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孝哉の第1球

「孝哉覚えた? 6つ目の停留所だからね」

 帰りのバスを待っている最中、みのりは孝哉に口酸っぱく停留所の数を伝えている。

「お前はそれを何回言う気だ」

「千回教えても覚えずに尋ねて来る気がする」

 さすがに辟易していた孝哉の問いに対して、みのりにしては珍しく毒舌が出る。

「そんなわけあるか、豚じゃあるまいし」

 孝哉がそういうと、帰りのバスがやって来た。


「おや、みのりじゃないのか?」

 バスの中で一人の少年が、みのりに声をかける。

「あ、敬介くん」

 敬介と呼ばれた少年は隣にいる孝哉に向かっても話しかける。

「公平がいってた時はちょっと疑ったけど、本当に越してきたんだな孝哉」

「お前も相変わらずだな、敬介。公平たちと同様に野球やってんのか?」

 孝哉は敬介に話しかけられて応答し、質問をしてみる。

「まあな、今は硬球を使って練習してるんだよ」

 リトルリーグやシニアリーグを除けば、中学野球までは軟球であるが、高校からは硬球を扱うことになる。硬球と軟球ではバウンドや縫い目の違いがあるため、早いうちに慣れておこうという訳らしい。

「そういえば敬介くん、孝哉もね、明城学院ではチームメイトになるんだよ」

 二人の会話に入り込むように、みのりが敬介に話しかける。すると敬介はポジションを孝哉に尋ねてくる。

「ポジションはピッチャーで右投げ左打ちだ」

 孝哉が答えると、敬介はそれに相づちを打ちつつ降車ボタンを押す。

「次の停留所か、じゃあ孝哉今日河川敷に来るか?普段は公平と二人だから、キャッチボールしかしてないけど、三人ならノックができるようになるからさ、来れるなら来てくれよ」

「ああ、和泉さんに聞いてみるよ。来れたら行く」

 停留所に到着して、三人が降りると孝哉たちと敬介は別の方向に歩き始めようとするが、みのりがここで口を開ける。

「孝哉、行ってていいよ。あとでグローブは渡しに行くから」

 少し驚いてから孝哉は冷静になって、みのりに反論する。

「とか言ってるけど、オレのグローブがどこにあるのか知ってるのか?」

 孝哉としてはグローブの場所がわからなくて部屋を漁られたりするのは嫌だったのだ。

「勉強机の左側にフックで吊るしてあるよね?」

 それを言われた孝哉は驚愕する。いつの間に部屋を見たんだと思いつつ、孝哉は敬介についていくことにして、みのりに依頼した。

「うん、任せて!」

 そう言って信号を待つみのりとは逆方向の河川敷へ敬介に案内される形で、孝哉は河川敷のグラウンドにやって来た。


「公平、こいつもやって来たぞ」

 敬介が公平に対して後ろの孝哉を指差す。

「孝哉じゃないか、孝哉も野球やってるのか?」

 公平が孝哉に向かって問いかけてくる。

「ああ、オレはピッチャーだ。公平たちは?」

 孝哉は自分のポジションを話してから、公平に尋ねる。

「俺はキャッチャーでこいつはセカンドだ」

「というわけだ、そろそろ準備体操しようぜ」

 公平が二人分のポジションを話したあとに、敬介の発言から準備体操を始める。ランニングとストレッチを済ませる。

「お待たせ~」

 三人の元にやって来たのは、バスケットを片手に持ったみのりであった。

「はい、これ」

 みのりはバスケットの中から、黒いグラブケースを取り出して孝哉に渡す。ケースの中からは青いグローブが出てきて、孝哉はそれをはめる。

「はい、公平くんと敬介くんにも」

 バスケットの中からスポーツドリンクのペットボトルを渡す。

「じゃあ、軽く投げてみるか」

 公平が声をかけると、三人はキャッチボールを開始する。少しずつお互いに離れていっていき、少しすると公平が孝哉の元にかけよって声をかける。

「孝哉、肩はできたか?」

「え、ああ」

「じゃあ、ちょっと投げてみてくれ」

 そう言って、二十歩ほど離れた地点に戻って公平はしゃがむ。それを見た孝哉は振りかぶって左足を上げて、弓のように右腕をしならせてボールを放る。

 公平のミットからは小気味良い捕球音が響いた。


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