入学式
あれから数日が経ち、日付は四月へと変わっていき、桜が舞っていた。
「みのり、行くぞ」
玄関で青いブレザーに赤いネクタイ、グレーのスボン、明城学院の制服を着た孝哉が玄関でみのりを待っている。
「ああ、ちょっと待って」
階段を降りてくるみのりは孝哉と同じブレザーを着ており、赤いリボンと赤を基調にしたチェックのスカートを着ている。
「行ってらっしゃい、みのり、孝哉さん」
和泉に見送られて、孝哉とみのりは家を出た。
「孝哉、いよいよ入学式だね」
みのりは登校中に孝哉に話しかける。
「ああ、そうだな」
孝哉が返答すると、公平と敬介に出会う。
「オス、みのりと孝哉」
「おはよう、みのりたち」
公平が先に声をかけると、敬介も遅れて声をかけた。
「うん、おはようございます」
みのりが二人に挨拶すると、孝哉を肘でこづく。そのこづきに気づいた孝哉も挨拶をする。
「ああ、おはよう」
四人は明るく話しながらバス停まで歩いていき、バスを待っていた。
「孝哉、覚えてる? 6つ目だよ」
「停留所の名前を聞けば分かるだろ? 明城学院前って名前なんだから」
バスの中でみのりが孝哉に念を押すように話しかけてくる。
「仲がいいねえ、お二人さん」
「まあ、孝哉だし間違いは起こらないと思うけど」
公平と敬介が思い思いに二人を冷やかしている。
「何を想像しているんだお前ら」
「次は明城学院前、明城学院前でございます」
孝哉が冷やかした目で二人を見ていると、アナウンスが流れ、孝哉は降車ボタンを押した。
校門をくぐり、桜の木が迎えられながら体育館に向かって歩く一年生たち。体育館の入口では教師たちが紙を配っていた。紙にはクラス割りが書いてあり、クラス毎に来た順で前から座るよう司会者から指示されていた。
「孝哉、やったね!同じクラスだよ1年D組」
みのりは嬉しそうに孝哉の横に座る。
「しかし、お前本当にきれいになったよな」
「え……!?」
孝哉の発言を聞いてみのりの顔がほんのりと赤くなる。
「あ、いや、そういう訳じゃなくてさ」
そういって孝哉はみのりから目をそらし、四方八方から浴びせられる殺気にも似た男子たちの視線を交わそうとしていた。
校長や長い挨拶を右から左へと聞き流し、担任の発表が始まる。1年D組は藤村俊という年配の男性であった。藤村に案内され、教室へと入った孝哉たちは席割りをされたのち、藤村から自己紹介を受ける。
「俺は藤村俊、担当強化は英語、野球部の監督もしている。野球部と聞くと坊主頭が敬遠されて衰退傾向にあるが、プロを見ても分かるように髪型とパフォーマンスには因果関係はない!」
そう言って、藤村は孝哉を指差す。
「そこのような茶髪でも、野球部は歓迎だ。髪型は自己責任のもと、自由を保証する。お前らもオシャレに気を使う年頃だからな。じゃあ、自己紹介だ」
そう力説したのち、藤村はこう続ける。
「よし、みんなも自己紹介してくれ、じゃあ、出席番号順にな」
そう言って出席番号順に自己紹介が始まる。すると孝哉は隣にいる男子に話しかけられる。
「災難だね、君も」
「ああそうだな、オレは氷室孝哉だ、君は?」
「ああ、僕は吉永遥斗、よろしく、それより君と入学してきで話していた女の子かわいかったな、ほら、今自己紹介してる子」
遥斗にそういわれて黒板の方を見ると、みのりが自己紹介をしていた。
「川島みのりです。よろしくお願いします」
「ああ、そうだな」
孝哉は遥斗の問いにそう返しておくだけだった。