新入部
入学式から一週間が経ち、部活たちの勧誘合戦も収まりつつある日の放課後。孝哉、公平、敬介の三人は他の入部希望の生徒と共にグラウンドにて整列していた。
「えー、俺が監督の藤村俊だ。1年D組の担任をしている。D組の生徒にはすでにいっているが、前もっていっておく」
藤村はそう言って、髪型の自由を新入生に保証した。孝哉は藤村の一言を受けて茶髪のままにしていた。
「今回は早く来た順に右から並んでもらっている。左から順に自己紹介してくれ」
藤村がそういうと、いちばん左にいる生徒が自己紹介を始める。そして、孝哉の左隣の人間が自己紹介を終える。
「次!」
「はい、氷室孝哉です。ポジションはピッチャー、右投げ左打ちです。よろしくお願いします」
孝哉が自己紹介を終えると次はその右隣の公平が自己紹介を始める。
「沢木公平です。ポジションはキャッチャー、右投げ右打ちです。よろしくお願いします」
「張本敬介です。ポジションはセカンド、右投げ右打ちです。よろしくお願いします」
公平が自己紹介を終えると、その次は敬介が自己紹介をし、さらに右隣の生徒が自己紹介をしていく。右端の生徒が自己紹介を終え、藤村は再び喋りはじめる。
「野球部は上下関係にうるさいと言われがちだが、この学校ではそれほどうるさくはない。安心して打ち込んでほしい」
藤村によると、自分の雑用は自分でこなすを部のモットーにしているため、雑用を自分から押し付けることはしないのだという。
「それでは、ポジションごとに並んでくれ」
藤村の指示に従う形で、選手たちが並ぼうとするが、並ぶことしか指示を与えなければ、混乱するのは目に見えていた。すると、孝哉は後ろから手を引かれる。
「投手はこの茶髪の後ろ、野手はこのガッチリした色黒の後ろに並んでくれ」
声の主は敬介だった。敬介は孝哉と公平を並べて、他の選手も投手と野手に分けた。藤村は驚く、例年なら、混乱する選手たちをまとめるにはもう少し時間がかかるのだ。近年は自主性のない子が増え、誰もすぐにはまとめようとせず、評価アップを目的に声を出す選手へ反発する選手達が出てくるが、敬介は率先してまとめることで反発する前にチームを整列させてみせたのだ。
「ほう、今年は早いな、張本迅速な行動だったぞ」
そう言って、藤村は敬介を労うと、投手の最前列にいる孝哉を見て小声で昨日の謝罪をすると、次の指示を出す。
「今日は練習内容を体験してもらう。投手と捕手はついてこい、それ以外はグラウンドへ行ってくれ」
そうすると孝哉たち投手と、野手列の一部が抜けていき、藤村へとついていく。
バッテリー組と野手組の再合流は日が暮れてからだった。集まった部員全員に藤村が号令をかける。
「今日はここまで、これより神社へと向かう」