呪われた名門
藤村が「神社に行く」といったことに腑に落ちない孝哉は公平から声をかけられる。
「孝哉は地元の人間じゃないから知らないのか、神奈川じゃ有名な話なんだが」
公平の前置きから話は続く。明城学院は今でこそその辺にいくらでもある中堅校だが、少し前までは甲子園の常連校で春夏合わせて3度の全国制覇を成し遂げている名門であった。
「ところが、20年前の夏の甲子園を最後に、急速に弱くなっていったんだ。これを神奈川の関係者は【明城の呪い】って言い始めたわけだ」
孝哉が理由を聞こうとするが、公平にも知らないといわれてしまい、話を切り上げられる。
寺に到着した部員たちを、神主が迎えてくる。
「今年もお祓いの季節が来ましたか。それでは、寺の中にみなさんお入りください」
神主に案内されて、寺の中に入っていく部員たちは、神主の指示で正座すると、長い儀式のようなものが始まる。足のしびれに眠気を打ち消されながら、部員たちは儀式を見守った。
儀式が終わり、寺の外に出た孝哉たちは、そのまま学校へと帰っていく。
「さて、今年のお祓いは済ませた。それでは、翌日に向けて体を休めてほしい。それでは解散!」
藤村の一言で初部活は締められた。
「【明城の呪い】と言ってたけど、実際のところはジンクスだろ?」
その帰りのバス、孝哉は公平にそういう風に切り出してきた。公平はその意見を聞いて、少し考え込む。
「うーん、そうなのかもしれないが、うちが20年も甲子園に行ってないのは事実だからな」
その公平の声に反応するように敬介が会話に加わってくる。
「確かに。うちの急速な衰退はオカルトチックですが、果たして本当に呪いなんてあるんでしょうかね?」
敬介の発言のあとに続くように、バスの停留所のアナウンスが流れ、孝哉たちはバスを降りる。そして、逆方向になる孝哉は二人と分かれて帰宅していく。
「ただいま」
「おかえり、孝哉」
帰宅した孝哉に対して、みのりの声が聞こえてくる。父は帰宅が遅いことが多く、「おかえり」と言われることなんて滅多になかった孝哉にとって、「おかえり」はすごく新鮮な言葉だった。
孝哉はそれを、夕食のときも感じていた。一人で食べることも多かった夕食だったが、人と食べる夕食の楽しさを感じるようになった。
「そういえば、みのりは部活何にしたの?」
夕食中に、和泉がみのりに話しかける。みのりの部活はなんなのだろうか、確かに孝哉も気になっていたことだった。
「私はね、演劇部にしたの」