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贈り物

「孝哉さんの部屋は二階に上がって左のいつも泊まっていた部屋です。ベッドや机などは配置しましたけど、段ボールはそのままなので、自分で整理しておいてください。夕食はしゃぶしゃぶにしますので、その時は呼びますから」

 和泉はそういってから、リビングへと戻っていく。しゃぶしゃぶの準備をはじめに戻ったようだ。

「そっくりだな、自主性を重んじるところ、やっぱり兄弟なんだな」

 孝哉は自らの父とその妹である和泉が似ていると思いながら、自室として与えられた部屋へと向かった。

「ふう、漫画とか読むのも数日振りなんだな、ま、並べてからゆっくり読むか、しかし転勤の話でうやむやになったせいでテレビ買ってもらえなかったな、ゲーム機置いていいか和泉さんに聞かないと……」

 孝哉は段ボールから漫画を取り出すと、しみじみとつぶやきながらすでに置かれている本棚に並べていく。そして、野球用品などの道具を順調に出していき、箱が最後の一つとなったとき、孝哉は違和感を感じた。


 すべての荷物を出したはずだ、と。


「孝哉さん、夕食の支度が出来ましたよ」

 和泉の声が聞こえたので、孝哉は食卓へと向かう。食卓の上には鍋とコンロが置いてあり、その周囲には二人分の肉があった。

「あれ、みのりは?」

 和泉が呼んだのにもかかわらず、みのりは来ていない。孝哉は気になって和泉に尋ねてみた。

「ああ、みのりならお友達と一緒にバーベキューをしに行きましたよ」

 和泉によると、みのりも数人の友人と進路が分かれてしまうため、お別れパーティーとして河川敷でバーベキューを行うそうだ。昼間に牛丼屋で苦手な紅ショウガを山盛り食べさせられた自分の惜別会とは大違いだと思いながら、孝哉はもう一つの質問を和泉に尋ねる

「そういえば、実家から持ってきたテレビゲーム機なんですが、この家のテレビにおいてもいいですか?」

「ダメです。まだ荷物を整理しきってないんでしょ、さ、早く食べましょ」

 和泉に促されて席に座った孝哉は釈然としない答えに悶々としつつも、しゃぶしゃぶの味を堪能したのだった。

「ごちそうさまでした」

「さあ、孝哉さん、荷物を整理してきてください、食器は私が片づけておきますから」

 孝哉が箸を置くのと同時に、和泉は孝哉を部屋に戻すように促す。あと一つなのに、と思いながら孝哉は自室に戻り、不審な箱の最後の一つを開けた。


 そこに入っていたのはテレビであった。箱のふたの裏側には手紙がくっついていた。


 孝哉へ

 すまない、せっかく野球の強いところの推薦をもらいながら、フイにしてしまって。お前は「寮のあるところの特待生になれなかった力不足」と言ってくれる優しい子だけど、父さんにはその優しさに応えられないことを不甲斐なく思う。テレビを入学祝いに買うと約束したのに、転勤の話でうやむやになって買えずじまいになりかけてごめんな、でも父さんはどうにか約束を守ったぞ。お前も「世界でいちばん熱い夏のダイヤモンド」を目指して頑張ってください。


 昌紀より


 「父さん、オレ頑張るよ」

 孝哉は新たに決意表明をしたのだった。

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