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再び出会う人たち

「さてと、叔母さんたちはどこにいるのかな?」

 新横浜の駅を降りた少年は、そう言って辺りを見渡す。彼の探しているのは彼の叔母、父親の妹であった。すると、彼はひとりの少女から声をかけられる。

「あれ、孝哉だよね」

「お前、もしかしてみのり?」

 少年を孝哉と呼んだ少女は、みのりと呼ばれて問い返される。

「うん、みのりだよ。久しぶりだね孝哉」

 みのりはそう言ってから、微笑んで孝哉に挨拶をする。

「ああ、そうだな、6年ぶりだっけか?」

「うん、孝哉が来てなかった6年間でこの町も大分変わったんだよ!」

 孝哉が簡潔な返事をして次の質問をすると、みのりは大きく頷き、嬉しそうに孝哉へ返答する。すると、みのりは孝哉の手をとって言う。

「そういえば、和泉さんは?」

 和泉さんとは、孝哉が先ほど言っていた叔母であり、みのりの母親でもある。

「お母さんも家で待ってるからもう行こうか」

「ああ、そうだな」

 孝哉が了承するとみのりに案内されながら、孝哉とみのりは駅を出た。


「今日はエスエスがアリーナでライブやるんだったな」

 エスエスとは現在人気沸騰中のバンドSmoking scientist (スモーキングサイエンティスト)の略称である。バンド名の意味は「タバコを吸う科学者」禁煙を推奨するにも関わらず、タバコを平然と吸う科学者を風刺しているらしい。

「え、スモサイじゃないの?」

 孝哉の略称に異議を唱えるみのり、確かにスモサイと略すのが世間的には一般的であった。

「サンデーサイレンス並に売れているんだからエスエスでいいだろ」

「そんなの、孝哉みたいに競馬が好きな人の屁理屈だよ」

 ちなみにエスエスとは競馬で一時代を築き、孝哉のセリフにも出てきた大種牡馬の略称である。

「まあ、どっちでもいいだろ、略称なんて人それぞれだ」

「そんなこと言ってると、どこかで困るよ?」

「困った時に対処すればいいさ」


 二人はアリーナの人混みを抜けて、河川敷沿いに歩いていく。金属音が響く。どうやら、青年と少年の中間くらいの男たちが野球の練習をしているようだ。

「ねえ、孝哉は高校に入っても野球をやるの?」

 みのりは孝哉にそう尋ねてくる。孝哉は野球をやっていた。チームに入ってからはみのりの住むこの町に来れる時間がなかなか取れずにいたが、こうして下宿という形で同居することになった。

「まあな、世界でいちばん熱い夏のダイヤモンドを目指したいからな、父さんについて行ったら目指せなくなるだろ?」

 孝哉の家庭は父子家庭であったが、父昌紀の海外への赴任が決まってしまったことで、急きょ、従妹のみのりが住むこの町に引っ越してきたのだ。

「確かに、心のどこかに錆びた夢を抱えてるくらいなら、思いっきり夢追いかけたいよね、昌紀伯父さんの行動は当たってると思うよ」

 みのりがそういうと、金属音と共にボールが転がってくる。孝哉はそれを拾ってから見上げると、河川敷の方から、1人のがっちりした体格の少し色黒な男がやってきた。

「あ、拾ってくれてありがとうございます。あれ、みのりちゃんってことは……横の男は孝哉か?」

「当たりだ、えっと……公平だったか?」

 横の男に尋ねられた孝哉は男に対して尋ね返す。

「おお、よくわかったな、小さい頃はみのりちゃんや敬介と共に遊んだ仲だけはあるぜ、じゃあな、敬介にも伝えとくよ」

 公平という名前の男はそういうと、孝哉からボールを受け取って河川敷に戻り、孝哉たちは河川敷から降りてみのりの家を目指し始めた。孝哉が話しかける。

「なあ、公平たちも野球やってるのか?」

「え、うん。公平君たちも私たちと同じ学校に通うから、チームメイトになるんじゃないかな」

 孝哉の問いにみのりが答える。その後も二人は話題が尽きないまま、みのりの家に着くまで話し込んだ。


「ただいま」

「お邪魔します」

「おかえり、みのり。孝哉さんもただいまでいいんですよ。3年間あなたが住む場所なんですから」

 孝哉が家に上がると、みのりの髪を短くしたような感じの女性が出迎えてくれる。この人が和泉叔母さんであった。


 再会を重ねながら、孝哉の高校生活が始まろうとしていた。

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