぁ、と息を整えると、わたしは神経をとがらせた。
なにが起こっている?
――だいたいわかった。
喜助、殺しちゃだめ。
ああ、たぶん、これが最後の力。
喜助、わかって。
これはわたしの意思――
「夜呂と高安を全力で守れ」
自分でも驚くほど、大きくはっきりとした声だった。
わたしの声が、その命令が、大きく響きわたる。
屋敷に、木々に、風に、羽音に木霊して、その響きはみなの耳に届いた。
喜助が、夜呂が、高安が、みんながわたしに顔を向け、驚きの表情になる。
ああ、みんな生きている。
これからも、きっと生きていく。
そう思うと、心は軽かった。
わたしはにっこり笑う。
「これは命令……わたしはこの屋敷の主だもの」
どうか、わかって。
喜助はじっとわたしを見すえた。
まっくろな眼がわたしを捕らえ、吸い込まれるような錯覚を生む。
やがてふっと息をつくと、空を飛び、旋回している烏たちに向かって吠えた。
『姫の命令だ!このチビとそこの人間を全力で守れ!!!』
了解の合図に、烏たちはそれぞれ気高く鳴いた。
黒い黒い点の烏たちが、それぞれにはばたき、動きはじめた。
……よかった。
喜助、ありがとう。
夜呂……
わたしもあなたをもうすこし、知りたかった。
最後に、かすかだけど聴こえたのは――烏の鳴き声と、人間の叫び。